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“子ども”じゃなく、“自分の人生”を生きる。専業主婦だった私が研究者になるまで

いつもお読みいただきありがとうございます。

「ふたりのA面B面」第9回は、ご夫婦で「幸福学」の研究者として活躍されている前野さんご夫妻にお話を伺ってきました。

「ふたりのA面B面」とは?
それぞれの視点から「ふたりの転機」について深掘りをするインタビュー企画。人生の重要な局面での喜びや葛藤、決断の背景にはどんな想いがあったのか、それぞれの視点から紐解いていきます。

幸福学の研究者、そして会社経営者の肩書を持つ前野マドカさん。第一線でご活躍するマドカさんですが、実はお子さんが中学生になるまでは、専業主婦をされていたそうです。

育児中、自分を後回しにするあまり、“自分らしさ”を見失ってしまうお父さんやお母さんは少なくありません。そんな中、マドカさんはどのように専業主婦時代を過ごし、その後のキャリアを築いていったのでしょうか。

A面では、マドカさんに、専業主婦から一歩踏み出す転機となった出来事や、夫・隆司さんの支え、自分らしく生きるための心得について語っていただきました。


「収入の半分は、君の稼ぎ」専業主婦は立派な“仕事”

ーーーマドカさんは、もともと外資系コンサルティング会社で働かれていたそうですね。子どもを授かったことを機に、仕事を辞めて専業主婦の道を選ばれた理由を教えてください。

私にとって、未知の世界である「子育て」にとことん向き合ってみたかったんです。隆司さんは、「仕事を続けても辞めてもどちらでもいいよ」と言ってくれたんですけど、自ら後者を選びました。

実際、専業主婦として子育てをしている時間はすごく楽しかったです。子育てに関する情報収集をしたり、日々の子どもの成長を目にしたりと、毎日が発見の連続でしたから。

ーーー専業主婦(主夫)をされている方には、社会との関わりが断たれ、「孤独感」を抱く方も多いようです。マドカさんはそのような気持ちにならなかったのですか?

子どもが小さい頃は、それがまったくなかったんです!前職の同僚がキャリアアップしたという話を聞いても、友人とのランチに行けなくても、自分で選んだ子育てという選択を存分に楽しんでいました。

でも、子どもが成長して、働いているお母さんたちと接する機会が増えると、少しだけ羨ましさや社会から取り残されているような感覚を覚えることがありました。

そんな時、隆司さんに「僕の収入の半分は、マドカの稼ぎなんだよ。だから、マドカはすごく頑張っているんだよ」と言われたんです。

その言葉を聞いて、心が軽くなりました。私のやっていることは、意義のあることなんだって思えたんですよね。

ーーー「収入の半分はあなたの稼ぎ」...。救われる言葉ですね。

専業主婦(主夫)をされている方の中には、働いていないことに後ろめたさを感じたり、家庭の責任をすべて押し付けられ、子育てがうまくいかないことで自分を責めてしまったりする方もいらっしゃいます。でも、そんな必要はまったくありません。

専業主婦(主夫)は本当に立派な仕事です。料理や洗濯、掃除などと、家を守っているおかげでパートナーが仕事に集中できますし、子どもも安心して帰ってこられるんですから。

肝心なのは、自分で「そこに価値がある」と思うこと。「自分はこれだけ丁寧にご飯を作っているんだ」「心を込めて子どもと接しているんだ」と胸を張っていいと思うんです。そうやって堂々としていると、子どもにも“子育て”というのは立派な仕事だということが伝わりますからね。

子育ては母親としての仕事。あなたの人生の夢ではない

ーーー専業主婦として充実した日々を過ごしていたマドカさんですが、今は研究者や経営者として、バリバリと仕事をされていらっしゃいますよね?転機は何だったのでしょうか?

アメリカに住んでいた時に起きた、ある公園での出来事がきっかけです。

当時、隆司さんがハーバード大学で客員教授をしていたので、私も0歳と4歳の子どもを連れてアメリカに住んでいたんですね。隆司さんが大学へ行っている間、大学近くの公園で子どもたちと一緒に過ごすというのが私の日課でした。

ある日、そこで知り合った友人から、「あなたの夢は何なの?」と聞かれたんですね。私は、人生をかけて子育てを満喫している最中だったので、「この子たちを立派に育てること」と自信を持って答えたんです。

すると、「はぁ?今なんて言ったの?」って、めちゃめちゃ呆れられて(笑)。その方にとっては、信じられない答えだったらしいんですよね。

ーーー素敵な夢だと思いましたけど、なぜそんな反応だったのでしょうか?

