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オンラインRPGという自由物語世界(1997年)

●とある冒険者の日々

 冒険者を夢見るエルフの少女がいた、名をClariceという。厳つい甲冑に身を固めた戦士たちが、鍛錬のために危険な地下のカタコンベに潜り戦っている中を、場違いな緑の布服と弓という軽装で死人(シビト)たちを狩っていた。なぜ重装をしないのかと問われると、汗臭くて重い甲冑が嫌いなのだという。

 いつものように狩りをしていると、呪文とともに突然ゲートが開き中から存在するはずのない上位死霊魔法使いリッチーが現れた。プレイヤー狩りをする盗賊たちの仕業だ。逃げ惑う戦士たち。喧噪の中突然黒い風がはしりぬけた。黒い甲冑に深紅のマントのその集団は、リッチーを切り捨てて走り抜けていった。団の名をScV(Scarlet colored Vampaire)という、強い団があれば善悪の区別なく宣戦布告する、受けなければ汚く罵るマスターLapisはいかれていると評判だった。街でも安息が得られない戦争は2つの団どうしで行うのが普通だが、常に複数の団と敵対しているのが狂戦士集団ScVだ。その姿に魅了されてしまったClariceにとっては、その出会いがその後の人生を変える決定的なものとなった。

 その後、ScVを退役した居酒屋の主人との出会い。給仕をしつつ、そこで出会った友人と特訓を受ける日々。家を手に入れ、ホッキョクグマを飼い。大量発生したモンスターにやられそうになった時には、カタコンベで出会った名も知らぬ戦士たちが助けてくれた。ついにはScVに入団。チートを使う中国マフィアなどありとあらゆる強敵たちとの闘い、Yamato大戦とよばれるサーバ全体を巻き込む雌雄を決する死闘に勝利した後、ScVは姿を消した。

●MMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)という自由物語世界

 1997年ゲーム界に激震を起こしたウルティマオンラインが登場した。リチャード・ギャリオットが、ファンタジーな世界での生活を実現することを夢見て提供し続けたRPGウルティマの剣と魔法の世界をプラットフォームとして、オンラインで接続して自由に生活できる環境をついに提供した。プレイヤーは、木こり、採掘、釣りなどの素材を売る一次産業、素材を加工して料理、武器防具、家具などとして販売する二次産業、需要と供給により価格が変動する商店を営むことができる。地下迷宮にはモンスターが存在し、アイテムを収集することもできる。システムで用意されたクエストなどなく、リアルな生活がそこにはある。あらかじめ職業を選択するという概念はなく、剣士となるか、魔法使いとなるか、生産者となるか、加工者となるかは関連する技能を繰り返し使うことにより鍛えるることにより選択する。1人で冒険することも、チームを結成して集団で商業や探検や戦争を行うことも可能だ。鍛えていなければ鹿にも勝てない現実、リアルな世界がまさにそこにある。100人を超える戦争では、集団戦ならではの戦法が編み出され、少数精鋭による奇襲の有効性を体感し、集団による用兵の難しさを実感する。そこにはコミュニケーションがあり承認欲求を充足する社会がある。プレイヤーたちには、そこでの生活が学業や仕事の合間の数年間でしかなかったとしても、それぞれの濃い記憶と体験と物語が残るのだ。



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