花明かりの中で

リビング。
 
「あれ？」
「どうしたのパパ？」
 
「いや、気のせいかな～」
「何が？」
 
「なんか、最近この窓際が、
　前より綺麗きれいになったような、
　気がするんだよね～」
「そう？
　私はいつもと同じような気がするけど」
 
「前ならね、
　外へ出ようとしてこの窓開けると、
　レールに結構なゴミが溜たまってたんだよ」
「ああ～言われてみればそうかも。
　パパまめに掃除してくれてたね」
 
「そう。
　でもしばらくゴミがないから、
　してないんだよ…ひと月ぐらい」
「いいことじゃない…」
 
「うわ、ビックリ！
　あはは、あ、どうも、こんにちわ～」
「どうも～」
 
「突然、カーテン開いて
　目の前に人が現れると、
　やっぱり驚おどろくね」
「お隣さんもパパと同じように、
　ビクッ！てなってたわよ」
 
「僕はそんなに驚いてないよ」
「ビックリ！ってパパ言ってたよ。
　まあ、ここ隣とちょっと近いから、
　なおさらだけどね」
 
「そうだね。ここらの区画くかくは、
　住宅の間隔が狭せまいね」
「お隣のお子さんの喧嘩けんか、
　聞こえる時あるから」
 
「うちも気をつけないと」
「そうね…あれ？
　私たちさっき何の話してた？」
 
「なんだっけ？
　ああ～このレールに、
　ゴミが溜まらなくなったって話」
「それはあれでしょ？
　うちのルンバが優秀ゆうしゅうなんじゃないの？」
 
「どして？」
「ほら買う時、説明受けたでしょ。
　学習機能があるとかって」
 
「そうだっけ？」
「もう、またパパは、
　人の話聞いてないんだから。
　きっと学習機能で
　掃除も効率化したんじゃないの？」
 
「そう…なのかもね。
　そうだね。賢かしこくなったってことか！」
「ほら噂うわさをすれば来たわよ」
 
ルンバが奥からスーッと現れ、
二人の前の大きな窓の前で止まる。
 
「ここを重点的じゅうてんてきに掃除してるみたいだね」
「でも待って。
　なんか動き…おかしくない？」
 
ルンバはこの出入りができる掃出はきだし窓を、
端から端まで何回も往復し始める。
 
クルクルクルクル回りながら…。
 
「お…踊ってる？」
「そう…見えるね。
　可愛い！動画撮とろ！」
 
すると隣の家のレースカーテンが揺ゆれる。
急にルンバは止まり…その場で動かなくなる。
 
レースカーテンがめくれ上がると、
そこからピンクのルンバが顔を出す。
 
さっきまで止まっていたルンバは、
またその場で回りだす。
 
ピンクのルンバも窓明かりを浴びながら、
同じように回りだす。
 
クルクルクルクル。
クルクルクルクル。
 
「……春だね」
「恋の季節ね」
 

 このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。