その方いわく、子育ては母親としての仕事であって、あなたの人生の夢ではない、と。

「子育てを自分の夢にしてしまうと、子どもが心からやりたいことがあったときも、知らず知らずのうちに子どもに自分の夢を押し付けてしまうかもしれない。でも、それは子どもにとって、すごく不幸なこと。子どもは子ども、あなたはあなた。自分の夢を持って、その姿を子どもに見せるべきだよ」と言われたんです。

周りを見渡すと、その公園には夢を持つ人ばかりでした。父親であろうが、母親であろうが人生の夢を持って大学に学びに来ていたんです。

私は、ハンマーでガーンと頭を殴られたような衝撃を受けました。今振り返ると、この出来事は紛れもなく「自分の人生を生きる」ターニングポイントになりましたね。

PTA会長に挑戦した専業主婦時代。無条件の「君なら大丈夫」が一歩踏み出す勇気に

ーーーアメリカでの出来事がマドカさんの人生を変えたのですね!では、その後すぐに働き始めたのですか?

企業に勤めるということはしていませんが、帰国後に、「子育てのヴィジョンを考える会」を立ち上げました。アメリカでの衝撃的な出来事を経験し、「これこそ、私が伝えなくちゃ」と思ったんですよね。ワークショップや対話を通して、お母さんたちが自分らしく、輝きながら生きていくためのヒントを探求する活動をしていました。

長男が小学校に入学すると、学校での過ごし方を知りたいという思いから、今度はPTA活動を始めました。全力投球でやっていたら楽しくて、子どもふたり分の合計8年間、どっぷり浸ってしまって(笑)。最終的にはPTA会長を務め、「全国PTA連絡協議会会長賞」まで授与していただいたんです。

ーーー8年間も!? 会長までされるなんて、それほどマドカさんがPTA活動を楽しんでおられたということですね!

でも実は、最初にPTA会長に就任してほしいと頼まれた時は、断ったんですよね。会長としてすべての責任を負うのは荷が重いと思いましたし、その頃は下の子が小さく、義母に預けてまで夜の会長会に行くのも気が引けたんです。何より、会長なんてやったこともなかったので、不安が大きくて。

でも、そのことを隆司さんに話すと、「えっ!?断ったの?」とすごく驚かれたんです。「こんな成長の機会を用意してもらっているのに、マドカはそれを掴みにいかなかったの?」と..。

ーーー「PTA会長」と聞くと、大変そうなイメージから断る方が多い気がします。でも、隆司さんの印象はそうではなかったのですね。

そうですね。隆司さんは、「私が成長する場」だと捉えてくれていたようです。

彼は「新しいことにチャレンジするとき、葛藤があるからこそ、人は成長できる」と、いつも言ってくれるんです。だから私たちの間では、もし悩んでいても「ナイス葛藤」「順調にモヤモヤしているね」と声をかけ合うんですよね。

そう思うと、気分が楽になって、新しいこともひらめきやすくなり、さらに新しいステージにも行ける。素晴らしい循環ですよね。

私は、隆司さんの言葉で気持ちが前向きになり、翌日、お話を頂いた方に電話をかけ直しました。こうして、晴れてPTA会長を務めさせていただくことになったんです。

ーーー隆司さんの言葉もパワフルですが、そこで大きな決断をできるマドカさんもすごいですね。

隆司さんがいつも言ってくれる「マドカなら大丈夫」という言葉に背中を押されたんですよね。

隆司さんは「誰が何と言おうと君のことをとことん信じているし、尊敬している。マドカならできるよ」といつも言ってくれるんです。PTA会長なんかやったことないし、やり遂げられる根拠なんかどこにもないんですけど、そうやって一点の曇りもなく言われると、私もなんだかできる気がしてきて(笑)

隆司さんが言ってくれた、無条件の「君なら大丈夫」で、一歩を踏み出せたんです。

ーーー「君なら大丈夫」...。素敵な言葉ですね。実際、PTA会長をされてみてどうでしたか?

