価値観を失わせずに周りに共感を呼び承継していく石巻工房|芦沢 啓治さん
7月27日、武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論Ⅱ 第11回の授業内にて、建築事務所を営んでいる芦沢啓治さんのお話を聴講しました。
住宅を中心に建築士として生計をたてておられたものの、建築やインテリアだけに留まらず、家具やプロダクトのデザイン、工房運営、そしてプロトタイプ展01-04などの展示会デレクションまで、多岐にわたるお仕事をなさっておられます。自分の街をより良くしたいという考えの中で、自分の街を楽しくしようと思った時に、お高く溜まっていたら良いものができないのでは?という問いに向き合い、近所の店からのデザイン依頼は50%オフでビジネスを受注するキャンペーンをやったとのエピソードも、自分のビジネスよりも地域のことを考えているからこその発想だと感じます。
印象的であった取り組みのひとつが、大震災のあった2011年に石巻工房の活動でした。石巻工房は当初ボランティアとして復興の一助を担っておられ、大きなパワーを当時の石巻に与えました。石巻の木材を活用した家具造りやワークショップ等でボランティアを中心に数年過ごしたうえで、持続的に石巻に寄与していくためにもビジネスへの転換が重要だと考え、今で言うDIYのハシリである、家具を作り上げるための材料の販売や石巻工房の家具の販売等に拡げていく。
現在はカリモクと提携し、幅広く商業向けにも家具を展開をしているとのことです。石巻工房の家具は、針葉樹の木材を使って家具を作っていた一方で、提携したカリモクと作った家具は、耐久性が高いハードWoodで作られているという違いがあるそうで、その違いにも面白さを感じます。我々は広く出回っている家具を買い、出回りやすい家具が置かれたレストランに足を運ぶことが多いので、自分がいかに広葉樹でハードWoodを中心とした頑丈な木材にのみ触れていたことに気づかされます。そういった意味でも、その土地の木材を活かして家具をつくり販売するということの重要性も感じました。
その後、日本国内のみならず世界のデザイナーに注目され、石巻工房の家具の展覧会等を行ったとのこと。それをきっかけに、スツール等の家具に惚れ込んだ世界のデザイナーたちが、各国でその椅子を作らせて欲しいとの声が上がり、世界6都市でMade in Localでその国の職人で作った石巻工房の家具を展開しようということにつながったとのことでした。
一言で言うと、現地ローカルのデザイナーを雇うということではあるのですが、結果として興味深かった点としては、各都市での石巻工房の家具シリーズのMade in Localは、石巻らしくそして石巻らしくなくなっているということです。石巻工房が大切にしている考え方や価値観は基軸に据え、デザインは沿うのですが、それぞれの土地や文化、その土地で生きてきた人々の価値観を反映したものになっている点です。そのデザイナー自身の思想や考えが入っているからだと思いますが、その根っこにはそのデザイナーが育った土地や文化が存在しており、それによって、製作された家具がその土地の文化をふまえた雰囲気に仕上がっていることに驚かされます。
現地ローカルのデザイナーと共創しながら製作したことで石巻工房として大切にしている考えは伝わったと語っておられましたが、その中でも規律やルールに完璧に沿わせるのではなく、その土地のデザイナーの想いや価値観を暖かく広い心で受け入れ、見届けていたことかなと感じます。物事を波及させていく際には相手のことを信頼し面白いね!と言ってエンゲージしながら共感の輪を拡げていくことだと感じました。