DX の心技体【10】組織力を上げること(横断組織、俊敏性、爆速、Agile)
組織力とは?その意味
『DXを進めるための心技体』の最終回となる今回のテーマは、DXロードを進める上で不可欠なものとなる「組織力を強化する」というものです。
DXを進めて行くためには、その推進力としての「組織力」が必要であることを今回解き明かしたいと思います。不確実性の高まるニューノーマル時代において、真にサステナブル(持続可能)な組織を構築するために、組織の変革力を高めることが求められていることにも繋がるテーマになります。
そもそも組織力とは、所属する人員の大小ではなくそこに存在するメンバーのスキルやマインド・カルチャー、それをを動かす動機や仕組みまでを含めて測られるべきものと考えられます。変革のスタート時点ではたとえそれが不十分であったとしても、DXへの道のりを重ねた結果としていつの間にかそうした力が備わっていることがあることに改めて気づくことも往々にしてあるのではないでしょうか。
2023 WORLD BASEBALL CLASSICでは、侍ジャパンが劇的な優勝を飾り、世界中がこのニュースに盛り上がり感動の渦に巻き込まれました。MVPの大谷翔平選手の超人的活躍や米国から参加したラーズ・ヌートバー選手の人気と盛り上げなどもありましたが、なんといっても14年ぶりの優勝を目指し、練習の段階から優勝の瞬間まで一丸となって成し遂げたチーム力の貢献・功績が大きかったように思えます。試合に出る選手だけでなく控えの選手や監督・コーチ・スタッフがそれぞれの役割を十二分に発揮し、全員で勝利に貢献できたこと。後日談を聞いてもよくわかりました。まさにチームそして組織としての心技体の充実ぶりが金メダルに導いたことを改めて実感できた出来事だったと言えます。
さて、組織力を語るにあたって組織とは何なのか?について改めて整理しておきましょう。
組織の一般的な定義としては、目的を達成するためにそれぞれの役割を持つ個人やチームが構成されている団体であるとされます。
広辞苑によると、組織は「目的を達成するために、分化した役割を持つ個人や下位集団から構成される集団」と定義され、組織力とは「一つの組織に参加・結集させる能力。また、組織全体として発揮する大きな力」となります。
アメリカの経営学者であったチェスター・バーナードは、組織を「意識的に調整された2人以上の人々の活動や諸力のシステム」と定義づけています。そして組織が成立するための3つの条件として「コミュニケーション」、「貢献(協働)の意欲」、「共通の目標」を挙げており、これらは組織として存続するためには必要不可欠な要素であるとしています。そのどれもが組織には一定水準必要とされているのです。
どうすれば組織力をUPできるか?
そこで組織力を強化するためにはどうしたら良いのか?
まず思いつくのは、組織のバイタリティ・柔軟性・しなやかさを維持しつつ、継続的に組織の成熟度を上げていくことが望まれるということです。
かつて「ミスター合理化」と称された土光敏夫さんは著書「土光敏夫 信念の言葉」の中で、バイタリティ(活力)について次のような式で表せるのではないかと説明されています。
➡ 活力 = 知力 ×(意力+体力+速力)
ここで活力は単なる馬力ではなく、そのベースには知力があり、その知力を成果として結実させる行動力が必要なこと。そして行動力にとって重要な要素が意力・体力・速力とのこと。意力は意思・性根・やる気の源泉であり、速力は仕事のコンテクストよりタイミングを重視する態度である。とあります。
このように組織力を分解するといくつかの要素で成り立っており、それらを掛け合わせたりすることでその大きさを観ることができそうです。そして組織力を形作る要素を具体的に観ていくと、こういった具合に整理できるのではないかと考えます。
マンパワーとしての組織の体力
×組織トップのリーダーシップ・意志力
×組織活動の仕組み・プロセス対応力
×マインド・スキルの熟練度
×カルチャーの浸透度
×組織ロイヤルティ&働くことへのモチベーション
×α(変化対応力などその他の要素)
マインドセットやスキルについては、最近のDXにおける課題の一つである「デジタル・DX人材の確保」としてリスキリングの取り組みが主要テーマになっていますし、カルチャーやロイヤルティなどは、企業ブランディングに直結するテーマにもなります。
組織力なるものが仮にこれらの掛け算で数値化できるとすると、どれか1つでもゼロがあれば組織力もゼロになるため各要素を戦略的にレベルアップしていくことが肝要になります。
アジャイルな動きができるコンポーザブル組織とは
前にも説明したところですが、オープングループが提供するDPBoK(Digital Practitioner Body of Knowledge)ではデジタルトランスフォーメーション成功の鍵として組織文化、ビジネスプロセス、製品/サービスなど7つの要素が挙げられています。
