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考察:お盆玉

・「お盆玉」なるものを皆さんはご存じだろうか。

・お正月には、子供たちが親戚やら、なんやらからおひねりをもらう風習がある。ご存じ、「お年玉」というやつだ。じゃあ「お盆玉」となると…読んで字の如く、「お盆に子供たちがもらうお年玉的なやつ」のことだ。

・ルールとしてはお年玉と何ら変わらない。お盆に「自分より大体年長な、大体親戚な人からお金をもらえる」というイベントだ。稀に血縁関係なくとも貰えたりする。近所のおじさんおばさんとか。これは子供たちにとってはお年玉と並ぶ臨時収入の機会であり、夏休みを充実させる軍資金となるといっても過言ではない。

・地域的なものなのか、何なのか、僕の地元、青森県十和田市…その中でも僕の周りに於いては、この「お盆玉」の風習があった。小学生の頃なんかは夏休みが明けた途端、「お盆玉、いくらもらった?」とお盆玉の合計額でマウントを取ってくる奴が必ずいた。(何故か、お年玉についてはこの醜い争いは起こらなかった。お盆玉に比べて貰える確率が高いものだから?)

・お察しの通り、「お盆玉マウント野郎」というのは2学期の頭にしか現れない。すなわちそいつは、「夏休みの間プライベートで遊ぶことがなかった奴」でもあるのだ。夏休み中、一緒に遊んでいた仲間たちは、「プール終わりのアイス・駄菓子を奢る」、「カードを1パック奢る」、「新しく買ったミニ四駆やらビーダマンやらベイブレードやらゲームやらを持ってきて、みんなで一緒に遊ぶ」などを通じて、少なからず「お盆玉を友達に還元」している。「いいだろ~!」と自慢した後、「お盆玉を使って、なんかしらみんなと楽しむ」ことが多いのだ。

・そんな理由から、夏休み明けにお盆玉でマウントを取ってくる奴がいる度に、僕は「あ…。」という気分になっていた。そして大体、お盆玉マウント野郎は、家族旅行でディズニーランドやらUSJやらに家族で行っていたりする。国内ではなく、海外の。僕たちが命を懸けたデュエルを公園で繰り広げたり、存在しないワールドグランプリ目指して最速のマシンを追い求めている間に、奴らはブルジョワな夏休み…vacancesを過ごしているのだ。「モノより思い出」なんて名言があるが、僕らは完全に数百~数千円で買える「モノ」に満たされる子供達だった。コロコロコミックという名のホビーカタログは、いつもそうやって僕たち小市民から、お盆玉を巻き上げていった。圧倒的にモノによって造られた思い出しかない。もちろん楽しかった。ただ、本当は羨ましかった。マウント野郎のことが。ものすごく。僕もvacancesしたかった。ヴァカンスを。バカンスではなく。(ニュアンスの問題)

・お盆玉でマウントを取られ、心のどこかで相手を何とか「夏休みを一緒に過ごせなかった惨めな奴」に仕立て上げつつも、7割方「羨ましい」に支配されていた僕は、お盆玉に関して言えば、完全な「負け組」だった。布施家には「お盆玉の風習が存在しない」のである。お盆玉の存在を知った時、たぶん人生で初めての「カルチャーショック」を受けた。「お金貰えるの!?お盆に!?」と、自分の生きてきた十年程度の人生史には存在しなかった「臨時収入イベント」が、奇しくも、少年としての自我の芽生えによりもたらされた友情を介して、その記憶に刻まれてしまったのである。

・考えてみれば、お盆とお正月はよく似た構造をしている。「親族が一堂に会する」のだ。久々の再会を喜び合い、子供たちは大人たちからおひねりを貰う。これはお正月にはごく自然に行われている行事なのだから、お盆にて行われても何ら不思議はない。大人に於ける「夏冬のボーナス」と一緒だ。いや…むしろ…夏冬のボーナスが入るから、大人たちは子供たちにおひねりを…?

・まあ、このご時世ではなかなかに厳しくなってきたとは思う。「あげる側」に回った今だからこそわかるリアル。勿論、子供たちに僕がお盆玉をあげることはない…。(その文化が無いゆえに)

・そもそも僕は、お年玉も然程貰ってはいなかった。原因は明白…会う親戚が、極端に少ないのだ。不仲、ともまた違う。「なんか面倒」なのだと思う。この感じは自分に流れる血がそう語っている。全然、親戚に会ったことがない。数年前、親族の葬儀の際に集まった人々をみて、「…親戚、こんなにいたんだ…」と思ったのが、正直なところである。「親戚一同で旅行!」みたいな記憶は殆どない。唯一あるのは…なんか、山に数回…行った記憶は…ある。

・皆さんの周りには「お盆玉」は存在するのだろうか。布施家のように「そもそもその風習がない」という一族もいれば、「毎年めちゃめちゃ子供たちに期待されててキツい」な一族やら、「ヴァカンスでブルジョワゆえにお盆玉ナイアガラ」な一族まで、本当に多種多様なのだろう。ただひとつ、忘れないでいただきたいことは…

・同じ夏は、二度とは訪れないんだぜ。

・最高の夏にしよう。どなたか僕にお盆玉ください。

fusetatsuaki

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