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学ランの君




似ている。

小銭を渡し損ねたとき、瞬時にそう思った。
いや、あまりに似ていたから動揺して小銭を落としたのだろうか。この予想外の衝撃のせいで前後のことさえわからない。

大丈夫ですよ、とはにかんで笑う。
笑った時に、あの、目尻に皺がよる感じ、いかにも優しそうな感じが似ている。

目の前に立つ男の子は、学ラン。
そして私は黒いエプロン、カフェの店員の。


私は今年で27歳になるというのに。
目の前の男の子は、中学時代の初恋の人に瓜二つ。まるで、時間が歪んだかのよう。

小銭を拾って、もう一度渡し直す。
温かい手。この人は、実在している男の子なんだよなぁ。
変なことを思う。


ホットコーヒーを頼まれた。
コーヒーマシンのスイッチを押しながら、ふっと息をつく。

「そうだよ、別人だもの」

あの人は、ブラックコーヒーは飲めなかった。私たち、2人して甘い甘いカフェオレを自販機で買っていたんだから。今はもう、甘ったるくて飲めないようなやつ。

卒業して、彼には一度も会っていない。
きっとお互い、変わったんだろうな。
大人になったし、いくつかの恋愛もした。


ーーあの頃の私がもういないように、あの頃のあなたももういないんだよね。


初恋の人は、偶像に。
思い出の中だけに生きているのだ。

そんなことを思いながら、コーヒーカップをセッティングする。
それでも、コップとソーサーの隙間に滑り込ませる。
砂糖のスティックと、ミルクのカップ。

私は多分ずっと、あの人のことを覚えているんだろう。


『カフェで読む物語』は、毎週金日更新です。
よかったら他のお話も読んでみてね!
次週もお楽しみに☕️

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