『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』 それぞれの生き方でぶつかって、ひとつになって、分かれてを繰り返して【読書感想文】
こんばんは♡
今回は、島本理生さんの『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』について書いていきます。
なんだか久しぶりに、穏やかになって、幸福感に包まれる作品を読んだ気がしました。
島本理生さんの小説って、少し軋んだ人間関係やしがらみがあったり、曖昧でグレーな関係を描かれたりしているものが多いので…読んだ後に結構せつない気持ちになったり、「一緒にはなれないけれどもこれで良かった」みたいな割り切った大人な関係で終わることが多かったりする。(私が今まで読んだ作品は)
今回の作品はスッキリとした読後感だったように思えます。
元々の設定が重い分、結末に向けて上り調子で、ゆるやかに着地したな、という感じ。
夢がそのまま実現してほしいと願う。
では、あらすじからいきます。
※若干のネタバレがありますので、ご注意を。
◇
友人や恋人になるまでには、様々なシチュエーションを共に経験することで、「この人っていいな」「私と合うかもしれない」と思うことで、次へ、また次へと発展していくように思える。
『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』では、食事や旅を通して、主人公(知世)と椎名さんは距離を縮めていく。
食の好みであったり、食べ方、旅の目的や過ごし方。
食や旅でなくとも、好きな本や音楽、服装や暮らしぶり、話し方なんかでも「いいな」と思う部分がひとつでもあると嬉しくなるものだ。
またその逆も然り。
「なんか違うな」と思う部分がひとつでもあると、ボタンを掛け違えたように、その後すべてがマイナスに見えてしまうということも。
人間って贅沢な生き物だと思う。
そんな価値観の違いを知って、どう向き合っていくのか。
向き合った先が「分かれ」だったとしても、相手と自分は平行線上でうまく生きていけるということを、登場人物たちを通して理解することができる。
恋人や友人は血のつながりが無い分、基礎となる部分のズレは大きいだろうし、親子や兄弟といった近い関係であっても、もちろん違う価値観を持ち合わせている。
同じでなくて当たり前であり、分かり合えない部分ももちろんある。
血のつながりや愛情が、時に呪いとなって、人を縛りつけたり枷となることだってあるものだ。
◇
強いつながりを一旦無視して、ありのままの自分の目で、歩いていく道を選択していかなければならない。
同じ道でも、共に過ごす人や環境によって、違う景色となったり、新たな発見が訪れる。
人と出会うって、素敵なことが待ち構えているんだな、と希望を感じられた。
けれどもそれって、一緒にごはんを食べるとか、ただ話を聞いてくれている優しい顔だとか、夜眠る前の「おやすみなさい」だとか、暗がりで見る寝顔とかだったりする。
特別なことなんかではない日常がいちばんの幸せであったりする。
しかし、それがいちばん維持するのが難しかったりもする。
周りの環境や人の気持ちは常に変わっていくし、同じペースでは進んでくれない。
同じところからスタートした愛情も、一方のスピードが速かったり、遅かったり。もう一方が留まっていたり、はたまた違うコースに外れてしまう場合もある。
いつどこで休憩地点を設けるのが良いのか、難しいところ。
その度に歩幅を合わせて歩き直せたら良いんだけれども、、、大概、待ってはくれない。
相手のことを考えすぎて、相手とぶつかってしまったり、自分がコースアウトしてしまう場合もある。
やはり、少し離れた平行線上を進んでいくのが良さそう。
障害物が現れても、ひとりなら誰も巻き込まずに乗り越えられるかもしれない。
ただ、自分の身の安全だけ考えれば良いもんね。
錘になってしまうような関係であるなら尚更。
何にも寄りかからずに、孤独を味方にして生きていくほうが楽なのかもしれない。
無理にひとつにならなくたっていいじゃない。
ふたつのままでいたって、互いは必要な存在には間違いないし、それに、だれの邪魔もしていないじゃないか。
こんな関係が世の中には、もっとあっても良いじゃないか。
◇
島本理生さんの小説って、どれもタイトルが秀逸なんですよね。
本を手にとって、タイトルの意味がいまいちわからなくても、最後まで読むと「なるほどな」と思う。
最後まで読んだ時に、「もうこのタイトルしか考えられないよね」っていう絶妙な言葉を持ってこられている気がする。
これは、島本理生さんの小説の特徴のひとつだとも思う。
今回の『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』。
「薬」は、まぁまぁはじめの方でわかったけれども、「銀のフォーク」はイマイチピンときていなくて…。
「銀のフォーク?スプーンはよく聞くけど??」って。
でも、『お洒落なカフェ〜』の章にあるセリフと銀のフォークの意味で大体の方はスッキリするかな、と。
『あとがき』も含めて、一冊まるまる「いいなぁ」と思えた作品でした。
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