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チグハグな生活の話。

今更な話だけれど、昨今のパンデミックによって、生活スタイルが激変した。

以前の私は、平日はこのような生活をしていた。

朝、風呂に入って、その後、朝食を食べて、子供を保育園に送る。

その足で、今度は駅まで行き、2時間近く満員電車に揺られながら、都内のオフィスに出社する。仕事を開始して、いきなり電話がかかってきて作業が中断するのにも負けずに仕事をする。

お昼休みには、よく行く立ち食いそば屋さんに立ち寄って、そこで何故か顔を覚えられているので無料でネギを多めにトッピングしてもらい、かき揚げ天そばか春菊天ぷらうどんを食べる。または、付近の居酒屋で、千円をちょっと超えるくらいの少し高めのランチを食べるか、安く済ませたいときはコンビニで軽食を買ってイートインで食べたりする。

食後は、少し歩いて公園でダラダラ過ごす。時間があるときには、駅近くの大型書店に寄って、仕事関係とか好きなジャンルとかの本を物色する。

午後も仕事をして、同僚と話したり、顧客とやり取りをしたり、上司にホウレンソウしたりして、さあそろそろ予定の仕事は終わりかなというところで、不意に声をかけられて突然降ってくるタスクをさばきつつ、定時になったらオフィスを出る。

たまには友人と一緒にご飯を食べたりお酒を飲んだりする日もあったりして、それから電車に乗ってまた2時間くらいかけて、夜、辺りも暗くなった頃に家に帰る。夕食は私以外の家族はとっくに済ませているので一人きりで食べる。

そして翌日の準備をしたりダラダラしたりしてから、代わる代わるお風呂に入って、それから寝る。

それが、パンデミックになり、家で仕事をするようになった今では、こうなった。

朝、風呂に入って、その後、朝食を食べて、子供を保育園に送る。

自室のパソコンを起動して、業務開始の連絡をして、仕事を始める。まずは届いていたメールを見て、担当案件をこなす。好きな音楽をかけて、それを聴きながらモチベーションを保ちつつ作業する。

お昼休みには、妻も家に居る時には一緒に近所のご飯屋さんに行ったり、スーパーやコンビニで買ったお弁当やカップ麺を家で食べたりして過ごす。

午後も仕事をして、職場の人との必要最低限のコミュニケーションはメールかチャットで済ませる。打ち合わせがあるなら、ビデオチャットする。

定時になったら、パソコンの電源を切る。終わり間際に問い合わせがあっても、急ぎでなければ見なかったことにして退勤。それから夕飯の食材と翌日の朝ご飯を買いに出かける。買い物終わりに子どもを迎えに行き、帰宅。みんなで夕食をとる。

そして翌日の準備をしたりダラダラしたりしてから、代わる代わるお風呂に入って、それから寝る。

非常に多くの時間がカットされた。いや、実際にはその時間にやっていたことをやらなくなった代わりに、他のことにその時間が充てられたと言うべきか。

その結果、非常にシンプルな生活になった。

行動の拠点は、基本的には「家」「保育園/学校」「スーパーマーケットなどのお店」くらいになり、家族以外の人と話す場面も、ほぼほぼ無くなった。通勤時間が完全に無くなったことは非常に大きい。往復四時間近くが、丸々他のことに充てることが可能になった。何より家族と過ごす時間が増えたのがありがたい。そして、どこかにフラッと立ち寄ることもしない。極力、他人と会わず、話さず、大きな移動も無い、コンパクトに一日が過ぎていくのだ。

上にも書いたように、仕事上のコミュニケーションはメールかチャット。ビデオチャットやテレビ会議もあるが、目的がある場合だけなので、そこまで長い時間にはならない。電話も取り継ぎされることもあるが、それもそこまで長時間拘束されるものではない。

その代わりに、同僚や上司とする雑談等の、仕事に関係ないコミュニケーションはほとんど無くなり、友人とも直接会ったりすることもなくなった。飲み会も無い。友人や知人は都内在住の人が多いので、地方在住の私にとって、そもそも会うハードルが高くなってしまったのだ。そして最近では、連絡すらも取らなくなってきている。

字面だけで見れば、実にシステマティックというか。合理的ともちょっと違うかな。無機質というか、内向的というか。

そういった生活をしていると、つい「効率」を考えてしまう。

対面で長々といつ終わるか分からない堂々巡りの会議をするよりも、サクッと要件だけ絞ったドキュメントを共有するので事足りる。文面だけでは伝わらない微妙なニュアンスであれば時間を限ってビデオチャットをオンにして説明すればいいし、どうしても打ち合わせが必要なら簡潔なアジェンダをもとに結論を導けばいい。

