白い女・黒い女-03(小説)

 今日子は見学に来たときとおんなじに白い頬を、ふっと持ち上げて首を傾げている。早央里はなんだかばからしいような、自分のほうがとんちんかんなことを言っているような感覚になって、目と話題を窓の外へ逸らした。
「雪すごいね」
 すごいですねえ、と返事が来たので安堵した。別の後輩が駆け込んでくる二分後まで、早央里は今日子の顔が見られなかった。

***

 深煎りコーヒーの香りが鼻を抜けて、早央里は我に返る。窓の外は、この街にしてみればずいぶん降った気もするけれど、地元の豪雪と比べたら"あってないような"ものだ。カフェの三階フロアはエアコンで暖かく保たれていて、灯油のにおいのしない代わりに、肌の乾燥は気になってしまう。そもそも、早央里は石油ストーブ特有のにおいが嫌いではなかった。部屋がいっこうに暖まらないので、近くによって手指を翳さざるを得ないのは面倒と億劫があったけれど、寒い寒いと言いながら友人と身を寄せ合って笑ったのは、それはそれで冬の風物詩だった気がしてくる。
 マグカップを握る自分のささくれだった指先を見、年齢は手と首に出るってどこかで聞いたな、とぼんやり思う。
(今日子はいつも爪が綺麗だった)
 今にして思えば甘皮の処理とか、つめやすりだとか、よくケアをしていたんだろう。理由を訊ねたことはなく、ただ、いつも薄ピンクの自爪がぴかぴかとしていた。それを寒そうに両手、すり合わせながら、真っ白な息を吐いて鼻の先を赤くしていた。
 そこらじゅう雪で白いのに、ことさら肌が白くてコートまで白いものだから、ともすると街並みに紛れてしまいそうで、それなのに妙な凄みみたいなものが今日子を背景から浮かせていた。あれを華とか、存在感とか、言ったのだろう。

(続く)

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