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人種差別的な言葉に反応しないようになりたい

ドイツで嫌なことダントツ一位は定刻通り来ない電車ではなく路上など公共の場で人種差別的なことを言ってくる人たちだ。こちらの存在に気づいて、突然、ニーハオとかチャイナと言ってくる。彼らは挨拶をしたいのではない。外見だけで決めつけてドイツ語以外の言葉で私以外のその場にいる他の人に声を掛けることはない。東アジア人を見て、クスクスと笑い、条件反射的にこうしたことを言ってくる。年に数回はこうしたことがあり、いきなり嫌な気持ちになる。しかも悲しいことに、私の場合は外見的に移民や移民X世であろう人たちに絡まれる。なぜ同じ移民や移民のバックグラウンドがある者同士でこんなことになるのか、正直、全然理解できない。

一度、私は中国人ではないし、なぜ外見だけで決めつけて面白おかしくニーハオと言ってくるのか?と聞き返したことがある。 すると相手は、ただの挨拶だ、なぜ怒るのか、と逆ギレしてきた。この時に、ああ、本当に何も考えていない人たちがこうしたことをしてくるのだと腑に落ちた。これが現実だと信じたくないが、社会には自分の想像の範囲外の人々がいて、彼らは社会へのとっても薄い理解と条件反射的なコミュニケーションで生きている。話し合えば伝わることもなさそう。それなら、人種差別的な言葉をかけられてもネガティブに引きずられるだけ損だ。自分の生活にこうした不愉快なことをしてくる人々を介入させたくない。ということで、いちいち言い返さず、無視することにした。

しかし、そう決めても、道で突然ニーハオと言われるのは胸くそ悪い。やっぱりネガティブな気持ちになるし、頭の中で「やっぱり言い返せばよかったかも」「こう言い返せばよかったかも」とグルグルする。ドイツ人の友だちに教えてもらった最上級の侮辱ワードを言えば相手も悔しがったかもとか、どんどん思考が狭まっていく。でも、自分は侮辱ワードをまくしたてるような人間ではないし、理性的でもない人にそんなことを言ったら命が危ない。だから結局、言い返さずに無視して、半日くらいモヤモヤして、次の日の朝もちょっと嫌な気持ちになって、いつか忘れる。この繰り返しだ。

こういうことが度重なって、扁桃体と情動、反応速度とかそういうことを勉強したこともある。自分が嫌な気持ちになりたくなくても彼らのせいで嫌な気持ちになるのは扁桃体が危険を察知したからだ。でも、人種差別的な言葉はバカバカしいだけで、生存を脅かすような危険ではない。扁桃体が反応しないためにはどうしたらいいんだろう。そんなことを考えるようになった。

一方でドイツは先進国の中でもリベラルであるという自負の強い国だし、リベラルな国民は体感では日本より多い。ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に反対するデモも定期的にあり、去年は反極右のデモが全国各地で起こり、参加者は数十万人にまで増えた。

実際に大学やバイト先では人種差別的な扱いを受けたことがない。大学やバイト先のIT系企業で働く人々はリベラルで、人種差別に敏感で、それは普段目立たないアジア人への配慮も含まれる。具体的な例を上げることが難しいくらいに自分の属する社会ではアジア人だから云々という扱いがない。私の見た目が明らかに外国人だからといってどこから来たのか聞くのはタブーだとすら思っていそうで、自己紹介の時は自分から日本から来たことを言わない限りは聞かれない。同僚とのスモールトークではたまに日本のことについて質問を受けるが、日本人って〇〇なんでしょ?というような偏見を押し付けてくる質問の仕方ではなく、政治や宗教的なことは対話しながら質問してくれる。

もちろん仕事上でも何人かなど関係なく、平等にドイツ語で話すし、むしろ、こちらのドイツ語能力を信用してくれていると思う。分からないところは聞いてくるだろうという前提で、他のドイツ人と話すのと変わらない語彙を使い、普通に話してくる。

普段の生活では何人かなど気にせずにいられることからも分かるように、人種差別的なことを言ってくる人々は私のソーシャルバブルの外の人たちだ。リベラルな人が多い一方で、人種差別的な嫌がらせを躊躇なくしてくる人もいて、社会の断絶が深い。

そもそも、なぜ、中国人と東アジア人をからかうことが面白いのか、意味が分からない。中国はむしろ、人種差別的な言葉を赤の他人に投げかけちゃうような人々にも恩恵を与えている。中国企業の支社はドイツに多いし、中国製のスマホ、家電、洋服など中国製品で溢れている。また、中国と宗教的な対立だってないだろう。なのになぜ、中国人への偏見が根強く存在するのか。

何人かの人とこの問題について話していた時に、中国人とバカにしてくる人々は偏見バリバリで切り取られて流れてくる中国人のネットミームなどをそのまま鵜吞みにしているのではないかという意見が出た。憶測にすぎないけど、自分のこれまでの体験や人種差別的な人と交わした会話などを振り返ると、そうした理由もあり得るだろうと思った。

しかし、ネットなどの偏見を鵜呑みにして人種的ステレオタイプを強化するって、どれだけ理性がないのか?呆れるしかない。2024年にもなって人種差別がこんなバカ過ぎる理由で存在しているのだとしたら、人類の進歩はとんでもなく遅い。経済的にはグローバル化は達成されているけど、現実ではグローバル化やインターナショナル化なんて誰も望んでいないじゃないかとさえ思えてくる。本当は同じ人種の中で似たような人々と生きたい、内集団バイアスにすらも打ち勝てないのが現代の人間ではないか。それなら、人種差別的な言葉に反応しなくていい。生きている世界が違いすぎる。でも脳はそんな簡単に制御できない。いつかは人種差別的な言葉に反応しなくなれるだろうか。


もしドイツで人種差別やマイクロアグレッションに遭ったら、警察にその場で通報するのが一番良いですが、現実ではなかなか難しいと思います。そうした場合は、事後で良いので、以下のドイツの連邦反差別局や警察にオンラインでレポートを送ってみてください。アジア人差別に対して私たちができる対策です。こうしたレポートを送る時は何をされたか、加害者の外見的な特徴、正確な時刻と場所(住所)の情報が重要になります。

連邦反差別局
(Antidiskriminierungsstelle des Bundes)


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