人生でこんないい経験をさせてもらったことはないと言い切れるくらい、貴重な経験でした。専業主婦ということに変わりはありませんが、ある意味、私のキャリアのひとつになったと思います。

PTA活動には、熱心に参加される方、そうでない方など、本当に様々な方がいらっしゃいます。その中で、どのようにすれば全員が同じ目標に向かって進んでいけるのか、一人ひとりの能力を最大限に引き出せるのか、試行錯誤の毎日でした。まさに、会社の経営者と同じようなことをしていたんです。

ちょうどその頃、隆司さんが行っていた「幸福学」の研究で幸せの4つの因子(※)というのが明らかになりまして。それを意識しながら運営すると、バラバラだったチームも、うまくまとめられるようになったんです。この経験から、「心の持ちようで、環境は変えられる」と身をもって学びました。

物事に取り組むとき、不安や不満があると、それを先に解消しようと動くので、結局心にゆとりがないままになってしまいます。一方で、目の前のことにワクワクした気持ちで取り組むと、自然と心にゆとりができ、人とのコミュニケーションも丁寧になる。すると、周囲からの印象もよくなって、事が順調に進む。

こんな気づきを得られたのも、あの時、PTA会長になるというチャンスを逃さなかったからです。隆司さんが私のことを信じて応援してくれたから、圧倒的に成長できたんだと改めて感じますね。

(※)幸せの4つの因子…「幸せ」のメカニズムを客観的かつ統計的に分析して導かれた4つの心。この4因子を意識することで、人生をより自分らしく幸せに過ごせるようになると提唱されている。

幸せの4つの因子 EVOL株式会社HPより

ご飯を作ることが、いい母親でいるための最後の砦!?

ーーー8年間のPTA活動を終えた後は、現在のお仕事のひとつである、研究者の道に進まれたそうですね。その経緯を教えてください。

下の子が小学校を卒業してPTA活動が終わると、心にぽっかり穴が空いてしまって、もう一度働きたいと思ったんです。とはいえ、前職に戻るにはブランクが空きすぎていたし、勤務場所や勤務時間、給料といった条件で仕事を探すのも、もし合わなかったら長続きしないと思って、履歴書をなかなか出せずにいました。

その時に改めてやってみたのは、自分の得意や好きなことを考えること。小さい頃から興味のあったことや、ワクワクする瞬間をノートに書き出していきました。そうすると、やっぱり私は人と関わることが好きだなと気づいたんです。

そんな時、隆司さんがタイミングよく「幸福学の研究者が足りていないからやらないか?」と誘ってくれて。研究内容も、「人間はどうすれば幸せになれるのか」という、私の興味のある“人”に関することだったので、これは!と思って、研究員をすることに決めたんです。

ーーー研究員になって、大変だったことは何ですか?

県外へ出張へ行ったり、睡眠時間を削って働いたりと、いつもと違うことをするので、勝手が違って大変だったり、子どもたちもそれに戸惑ったりすることがありました。専業主婦をしていた頃とは違い、ご飯やお弁当を作れない日も多くなって、子どもたちに申し訳なく思っていましたね。

そういうとき、困っていることを全部、家族全員に打ち明けるようにしていました。「最近、慣れないことをしていて大変なんだけど、協力してくれる?」「ご飯が惣菜になってもいい?」みたいに。そしたら「ぜんぜん、スーパーのお弁当でいいよ」って子どもたちが言ってくれるんですね。

でも、そう言われても、家族に対する罪悪感は完全には拭えませんでした。きっと、お弁当やご飯を作ることが、いい母親でいるための最後の砦だと思っていたんでしょうね。

ーーーご飯を作るのが母親の最後の砦...。その気持ちは今もあるんでしょうか?

それが、娘のひと言でスッと消えたんです。

罪悪感があった私は無意識に「ごめんね」と言ってたんでしょうね。ある時、娘に「お弁当がなくても、その分お母さんが睡眠時間を取れたり、笑顔でいてくれたりするほうが大事」と言われたんです。

その時になってようやく気づきました。何を勝手に「母親なのに弁当も作れないなんて」って思い込んでいたんだろうって。その娘の言葉をきっかけに、家族に引け目を感じることがなくなりました。

ーーーなんて素敵なお嬢さんなんですか...!

これも、日頃のコミュニケーションを大事にしていたからだと思います。子どももパートナーも、普段からコミュニケーションを取っていなければ、「大事な話だから聞いて」と言っても、急には耳を傾けてくれないものですから。

一緒に過ごす時間のクオリティさえ担保されていれば、時間の長さは関係ありません。どんなに忙しくても、一日たったの5分、10分でいいんです。「愛してるよ」と言ったり、「美味しいね」と笑い合いながらご飯を一緒に食べたりと、子ども一人ひとりと向き合う時間を取れば、子どもは「これだけ自分を愛してくれているお母さんやお父さんがいる」と感じられるんです。

そうやって日頃のコミュニケーションを重ねていたから、大事なときに解決に向かって一緒に話し合えたんだと思います。

私を世界一信じてくれる夫がいるから、頑張りきれる

ーーー家族との日頃のコミュニケーションが、家庭と仕事の両立という困難を乗り越えるカギとなったんですね。ちなみに、隆司さんの振る舞いで助けられたことはありますか?

