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【SFショートショート】2極化の人類と自粛警察

2020年に何が起こったか覚えているか?

新型コロナウィルスの世界的流行、パンデミックだ。欧米の各都市はロックダウンし、日本でも緊急事態宣言が発令された。

この混乱の中で人々は2タイプにくっきりと別れ、パンデミック後同じ地球に生息しているのにも関わらず、双方は全く違う生き方をみせた。

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2タイプの大きな違いは心のどちら側を使っているかということにあった。

左心タイプは、どちらかというと上の世代に多かった。

一見、品行方正で礼儀正しい。所属欲求が強く、社会に尽くすことこそが人間の務めと信じ、我慢強い。自分より立場の上のものに認められることを喜びとし、承認欲求が強い。常に周りが他人が気になる。自分が "まとも" に見えているか、常識を逸脱していないか。自分の気持ちよりも、社会、上、世の中に重きと信頼を置いている。

右心タイプは若者に多かった。一見チャランポランでノーテンキに見える。自分とは何者か?自分を知りたい欲求が強く、自分と向き合う時間が長い。仲間との飲み会よりも、瞑想やヨガがなど一人静かになれる空間が好き。人にどう思われているかは気にならない。世の中や社会という定義もしっくりこず、常識と言われることの中にも真理を見つけようとする。何よりも自分の決断に信頼を置いている。

つまるところ左心タイプは己よりも社会や常識にハンドルを握らせ、右心タイプは己自身にハンドルを握らせているわけだ。

パンデミック下で国は給付金、補助金、助成金を放出した。また一律10万円が支給され、全ての国民は国からの援助を経験した。

70年代前半生まれのM氏はというと左心タイプだった。パンデミックの時は、M氏の勤める会社が初の在宅勤務に踏み切った。

「明日から満員電車に乗らなくていいのか」と一瞬は喜んだM氏だったが、家ではニュース番組に釘付け。テレビの中の専門家やコメンテーターは恐怖を煽り、M氏は在宅勤務の喜びもつかの間、イライラしてきた。

在宅勤務ができない妻はまだ会社に通っている。ウィルスを持ち帰ってきたらどうしてくれるんだ!せっかく俺は家に篭ってるというのに!M氏はさらにイライラした。

慣れないオンライン会議、コーヒーを入れてくれる部下もいない自宅オフィス。ひとりで仕事をしていても身が入らない。やる気が出ない。秘書に小言も言えない。M氏のイライラは頂点に達していた。

ある日、近くの海に県外からサーフィンをしにきているサーファーがいるとテレビで見た。

「緊急事態宣言も出ているのにけしからん」

M氏はすぐさま "県外から来るな!今すぐ出て行け" と印刷した紙を100枚すり、海岸へ出かけた。

県外ナンバーを見つけるとその紙をペタペタ貼っていった。

「俺が家に篭って我慢しているというのに本当にけしからん」

お昼ご飯の買い出しでスーパーに出かけた時、駐車場に県外ナンバーを見つけ憤るM氏。すぐさま携帯電話で119をダイヤルした。

妻が家に帰宅すると昼にあったことを得意げに話した。

「今日スーパーに県外ナンバーの車がいたから警察に電話してやった。ほんとクソ迷惑なやつだ。今度見かけたら鍵で傷つけてやる」

妻は呆れ顔だった。

あくる日は散歩をしていると公園で遊ぶ子供たちを見かけた。
「けしからん!」

慣れた手つきで119のダイヤルを回した。

妻にコロナ離婚を突きつけられそうになったM氏だが、
無事夏が来る前には緊急事態宣言も解け、世間も落ち着きを取り戻した。

パンデミック後、IT・ロボット産業は急ピッチで成長を遂げた。
そして人類はついに労働開放宣言発令の日を迎えることになった。

「働かないで国から金をもらえなんてけしからん」
M氏は発令の翌日も出社した。

「俺はこの会社にい続けるために、全てを犠牲にして努力してきたんだ。今更来なくていいなんてけしからん」

M氏はあくる日も、あくる日も誰もいないオフィスに出社した。

会社の近くでお昼ご飯を買いに行こうと通りがかった公園で、芝生に寝そべりくつろいでいる元後輩を見かけた。

「けしからん!おい後輩。ここで何をしているんだ?働け!」

また別の方向からは下請けの担当者が家族で歩いて来る。

「パパー、これから遊園地に行きたい」
「いいねー、どこでも好きな場所に行こう」

M氏は耳を疑った。
「何を言っているんだ。今日は平日なのに」

M氏は119にダイヤルを回した。

「ここに平日なのに働かないで遊んでいる奴がいます」


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