大体「参加者を多くしておけばいい」と主催者が考えて、本当はあんまり関係ないのにとにかく大勢の参加メンバーを呼びかけている会議も結構多くて、そういうのは居ても居なくても同じだったりするから本当は参加したくない。というか、極力参加しない。けれど、色々な事情から参加しなければならないこともあるわけで、そういう時に、対面ではなくてオンラインの会議だと助かる。簡単に「とりあえず参加してますよ」が表明できるからだ。関係ない議題の時には、カメラはオフにして他の作業をすることができる。対面だとそうはいかない。めっちゃ時間が勿体無い。

そういう時間的拘束以外にも、メリットはある。
資源、つまり、紙、だ。

オンラインであれば、打ち合わせのたびに、資料を事前に印刷する必要は無いし、参加者全員に対してそれを配布する必要もない。プロジェクターも要らない。説明するときには、ファイルを画面共有すればいいだけだ。会議前でも後でも、資料として手元に必要であれば、電子ファイルを参加者宛に送信すればいい。今はホワイトボードの機能がある会議ツールもあるので、それすらオンラインでリアルタイムで情報共有も可能だ。議事録も、会議中に必死でとったメモを整理して上司に見てもらって「ここの表現は違うよ」とか細かい指摘をもらって反映させて綺麗にまとめた書類にして、関係者にわざわざ配る必要もない。そのようなことをしなくても、会議中に、参加者と共有しているオンラインのファイルに、その場で適宜入力しながら議事をまとめればいいだけの話だ。

書籍は紙で読みたい派の私だけれど、仕事で紙を使うのは大嫌いなので、こういうやり方の仕事になって本当に嬉しい。

そもそも、地味にこういう「紙文化」は厄介だ。会社のデスクの引き出しとかキャビネットとかに、ありとあらゆる業務関係の資料が大きなバインダーに挟まれ、そういうのが何個も何個も作られ、しまって置かれる。これは非常に場所をとるし、何より情報として探しにくい。もちろん、業務によっては証憑として残しておかないといけない紙も存在するが、まだまだ「念のため残しておく」系の書類もたくさんある。そういうのは、やっぱり無駄だと思うのだ。ずっと長い間、埃をかぶって誰も見ない状態で管理されていたりすると、余計に。

そういうわけで、今の生活は、業務では紙は印刷しないし、人と会わずにいられて楽だし、非常に「無駄」の省かれた実に合理的なもので、私は気に入っている。

だが、ひとたび仕事の場を離れると、むちゃくちゃ「非効率」な世界に飛び込むことになる。

今私が住んでいるのは、都会でもない、それでいて大自然でもない、地方都市である。地方都市の定義は様々あるので表現は難しいが、悪く言えば中途半端に便利であり不便でもあり、良く言えば良い塩梅に栄えていて住みやすい町だ。

駅に行けば、電車は十数分に一本だから、駅のホームで待つ時間が異様に長い。市役所に行けば、このご時世なのに、いつも多くの人が待合席にごった返していて、いつ自分の番が呼ばれる分からない状態で長い時間をずっと待つことになる。必要な手続きがどこの窓口で出来るのか分からなくて、たらい回しにされたりもする。病院では、地方ならではなのか、高齢者の方がめちゃくちゃ多くて、自分よりも元気そうなお年寄りにバンバン順番を抜かされた後に、やっと診察されたりする。子供の通っている保育園や小学校はまだまだ紙文化だし、必要な情報は子供が持ち帰ってくる「プリント」頼りだ。提出する書類も手書きで出さなくてはならない。

なんとも、非効率というか何というか。さっきまで「実に合理的だ」と思っていた仕事の世界とは大違いなことが多すぎて、すごく面食らってしまう。

便利と不便。効率と非効率。合理的と非合理的。何とも真逆の世界を行き来している。日々、そういうチグハグな中で生活しているなぁと感じる。

けれど、何も「全てが全て、無駄を省いた生活であるべき」とも思っていない。これはこれで良い、と考えている部分もある。

そりゃたしかに、学校や保育園のプリント文化はちょっとめんどくさかったりするが、行事が多かったり規模が小さくて先生が子供のことをよく見てくれていたりすると、嬉しくなる。役所や病院でかなり待たされることも多いが、その分は本を読んだり出来る、そんな自由な時間が貰えたと思えばいい。電車も、全く来ないわけじゃない。私は結構田舎の育ちなので、実家から歩いて行ける距離に駅など無かったし、ましてや電車なんて1時間に何本かのレベルだった。それに比べれば、今の生活はとても便利だ。住宅地は長閑で閑静だし、クルマがあれば満員電車に揺られるよりも快適に移動できる。

東京に暮らしていた時には、今よりも遥かに便利な生活ではあった気がするが、この町はこの町でその良さもある。どちらが劣っていてどちらが優れているというものではないと思う。

便利な世の中にすることや改善も大事だが、きっと「良い方面に目を向けること」も、それと同じくらい大切なのだと私は思う。あれはダメだこれはダメだと不平不満を言って燻らせるより、恐らくその方が精神衛生上、良い感じはするのだ。

そんな、地方在住で、家で働くオッサンの日常でした。
おしまい。


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