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エトガル・ケレット『あの素晴らしき7年』

イスラエル、パレスチナ、イラン・イラクにウクライナ……

私にとっては、ニュースでしか目にしない国々、いや、世界史の授業では聞いたかもしれない。でも私世界史センター試験ギリギリまで12点で、担任の先生に「使わないんだと思ってた」と言われたくらいだから、あんま聞いてない。

とにかく、政治とか、戦争のことでしか耳にしない国々だ。「戦争のある国」。

その国々について知ろうとすると、インターネットでも書店でも、「戦争」「政治」の文脈で流通している。

そりゃそうだ。今も想像を絶するほどの戦争に政治的・経済的制裁。それ以上に報じる必要のあるものは、きっとない。

でも、だからこそ、私はそういう国の人々の暮らしが知りたかった。別に、そういうところから異文化理解が……とかっていうことではない。

イスラエルの人々の、「屁でgoogleが起動した」みたいなクソくだらない話が聞きたい。そういう、ただただそういう「記事にならないこと」が知りたかった。

そんな私に、パートナーが薦めてくれた本が、エトガル・ケレットの『あの素晴らしき7年』だった。

戦時下のイスラエルに暮らす作家、エトガル・ケレットのエッセイ。 

一番はじめの話で、妻の出産を待つ著者に、爆撃テロの取材をする記者が声をかける。「今回の爆撃について、どうお考えですか」「爆撃を受けた人々の感想には、オリジナリティがない」

文学者としてオリジナリティを求められてのことだが、そんなものはないと答える。彼にとっては、爆撃は日常であり、妻の出産こそが、目前に迫っている非日常なのだ。

彼のユダヤ人としてのアイデンティティや国の様相、世界をまさに知ろうとしている息子、自分の家族……。それらを自嘲的かつユーモラスに記録しており、まさに私が読みたいものだった。

こんな良い話ばっかりじゃない。彼がサイン会でメッセージを著書に書くのだが、めちゃくちゃ嘘を書いて殴られるという最悪の話もある。

こういう最悪の話も知りたい。他の話には、彼の抱えるアイデンティティや土地柄が影響を与えているが、その人本人が単に性格悪い話も、知りたい。

こういう文学者が活動していることを凄く嬉しく思うし、敬意を表したい。


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