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【朗読】いのちの舟

文月悠光
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花はどうして咲くの。
なぜここで咲くことを選んだの。
「大切なものは目に見えない」と知りながら、
目をつむっていることができなくて
この世界へ目覚めつづけてしまうのは なぜ。
花もそのように惑うことがあるだろうか。

細く湧きだす水のような思考は、
やがて ひとすじの川となってあふれる。
この身体から放たれて
たましいだけを抱いている方法があるならば、
いま棘を抜き、痛みを洗い流して
ただひとりの「わたしきり」になりたい。

見えない不安のうわさで持ちきりの日、
思考が回りきるところまで
あるく。
この足に 語りかけよう、覚えさせよう。
つぼみのように
やわらかく生き直して。

波が支え持つように
運んできたこの舟をさらに漕ぎ、
ふかい夜の闇へ分け入っていく。
花はひらく。
ここに眠っていることを知らせたくて
人は ふくよかな花を捧げる。

詩「いのちの舟」文月悠光

*「婦人之友」2020年5月号ミヨシ石鹸さん広告より。
毎月、裏表紙広告欄に詩を書き下ろしています✍☪️
写真:岩倉しおりさん

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