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鉄の味

鉄の味、というとおそらく血の味を想像されると思うのだが、そういうことではまったくなく。
いわゆる味わい、空気感、とでも言うべきか、イメージというか。
そして、鉄は、というと文字通り鉄のことなのだが、その味わいを感じたのは「鉄製の鉄道」に乗ったから、というダブルミーニングなのである。
なぜ、突然、鉄の話かというと、小田原で特急踊り子号に乗ったからである。
昭和の頃から変わらない車体、国鉄185系で運用されている。
平成が終わるこのタイミングに、懐かしい少しでこぼこしたボディと開閉できる車窓、直線的な鉄道インダストリアルデザインは走るノスタルジーだ。

そんな185系とほぼ同い年の昭和生まれのぼくは当然ながら鉄製の乗り物に囲まれて育ってきた。
自動車や船はいまだに鉄か多いのだが、鉄道っていつのまにかアルミやステンレス中心のものに置き換わっている。
塗装もオール鉄だったころはフル塗装で、独特のカラーリングやデザイン、国鉄デザインなど、ラインが入っただけの今のデザインと比べるととてもバリエーションか多く、特徴的であった。そういえば新幹線はまだまだ鉄製みたい。

郷愁感を駆り立てる匂い

乗り込むと独特の匂いがする。
ああ、昔の特急ってみんなこんな匂いしたなあと。
そして、基本的にすべての作りが堅牢である。質実剛健とでもいうのか。
そもそも密閉式の構造にしにくいのか、車窓が開く。
時速100キロオーバーで走行しているのに窓を開けるなんてことはほぼないだろう。
まして一年を通して快適なエアコンが作動しているため、窓を開けるなんて扇風機時代の代物だ。車内の扇風機もきっと天井にあったのだろうか。
その天井が少し新しい。改装後かな。
そして黄ばんだ壁紙。
おそらく全席喫煙可能だった時代。
ヤニがこびりついているのだろうか。
シートも鉄道博物館に飾られていてもおかしくない分厚いクッション。
鉄製云々ではないのだが、現代の「そぎおとされたデザイン」とは真逆の「盛っていく」文化が随所に見られる。

誰がなんと言おうとノスタルジーは心地いい

デビュー当時は当然最新の仕立てだったのだが、いまやノスタルジーの塊。
それがいまだに現役で走り続けている。
少しうるさいモーターの音が心地よい。
車内は以外にも静かだ。旅を楽しみたくなる乗客の心境もわかる。
不思議な安心感。
鉄の塊に乗り、触れ、嗅ぎ、揺られる。
人間の血にも含まれる鉄の分子が共鳴するからか、浅い眠りに誘われる。
重量が重い分、たまにあるレールの継ぎ目に懐かしい音が鳴る。
ガタンゴトン。
最新の車両と違って、素材が厚いため少しこもりがちな、丸みのある音。
平成でさえももう終わるというのに、いまだに昭和の力を感じ、自分に根付いた昭和の感覚を思い出させてくれる。
携帯やスマホをいじる時間ももったいない。
たかだか、30分弱の乗車だったが、その空気をあますことなく吸っておこうと感覚を研ぎ澄ます。眠たい。。。

なんて、最近あまり思いつきもしなかった散文的なテキストが頭の中で浮かんできたので書いておこう。鉄心を大事にしてみよう。
そんな3月の雨の日でした。

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