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絵事常々 -制作のながれ④ 転写工程-

前回に続きまして、まだ話します。転写のこと。
知人に呆れられた転写材料だけで5000字弱の前回記事はこちら。

制作のながれとのたまいながら、まだ膠すら出現していませんからね。
我ながら歯がゆいです。
スマホ買って通勤中も執筆しようか揺れる…


さて、また字数ばかり増えていくのでちゃっちゃか転写の工程いきますよ。


4.転写のながれ

用意するもの
・転写紙(複写紙) → カーボン紙など
・転写させる紙 → パネル張りの和紙

・転写もととなる図 → 草稿(下図)
・転写する(圧力をかける)ためのペン

小難しいことはそれほどなく、ただ写すのみです。
※おそらく最も大切な準備物は「根気」。
さらっと転写紙以外の用意するものをまずご紹介です。


転写もととなる図

日本画では「草稿」といいます。
この草稿に関しては以前の投稿「絵事常々 -制作のながれ①-」の中で少し触れていますが、線描(輪郭)のみの下図を指します。

今回の制作の草稿(部分)

下図は鉛筆で描く人が多いですが、
最近は小下図や写真をトレースしたものを拡大コピーする人も多いです。
私はゴリゴリ描くのが好きなので、原寸で下図を用意します。


草稿や下図についての詳細はこちら ↓↓


転写するためのペン

鉄筆

転写するには「圧力をかけながら線をひく」ことが必要です。
下図をなぞるわけですから、自然とペン状のものが選ばれます。

なんでも良いのですが、ペン先の太さや材質で転写する線の雰囲気は変わってきますので作品や自分の肌感覚に合うものでどうぞ。

使われがちなのは、以下のとおり。

・ボールペン
・鉛筆
・シャーペン
鉄筆てっぴつ

筆記具系は「色(インク)がつかない状態で使う人」
「色がつく状態で使う人」に分かれます。

色がつかない状態を好む人は、下図を汚したくないタイプ。
色がつくのを好む人は、転写ラインをしっかり確認したいタイプです。

色がつかなくても、ペン先のかける圧力で一応どこまで写したかわかりますが、サッと見て取れるのは色付きですね。
赤いボールペンなどは非常にわかりやすいです。

逆にインクのでなくなったボールペンや、芯を出さずにシャーペンを用いるのもお手軽です。

また、ペン先の太さや材質は「どんな転写線をつけたいか」によります
はっきりくっきりつけたい人は硬いペン先で、
目立たないようにしたいのであれば細いペン先で。
あとは筆圧や転写紙の色・濃度で転写の雰囲気が異なります。

鉄筆はTHE・転写ペンです。
先の画像のように鋭いペン先のものは好みがわかれるところ。
社寺彩色の施工では「目立たない転写線」を得るために使っています。
ただ本当に尖ってますので、傷が付けないように慎重にはなります。

余談ですが、昔々の社寺彩色の転写方法の一つには、施工する木地に傷をつけるというものもあります。

世の中には「丸鉄筆」というものもあり、こちらはペン先が1~3mmの球状になっています。



転写の工程

そんな転写の工程ですが先ほども申しましたように、ただただ写すのみ。
転写に1日、ざらにあります。
正直なところ「乾き待ち」や「材料がなくなった」などという休息は訪れませんので「やるかやらないか」だけです。

まずは設営です

まず本紙の上に下図をセットします。
位置を確かめたらば、マスキングテープなどで固定します。
その後、その下図の下に転写紙をしきまして。
下図の上からなぞって本紙に写していきます。

この時、本紙の上に転写紙を敷いてから下図をセットするのは
あんまりおすすめしません。
転写紙の紙質や厚みによりますが、まずは寸分の狂いもなく下図を配置・固定したいので、ごわつくようなものはない状態でセットします。


続いて転写。
ちょうど良い塩梅の転写線となるように、道具や筆圧を工夫して写します。
下図の線のど真ん中をゆっくり丁寧になぞっていきます。

転写のながれ まとめイラスト



5.転写のタイミング

たかが転写、されど転写。
転写のタイミングや回数に悩まされること、意外とあるんです。

実にシンプルな絵画制作ですと「本紙に転写→その線をもとに着彩」です。
だがしかし、画面の作り込み方によっては1回では済まんのです。


下地をある程度作ってからの転写

本紙がまっさらな状態で写すのではなく、ある程度下地を作った上で転写される方は多いかと思います。
転写してから下地を作ると、どうしても線が消えてしまいがち。
「そうじゃなくて、世界を創ってから形を入れたいんだよね」と思うタイプの方は、転写工程の前にまず下地を作り、それから写します。

今回の制作では、和紙に仕込みをしてパネルに張り込み転写をしています。
和紙の紙肌を活かしながらモチーフに着色したいなぁと思うことが多く、
最近はこのパターンが多いですね。
少し難なのは、揉み紙の凹凸を避けづらく転写時に下図に穴があいたりします。時々。

今回の制作の転写後(念紙使用)
揉み紙の凹凸があり、やや転写しづらいですがはっきり見えます


こちらはがっつり下地を絵具で作ってから転写されたもの。
岩絵具でのマチエールなので、結構凹凸があります。
転写した後にこの下地作りをしたら、まぁ転写線は消えますね。
ですので、写すタイミングは個々の作品によります。

知人制作から拝借(念紙使用)
下地を細かく作り込んでからの転写です


段階別の転写

もう1つポイントとしては「段階的・部分的に写す」ことが挙げられます。

A:下図の全てのラインを転写する
B:モチーフのアウトラインのみを転写する
C:アウトラインのみを転写し、描き進めた後に細かな部分の転写をする

そこまで改まって述べることでもありませんが「どの部分をいつ写すか」ですね。
転写は根気もいりますし、そう何回も何回もやりたいものではありません。

全部を最初に写し切って、緻密に描き込んでいくタイプはAです。
そうではなく大きな形で作り込み、その後でピリッと描き込むタイプはBやCです。

私は今回Aで進めていますが、描き込んで形が曖昧になるようなら再度部分的に転写するかな。
拝借した先の知人の転写はBタイプ。ざっくり写して後で描き込む。

どんな転写をするかで下図の作り方も変わってきます。
転写用に下図を何枚か用意する場合もありますし、部分的に再度転写する場合にはトレーシングペーパーに草稿するのが便利です(画面の状態が見えるので)
ただトレーシングペーパーは1回の転写で傷みやすいのでご注意。



こうして下図を転写したらば、いよいよ着彩の始まりです。
写されたラインをどう起こしていくか、活かしていくか。
どんな風に色を重ねていくか、実際の制作とあわせてご紹介していけたらなと思います。

色を重ねていく前に「墨」や「膠」の説明がはさまりますので、
もはや画材紹介の趣を呈していますがお付き合いください。

今回はあっさり「3,000字弱」でいけました!
最後まで読んで頂きありがとうございます。
それではまた次回の投稿で。



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