好きでやっている人にはかなわない
九州の大学に通っていたけれど、僕は末っ子にもかかわらず長男だから、そのうち東京の実家に戻って、両親と同居してその面倒を見なければいけないと思っていた。
4年生になっても、まだ東京には戻りたくない。
専門家としてやっていく自信がない。
自信がないから、もう少し勉強したい。
そのうえ、双子の姉の片割れも、大学院まで進んでいたし、僕だって大学院まで行ってもいいだろう。
そんな甘えた考えもあった。
そんな消極的な理由で大学院進学を決めた僕。
今から考えると、なんて後ろ向きな理由だったんだろうかと思う。
かなり、幼稚な考え方であると、この歳になると思うのだ。
でも、当時の僕にとっては本当にいろんなことを考えた末の決断のつもりだった。しかし、それが甘い考えだったことを、大学院に行ってから思い知るのだ。
嬉々として研究に明け暮れる友人たち
大学院に進学してみて、僕が一番驚いたのは、先輩や友人たちが、実に嬉しそうに、楽しそうに、自分の研究に明け暮れているという姿だった。
担当教授との面談も楽しそうだし、課題を見つけること嬉しそうにしているし、図書館にこもって資料を読み漁り、自身の研究の実験を楽しそうに行っている。
その姿を見て、僕は愕然とした。
僕は、それまで、勉強というのは義務感で行うものだと思っていた。
自分が社会に出るためには、ある一定の実力を備えていなければいけない。そのために、やらなければいけないからやる。という感覚だ。
面白いとか楽しいとか、そういう感覚とは無縁で、そんなことは一度も思ったことはなかった。
しかし、大学院に進学している人たちの中には、実に楽しそうに研究に取り組んでいる人が少なからずいたのだ。
好きでやっている奴にはかなわない
そういう姿を見て、「ああ、こういう連中には、絶対にかなわないな。」と思った。
だって、好きだから楽しんで研究行っている人間に、僕のように義務感で取り組んでいる人間がかなうわけないもの。
その、湧き上がるエネルギーには、逆立ちしてもかなわない。
根性だけでなんとかなるような代物ではない。
最初から勝負になるはずがなかった。
僕はそのことを思い知った。
勉強は義務感でやるものだと思っていた
この経験は、僕にとってはとても新鮮だった。
勉強を好きでやっている奴がいる。
勉強というのは、将来のためにつまらないけれども我慢して努力して、義務感でやるものではなかったのだ。
それは、純粋に驚きだった。
子どものころから、勉強は「やらなければいけないもの」だった。
僕はずーっとそう思ってきた。
学校の授業もつまらないけれど、おとなしく受けなければいけないもの。
宿題も、面倒くさいけれどもやらなければいけないもの。
テストも、受けるのは嫌だけれども、受けなければいけないもの。
成績は上げなければいけないもの。
受験勉強も、やりたくはないけれどやらなければいけないもの。
勉強とは、自分のために、大人になるために、安定した収入を得て両親の面倒を見るために、避けては通れないものであるという認識があった。
それが大前提だった。
だって、そういう教育を、知らず知らずのうちに受けてきたもの。
子どもにとって、勉強は義務だよね。
親も、学校の先生も、みんなそういう風に教えてきたよね。
だから、まさか勉強を楽しんでいる人がいるなんて思ってもみなかったのだ。
今の日本の教育についてもっともよくないと思うのは、勉強の楽しさを教えないことだと思っている。
どんなに楽しいことでも、無理やり教え込まれて、無理やりテストをされて、親や先生から評価をされ続けたら、それはつまらないものになってしまう。
子どもたちには、勉強の楽しさを教えてほしい。
後戻りや途中下車はできなかった
大学院に進学するまで、勉強は義務で行うものだと思っていた僕。
にもかかわらず、楽しそうに研究をしている人を見て驚いた。
僕は、彼らのようにはできなかった。
しかし、だからと言って、大学院を途中でやめることは考えなかった。
せっかく入った以上は、しっかりと修士論文を仕上げて、修了するしかないと思ったのだ。
だって、両親にわがままを言って、九州の大学に行かせてもらって、しかも大学院まで行かせてもらったのだ。
ここで辞めるなんて言えるわけがなかった。
大学院をきっちりと終了して、そこで学んだことを生かす職業に就くしか、僕の将来の道はなかった。
それ以外の道に進むわけにはいかなくなっていたのだ。
そう、ここまでくると、選択肢は限りなく狭くなっていたのだ。
これから先は、過去を引きずって生きていかなければいかなくなっていた。
(つづく)
自分がうつ状態に陥って、そこから這い上がってくる過程で考えたことなどを書いています。自分の思考を記録しておくことと、同じような苦しみを抱えている人の参考になればうれしいです。フォローとスキと、できればサポートをよろしくお願いします!