特に組織文化については極めて重要な要素になります。DXにおいては、人と組織・企業文化もトランスフォーメーションしなければ、持続的・継続的なDXは実現できないと言えるからです。
いわゆるVUCA(多様性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代においては、殊更に企業変革力が問われることになります。
そしてビジネスの変化に強い仕組みをつくるキーワードとして、「コンポーザブルモデル」や「コンポーザル組織」といった考え方・アプローチがあります。
ガートナーによるとビジネスコンポーザビリティーとは「人、プロセス、テクノロジー、さらには物理資産など、あらゆるビジネス資産をモジュール化し、リーダーがディスラプションへの対応としてこれらを迅速かつ容易に、また安全に再構成し、新たな価値を創出できるようにするアプローチ」であるとされます。
事業環境の変化に対応して、ビジネスを構成している業務やプロセス、組織体制・人、情報システムなどの「コンポーネント」を臨機応変に組み替えていくことで、素早く・柔軟に新たな価値を創出できるようにするアプローチということです。「マイクロサービス」といったアーキテクチャーなどの考え方・アプローチもこれに当てはまるでしょう。
さらにその上で有効になるのは、アジャイル的なアプローチであり、それを実現できる組織体制やガバナンスが必要ということになるでしょう。
アジャイル組織とは、組織を取り巻く状況の変化に対して柔軟かつ素早く対応可能な組織構造を指します。
アジャイル開発のアプローチと同様で、事前の計画を重視するのではなく短期間で実行とレビューを繰り返しながら業務改善や新たな価値を創出することに特徴があります。
従来のピラミッド型の組織構造ではトップダウンの指示を計画通りに遂行することが求められました。日本においては、中間(ミドル)に位置するリーダー主導で発案し上に諮ることでうまくことを進めようとするミドル・アップダウン型のマネジメント方式などがよく見られました。
それに対し、アジャイル型の組織構造では、チームメンバー個人が自律的に行動して改善と実行を高速で繰り返すことがより重要になります。基本的にボトムアップによる意思決定プロセスがあり、それを支えるセンターオブエクセレンス(CoE)などの横断的な働きや機能を有する組織体制がますます重要になってくるでしょう。
因みに、アジャイル宣言の背後にある原則も参考になります。特に以下の点などを意識した組織やチームの在り方を具現化していくと良いのではないでしょうか。
顧客満足を最優先し価値のあるサービスを早く継続的に提供する
意欲に満ちた人々を集めてプロジェクトを構成する
アジャイル・プロセスは持続可能なサービスを促進する
継続的に維持できるようにする
シンプルさ(ムダなく作れる量を最大限にすること)を重視する
最良のアーキテクチャ・要求・設計は自己組織的なチームから生み出される
チームとしてもっと効率を高めることができるかを定期的に振り返りそれに基づいて自分たちのやり方を最適に調整する
DXを推進する横断的なオフィス機能を持つこと
こうした背景もあり、DXを進めるために既存組織を強化したり、「DX戦略企画部」などの新たな組織づくりをする企業も多く見られます。
例えば、日本生命保険ではDXへの取り組みの強化に向けて、「2023年3月にDX戦略の企画策定をけん引する新組織としてDX戦略企画部を立ち上げる」といった発表も見られました。そこでは、デジタルツールを駆使した新たな営業職員の活動を推進するなど、組織の機能強化も実施されるようです。
このように従来の組織構造のままDXを進めることが難しい(と予想される)場合には、やはり新しい組織化が必要になってきます。
これからのDX推進組織については、経営、業務、ITの各組織を繋ぎ、組織全体のDX推進や最適化を推進する役割を担う組織への変革が肝要なのでしょう。
『DX推進組織』の役割としては以下のものが挙げられます。それぞれの組織事情に応じて果たすべき役割・必要な機能を定義することが必要です。
組織内におけるDXのプロデューサーとして
ニューノーマル時代の組織的支柱として
外部のコンサルタントやベンダーといった専門家(特にIT関係)とのコミュニケーションに関する調整・相談役として
DX推進やITの利活用に関する CoEとして ※Center Of Excellence
組織力をあげること(ポイント)のまとめ
あらゆる組織も絶えず環境の変化に対応していけないと成功できない、生き残れない時代になっています。
現在加速するDXにおいて、その実現・成功には『企業変革力=(デジタル時代の)組織力』がまさに問われています。
