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物悲しい機内に差し込む朝日

故景山民夫さんがその多くのエッセイで、旅にまつわるエピソードをたくさんお書きになっている。
エッセイに限らず、旅は景山さんの作品にあって欠かせぬ要素と言えるだろう。
そのエピソードの一つに、こんなものがあったと記憶している。
ある時、国際線の飛行機に乗ったところ、乗客は数人しかおらず、その乗客全員とクルーで、機内でホッケーだかサッカーだかを楽しんだというものだった。
まあ、景山さんがご自身も何処かで言ってらしたが、「嘘はないが誇張しない事もない」話の一つかもしれない。

自分の経験から言うと、そんな国際線に当たったためしはない。毎回それなりに混み混みで、通路側の席を確保するのがやっとといった事が多い。
ごくたまに、隣の席が空いていたりしようものなら、あからさまにガッツポーズを決めたくなる。
過去に二度ほど、ダブルブッキングなどが原因でアップグレードしてもらった事があるが、そんな時は、「あぁ神様、本当にありがとうございます」とおもわず祈ってしまうのである。

ところがだ。
なんとそんな国際線の搭乗機に、この度出くわしたのだ。
それは、仕事で訪れたバンコクからの帰りの便のことである。
まあ景山さんのように数人とは行かないまでも、使用する777機に対し、乗客は5、60人程度であったのではなかろうか。
三列シート、四列シート、それぞれに乗客が一人づつ座っても、まだまだ座席が余裕で余るくらいの搭乗人数だ。

ポツリポツリと座っていた人たちが、シートベルトサインが消灯した途端、一斉に動き出す。夜中の出発便という事もあり、早々にアームレストを跳ね上げ、身体を伸ばせる寝床をつくる乗客。
だらしなく横になりながらゲームに耽る乗客。
若いカップルでの旅行にもかかわらず、2、3列離れて席に、別々で座られる男。
やたらと座席を転々とするオヤジ。
客室乗務員もどこか緊張感に欠け、「まあ皆さん好きにやってくださいな」的にルーズに見えたりもする。
兎に角、機内全体が、ネットカフェの様相を呈しているのだ。

なるほどこうした事も時にあるのだ。と納得した出張となった。比較的距離の短いバンコクへの出張だったことが少し残念ではある。あわよくばアメリカかEUであったなら…と。

しかしタイ国際線の名誉のために言っておくと、行きの便は満席だったのだ。
それでもやはり、これがこの北の大地が誇る新千歳空港への就航便だから、ではないことを祈るのみだ。
直行便が無くなってしまうのは不便だし、なにより寂しい。

ただ、乗客も少なく、物悲しい機内に差し込む朝日は、なんとも美しく輝くのだった。

#エッセイ #日記 #旅 #飛行機 #海外 #出張

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