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おばあちゃんと夏祭りと焼き鳥の真相#夏の香りに思いを馳せて

数年前、おばあちゃんが施設に入るということで手伝いに行った。それまでショートステイとして利用していた施設に入居することになったからだ。すっかりがらんとしてしまった部屋の中には入居に必要なものが並べてあった。

パジャマをはじめとする衣料品や、施設で使うためのたくさんの日用品に名前が書いてある。みんな叔母さんの字だ。

庭にある緑の生い茂った植木鉢も目に入ってくる。おばあちゃんがいなくなったら、これからこの家はどうなるんだろうとどうしても考えてしまう。



その日は近所で夏祭りがあった。たくさんの人達が浴衣姿で集まっている。私はおばあちゃんに依頼されて、施設の人たちに差し入れするための焼き鳥を買う係になった。その数、なんと50個以上。

おばあちゃん太っ腹だなと思った。

ちゃんと持ってこれるかなと一瞬心細くもなるけど、他でもないおばあちゃんの頼みだ!ということで引き受けることにした。玄関で会った母は「お祭りで食べたいものでも買ってきなさい」と言った。


焼き鳥は最初に買うと荷物になってしまう可能性があると考えたので他の屋台を見ながらしばらくうろうろしていた。

そして私の子供のころのお祭りとは何かが違っていると思った。


2~3人の人が楽しそうに覗き込んでいるお店があって、試しに見に行ってみたらトルコアイスを売っていた。複雑なテクニックが必要そうな動きをしている。もしかしたら職人の方だろうか。

「すみません、アイスクリーム一つ下さい」

私がそう言うと隣にいた男の子がぱっと顔を輝かせて「僕も欲しいー!」と言い始めたので、いい呼び水になったのかもしれない。


道の端っこでトルコアイスを食べた。やっぱりこれはもっちりとしていておいしい。それからシャカシャカポテトみたいなのを買って、最後に焼き鳥を買って帰ることにした。

家に戻ると母も叔母さんも私の持っている焼き鳥の袋を見て黙り込んだ。おばあちゃんは心なしか不安そうに見えた。そこで私はなんとなく不穏な空気を感じ取った。

実はこの時点でのおばあちゃんは認知機能がかなり低下していて、事実がわからなくなることもあった。他にも同じことを話したり忘れてしまったりするようになっていた。その一方でたまに正気に戻ることがあるらしいのだ。


私はおばあちゃんが落ち込んでいるのを見て、何かできないかと思ってそっと声を掛けた。おばあちゃんは何度も同じことを話した。それは何故か焼き鳥の話ではなく、若かった頃の苦労話が中心だった。

だけど私はすぐに忘れてしまうからといってネガティブな気持ちばかりをおばあちゃんに持っていてほしくないと思った。なので自分から明るい話題を振ることにした。

「おばあちゃん、施設で面白いことがあるんだって?」
「そうなんだよ!出身が同じの人がいて、盛り上がって」
「良かったね。どんな話をしたの?」
「昔はここにこういうお店があったとか…」


話しているうちにおばあちゃんは目をキラキラさせるようになっていった。よほどその出身が同じという人との話が楽しいんだということが伝わってきた。

前の話題を忘れていくのですぐ悲しい話になってしまうけど、その後にあえて明るい話を振っては二人でずっと笑っていた。何回でも、例え同じ話題でも笑った。

その後はみんなで焼き鳥をたくさん食べた。私は何だかとても嬉しかった。おばあちゃんがこんなに笑うのを見たのは初めてだった。


子供の頃に屋台で買い物をして帰ってくると、おばあちゃんが玄関で待っていてくれたのを思い出す。時には「綿あめなんて一人で食べきれるのか?」と言われたりした。

焼きそばはうちで食べた方がおいしい、金魚はすぐ死んじゃうと少し口うるさいおばあちゃんではあったけど、いつも私達のためにおいしいご飯を用意して待っていてくれていた。


夏祭り、と聞くとこの日のおばあちゃんの笑顔を思い出す。もう一緒に焼き鳥を食べることはできないけれど、長生きしてね。



xuさんとriraさんの合同企画にエッセイで参加させて頂きました。「夏祭り」「七夕」「青春」という三つのテーマ、なんて素敵なんでしょうか。この中から今回は夏祭りを選ばせて頂きました。ありがとうございました。そして企画の方も応援しています。

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