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妄想依頼#01『塩とキャラメル妄想事件』

今回の妄想依頼者:もう大学生さん

ボクはポップコーンを食べない。
そんな今日、事件は起こった。

映画館は満員状態。
月曜の夜というのに、全くだ。

映画オタクのボクは、ポップコーンが嫌いだ。
映画に集中したいのだ。
半径5メートル内でポップコーンを食べる音がすればもう劇場を後にする。
お喋りなんて論外だ。

しかし近頃の若者というのは。。。

そんな話はさて置き。
今ボクはポップコーン片手に映画館で突っ立っている。
キャラメルと塩のハーフアンドハーフ。
まぁ、強いて言うならキャラメル派。

なぜこうなったかというと、

「おまたせー」

お手洗いから天使が出てきた。
ボクの天使は多分キャラメル派。
彼女によると、ポップコーンと映画はセットらしい。
まったく、バカげてると思った。
でも、かわいいからいいのだ。

「ちょっとお手洗い行ってくるね」
「あ、うん。じゃあこの辺で待ってる」

そう言ったのも束の間、
ボクは大行列のポップコーン売り場に並んでいた。
多分、彼女はキャラメル派。
じゃあ、あえて塩とハーフアンドハーフにすれば塩だけ残って好み合うねってなる。
その戦略で、ハーフアンドハーフのペアサイズとコーラとウーロン茶をセレクトした。
なぜコーラとウーロン茶かって?
これも戦略。
ボクは彼女の好みなど知らない。
だから刺激の強いコーラと安心第一のお茶をセレクトしたわけだ。

「おまたせー」
彼女はすぐにポップコーンの存在に気づく。
「わぁ!ありがとう。わたし塩味大好き!」
まぁ、こんなこと予想通りだ。
だからハーフアンドハーフにしたのだ。
「あ、コーラかお茶、」
「コーラでいい?」
あ、うん。

そんなわけで、
ボクにとって大事件の映画デートがはじまった。
まず、今から見る映画はボクが去年から待ちに待った映画。
大好きな映画監督のジョン・ピエール・ジョネと我らのショワちゃんことショワナッツタイガー主演のアクション映画だ。
その名も『タイ・ハード』
1990年のエピソード1から30年経った今まさかのエピソード2。
多分、彼女はそんなこと知らない。
彼女にとって見れば、そこそこ運動神経のいいそこそこイケメンなおじさんがそこそこのカンフーアクションで敵を倒すだけのそこそこ映画なのだろう。
「ショワナッツタイガーも歳とったけどやっぱかっこいいよね!エピソード1のあの中国マフィアと闘うアクションシーンがめっちゃ好きなんだぁ。ボスのラザミア・タナがまた悪役なのにかっこいいんだよね」
「……」

すっごい詳しい。
この子天使じゃなかった。
ポップコーンは元祖塩味に、映画といえばのコカ・コーラ。
そしてさりげなくもぎったチケットをポケットではなくカードケースに大切に納める。
思い出した、今日食べたランチはイタリアンじゃなくて中華料理。
まさかあの時から…彼女は『タイ・ハード』を観るための準備をしていたのではないか!?
事件だ。これは事件だ…
「どうしたの?」
彼女が心配そうに聞いてきた。
それもそのはず、ボクはチケットをもぎってもらった場所から一歩も動いてなかった。
「あ、うん、何にもない。うん、いこっか」

気を取り直して、映画ガチ勢の彼女とボクの映画デートがはじまった。

劇場はまだ上映10分前というのに満席状態。
見渡せば流石『タイ・ハード』。
若いカップルから熟年夫婦に子連れまで、実に様々な人達から愛される映画だ。
ボクと彼女はI-8.9席だ。
大型の映画館で1番いい席が取りたければ、
H〜Kの間で勝負するべきだ。
以前、思い切って映画愛好家が好む最前列席に座ってみたが、ボクにはまだ早かった。
隣の80歳くらいのおじいさんが、首をグイッと上にあげて快適そうに『レディープレイヤー1』を楽しんでいた。
ボクは途中でトイレへリタイヤ。
マスター…ボクにはまだ早かったです。。。

I-8.9に座るとき、女の子を8に座らせるのがオススメだ。
そうすれば列に入るときはレディーファーストで劇場を出るときはリードできる。

さぁ、まもなく開演、そんなときだった。
隣の彼女からポップコーンを食べるあの音が…
ボクの耳の中を掻き立ててくる。
斜め前方のあの夫婦からも、
1つ飛ばした隣のお兄さんからも。

また別の席からは、
「エピソード1の主人公が30年経って〜〜」
劇場内でぼそぼそウンチクを語りたガールが出現。

ボクの耳の中で『タイ・ハード』のオープニング曲ととポップコーンを噛み砕く音とウンチク語りたガールのほじほじ声のオーケストラがはじまる。
そんなときだった。
「どうしたの?」
隣の彼女がボクを心配そうに見ている。
「あ、うん、あ、大丈夫」

気を取り直して、
今日ボクは映画を観ないと決めた。

今日ボクは、
“映画を観る彼女とポップコーンを食べにきた”のだ。

そう思った瞬間、今まで気になっていた音が全て耳の中からすり抜けた。
彼女とお揃いのポップコーンを食べる。
彼女は塩味。
ボクはキャラメル味。
そんな楽しい映画館がボクの世界に訪れたのだ。

彼女の食べる塩ポップコーンはもう半分しかない。
あぁ、あともう少し、この時間が続いてくれたら。
そんなバカげたことさえ考えていた。

20年後。
ボクと彼女は結婚している。
そして今日、『タイ・ハード』エピソード3を家族3人で家のリビングで観るのだ。
我が家のキッチンにはポップコーンメーカーがある。
毎週日曜日の夜、家族で手作りポップコーンを食べながら映画を楽しむのだ。

これも、20年前のあの事件のお陰だ。

かつての天使だった妻に聞くと、
妻はそれまで映画なんてこれっぽっちも興味がなかったらしい。
ただ、ボクとデートする前日にツタヤで『タイ、ハード』を借りて、全てのストーリーと登場人物をコンプリートして映画デートに望んだそうだ。

あと、あのチケットは、
今も妻のカードケースに残っている。

おわり。


今回の妄想依頼者さん:もう大学生さん
相談:ボクは大の映画好きなんですが、映画館の私語やポップコーンを食べるあの音が気になって全く映画に集中できません。。
友達や彼女と映画に行っても、隣でポップコーンを食べる音でストーリーが頭に入ってこないです。
そんなボクの悩みを、少しでも和らげる妄想物語をお願いします。


もう大学生さん
妄想依頼ありがとうございました。

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最後まで読んでくださりありがとうございました。

それではまた明日✋
妄想日記でした。





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