いつも「何かあったらいつでも聞いて」って、どんなに夜遅くても、子育てのことから仕事のことまで、延々と私の話を聞いてくれていました。もし改善が必要であれば、一緒に戦略も考えてくれたりして。実際、「私がゴミ出しをする代わりに、隆司さんは私の研究の資料を確認する」という私たちらしい分担方法も見つけました。

隆司さんは、「こんなにも視野が広い人は他にいない!」と思うほど、物事を多角的に見る人です。私が悩んでいると、いつも思いもよらないアドバイスをくれて、ハッとさせられるんですよ。おかげで私も俯瞰して考える癖がついて、悩む前に解決できるようにもなりました。

そして何よりも、私のことを信じてくれていることに感謝しています。「マドカなら大丈夫」と、私のことをとことん信じてくれるから、どんなときでも頑張りきれるんですよね。

私のことをこの世で一番信じてくれているのは、間違いなく隆司さんです。そして、私も、この世で一番に隆司さんのことを信じています。

どんな人生を生きたいかを考え、自分で価値を創り出す

ーーー改めて、専業主婦から研究者、そして経営者に転身して、どんな変化があったのか教えてください。

以前よりも成長を感じるようになって、幸せが濃くなったと思いますね。

PTA活動をやっていた頃は、誇りを持って活動をしていたんですけど、収入をもらっていなかったからか、心のどこかで隆司さんと対等と思えていなかったんですよね。それが、研究者として働き始め、そこから自分の会社を作って、ようやく自分も頑張っているなと認められるようになったんです。

私たちの行う幸福学の研究では、人は成長を感じられると、幸福度が高くなるということがわかっています。私たち夫婦が幸福度を高い状態に保ったままでいられるのは、お互いが、昨年よりも今年、昨日よりも今日というように、日々成長を感じられているからだと思います。

ーーーありがとうございます。最後に、自分らしく生きたいと思う世の中のお母さん、お父さんにメッセージをお願いします。

自分らしく生きるには、まずは「“自分”はどんな人生を送りたいのか」「自分の良さや強みは何か」を考え抜くこと。そして、それらを目の前のことにプラスアルファして、価値を創り出していくことだと思うんです。

今は、自分の好きなことを仕事にできる時代じゃないですか。お片付けが得意だから、それをSNSで伝えて仕事にする方だっています。ひとつの会社や条件に縛られず、極論、起業するような勢いで、自分でキャリアを創り出していくと、人生の可能性がどんどん広がっていくと思います。

そうやって、自分が仕事に向き合う意味を見つけられると、家族に負い目を感じる必要もなく、「お母さんも頑張っているからあなたも頑張ってね」と胸を張れると思うんです。ワクワクしながら働くお母さんの背中を見て、きっと子どもも、仕事って素晴らしいものなんだ、とわかってくれると思いますよ。

ーーーマドカさん、ありがとうございました!


昨今、共働きの家庭は増えていますが、中には「私が育児・家事をやらなきゃ」と無意識に背負い込んでしまっているお母さんは依然として多いのではないでしょうか。自分が本当にやりたいことに踏み出せなかったり、必要以上に自分を責めてしまったりするのは、それがひとつの理由かもしれません。

だからこそ、マドカさんの「母親は立派な仕事」「クオリティさえ担保されていれば、時間は関係ない」という言葉に心が救われた人は少なくないはずです。自分はもう十分頑張っている、と少し自分を認められ、前に進める気がしてくるのではないでしょうか。

いったん家族や子どものことは忘れて、“自分”はどう生きたいか、自分の好きなことは何か、深く考えてみる。そして、目の前のことがワクワクするものになるように工夫してみる。自分らしく生きるための第一歩は、他の誰でもない“自分”に焦点を当てることだと学びました。

そして忘れてはならないのは、パートナーや家族とのコミュニケーション。日頃のコミュニケーションが、“自分らしく生きる”手助けになるのだと教えてもらいました。

「私は今こんなことがしたい」「~してくれてありがとう」「こんなことに困っているんだけどどうしよう」。子どもの話だけでなく、自分の気持ちや感謝を伝えてみたり、パートナーの言葉に耳を傾けてみたり。

そういう小さなコミュニケーションを積み重ねることで、前野ご夫妻のような「世界で一番信じ合える」関係に近づけるのかもしれません。

B面では、夫・隆司さんに、パートナーが自分らしく生きられるように意識したことや夫婦関係の変化、妻・マドカさんから受けた影響などを伺いました。

ぜひそちらも併せてご覧ください。



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