ここでDXのを進める基礎であり推進力となる組織力として必要な特性・能力を『組織力に必要な8つの力』として以下にまとめてみました。これらを大切にし、常に意識していきたいと考えています。
パーパス求心力
ミッション・ビジョンがトップからメンバー全体に浸透している
社会への貢献など組織の存在意義や提供価値が明確に存在し、そこで働く意義ややりがいへの満足感をもたらす
異能の協奏力
人材の多様性に重きが置かれ、様々なスキル人材による化学反応があり、共創したパフォーマンスが発揮できる
いざという時に頼りになる人材・ネットワークを有している
高いレジリエンス性能
水・竹・独楽・振り子の動きの如く、自然体でしなやかさ、柔軟性を持つ
それでいてタフで打たれ強い耐性がある
アジリティ機動力
意思決定が迅速に出来る仕組みがある
爆速で動けるマインドセット、環境、カルチャーがある
心理的安全性の高さ
自由でフラットな行動が尊重されて自律的に動ける
組織へのロイヤルティが高く、安心して思う存分に能力を発揮できる
不断の成長力
リスクを恐れず失敗から学び成功に繋げることに重きが置かれており、継続的に学習し切磋琢磨を旨とするマインドがある
変化対応力
「変わらないこと/変わるもの」をよく認識し、変化し続けることの価値を理解し実践できる
不変の法則に由る信頼性の高さ
「追いかけるもの/ついてくるもの」を正しく認識し、組織としても個人としても流されることのない信頼性を大切にしている
なお、それぞれの組織においては違う内容やもっと他に重要なものがあったり、より具体的で分かり易い定義が望ましいと思われることもあるかも知れません。夫々が自ら考えて常にそれを意識しておくことで、継続的な組織力強化が図れればうれしく思います。
最後に
繰り返しにはなりますが、デジタル化が進展する社会において、VUCAが高まる世界で生き残りをかけて自ら変化・変容する取り組みが求められます。
そこには変革を推進する仕組み作りが重要であり、そのための組織力が必要不可欠になります。
中小企業や中堅企業における組織運営においても、自主的・自律的なガバナンス体制を構築するとともに、組織のバイタリティ・柔軟性・しなやかさを維持することが重要です。
デジタル社会におけるITの利活用の観点からは、既存の組織とは異なるDXプロデューサーの役割を担う新たな組織力が不可欠になります。ここでもDX人材の育成・確保が重要な課題となります。人材の育成にはリスキリングが必要ですが、効率的にスキルアップしたりキャリアを積み上げていくということよりも、異なる性質の仕事をうまく繋げて活用することで提供価値を向上させることが大事になるのでしょう。
そういうチーム・人材を最低限確保しておかなければなりません。そのためには、社員の育成や外部人材の活用・確保する方策を考えなければなりません。
この点は企業・組織の資本や売上額・社員数といった規模の大小に関係のない話です。そのための資金不足や人材不足を言い訳にするのではなく、何事にも諦めずに知恵を絞ることが求められます。
法学者の河上河上和雄氏は、「群れを飛び出しても生きていけるような人間が集団を作ったとき、その組織は強くなる。」との言葉を残されています。
組織力を高めることは、非常に強力な推進力になりますが、そこに存在する一人一人が埋もれることなく、人に任せてしまうことなく、大きな声や総意に流されてしまうことなく、時に傷つくことを恐れずに行動をしなければならないことでもあります。
このように異能の集団による新たな組織のカタチを模索していきたいと思います。共に前へ未来へ進んでいきましょう!
以上をもちましてDX推進の心技体(10選)の話は完走となります。これからは別シーズンとして新たなテーマで新たに走り続けたいと思いますので、引き続きよろしくお願いします。
【再掲】DX推進の心技体(10選)
まずは自分なりのDXを語ること(自身の言葉で定義してみよう)
未来ビジョンに向けたJourneyとすること(ありたい形、なりたい姿を追求する)
顧客志向で提供価値を表明すること(「ならではの価値」を提供しよう)
手っ取り早くデジタル武装すること(低コスト・短期間で効果を実感できるものがあります)
Small Start で始めて、失敗と成果を積み上げて進めること(勇気を出して1歩踏みだそう)
最新技術・ソリューションをうまく活用し、新しいビジネスを作ること(デジタル技術の活用で経営課題の解決へ)
戦略的に考えてみること(シナリオ、プランを練って先を見据えて動こう)
気力・体力を維持し、流されないこと(絶えずゴールを見据える)
変革・変化に対応するものを巻き込むこと(抵抗勢力に対するチェンジマネジメントも必要)
組織力を上げること(横断組織、俊敏性、爆速、Agile)