心を病む人に対する接し方が完璧だった
ここの所、僕と嫁さんとのエピソードを紹介してる。
前回は、長野から再び東京へ出てきた彼女が、僕の実家に着の身着のままで逃げてきた話を書いた。
要約すると、彼女のアパートの隣の部屋のおじさんが、酔っぱらって彼女の部屋のドアをけり上げて、「出てこい!ぶっ殺してやる!」と怒鳴って暴れたから、警察に保護された彼女が、まさかそのアパートに帰るわけにもいかず、僕の実家で保護したという話。
僕はそれまで、家族のだれにも彼女の存在を明かしていなかったので、この事件をきっかけに彼女の存在を知られることになった。
別のアパートへ引っ越すことになった
しばらくの間、僕の実家で暮らしていた彼女だったけれど、いつまでも居候しているわけにもいかず、だからと言って、隣のおじさんが怖いので、アパートにも帰れず、途方に暮れていた。
そこで、アパートを仲介した不動産屋に相談してみることになった。
すると、不動産屋が大家さんに掛け合ってくれて、大家さんが所有する別のアパートに引っ越すことができるようになった。
入居して間もないことや、隣の住人が暴れたという事情を考慮してくれて、新たな敷金や礼金などは無しで、別の部屋へ移れることになったのだ。
彼女一人ではなるべく部屋に行かないようにして、こそこそと引っ越すことにした。
長野から東京へ出てくるときにお願いした赤帽の運転手さんに手伝ってもらって。
そうして新しい部屋に移った彼女は、僕の実家を出ていった。
おそらく一か月以上はいたんじゃないかな。
実家を追い出された僕は彼女の部屋に転がり込んだ
以前の記事も書いたのだけれど、母親が退院してきてからは、僕が母の看病をすることになった。
母は僕を頼りにしていた。
その様子を見ていた姉が、「あなたはここにいないほうが良い」と言った。
その時僕は、長男を辞めるチャンスだと思って実家を出ることになった。
もちろん、姉が彼女の存在を知ったからこそ、そういうことを言い出したことはわかっていた。
メンタルを病んでいた僕は、将来のことなんて考えられなかったから、周りが外堀を埋めていくように動く感じがとても嫌だったのだけれど、メンタルを病んでいたからこそ、そういうことにいちいち抵抗する気力もなく、自分が一番楽でいられる場所に移ることにした。
メンタルを病んでいると、なんだかいろんなことが面倒になるし、どうでもよくなる。
それまでのクソ真面目な僕だったら、婚約はおろか、付き合っているんだかいないんだか今一つはっきりしないような女性の部屋に転がり込むなんてことは考えられない行動だった。
メンタルを病んだことによって、物事の見方が変わったことや、自分を守るために誰かに甘えてしまうことができるようになった、という側面もあるかもしれない。
先のことはわからない。
とりあえず今はかくまってもらおう。
そんな気分だった。
朝から晩まで寝ていた
実家を出てから、僕は彼女の部屋で朝から晩まで寝ていた。
彼女はバイトにありついて、昼間は仕事に出ていた。
それでも僕は、彼女が出ていってからもずっと、テレビを見ながらゴロゴロと寝ていたのだ。
寝ても寝ても、疲れが取れる感じがしなかった。
うつで会社を辞めて、しっかりと休もうと思っていたのに、母が脳出血で倒れて、父の面倒を見ながら母が経営していた塾を切り盛りして、そこへ彼女が転がり込んできて、姉と大喧嘩をして、と、まったく休めていなかったのだ。
休めないどころか、逆にストレスが増大していた。
僕は、彼女の部屋に転がり込んだことで、ようやくぐったりと休むことができたんだと思う。
とにかく、何か月も、朝から晩まで寝ている生活が続いた。
寝ても寝ても、一向に疲れが取れたり、元気が出るような気配はなかった。
なんにも言わないでいてくれた
僕が、彼女の部屋で何日も引きこもっている間、彼女はそのことについて一言も何も言わなかった。
いつまで寝ばかりいるつもり?
たまには外に出たら?
病院にでも行ったら?
そのままでいいの?
なんて訊きたくなるのが普通だと思うのだけれども、見事に何も言わなかったのだ。
これには本当に助けられた。
朝、彼女が家を出ていった時のままの姿で、彼女が帰ってくる毎日だったのに、本当に何も言わないでいてくれた。
僕は後になって、あの時はどうして何も言わなかったのかと尋ねたことがあったのだけれど、彼女は「さあ。。」と言ったきりだった。
言わないようにしていたのか、それとも何も考えていなかったのか。
その辺がわからないところが、なんともとぼけている。
それが、彼女の味なんだけれども。
しかし、そのとぼけた感じに僕は本当に救われたんだ。
完璧な対応だった
結果的に、心を病んだ僕に対する対応の仕方が完璧だったんだと思う。
それを知っていたのか、意図していたのか、天然だったのかは僕にはわからないけれど。
心を病んでいるから、エネルギーが湧いてこない。
いくら頭で、こんなことをしていたらダメだ、とか思っても、エネルギーが湧いてこないんだから仕方がない。
むしろ、そうやって自分を責めることは回復の妨げになってしまう。
もちろん、周りが焦らせてしまうのも良くないことなのだ。
ただ、待つしかない。
待っていれば、また動き出そうという気になってくる。
それまでは、しっかりと休むことが大切なのだ。
(つづく)
自分がうつ状態に陥って、そこから這い上がってくる過程で考えたことなどを書いています。自分の思考を記録しておくことと、同じような苦しみを抱えている人の参考になればうれしいです。フォローとスキと、できればサポートをよろしくお願いします!