なぜ『初恋の悪魔』と『石子と羽男』に魅了されるのか。夏ドラマ感想
7月からスタートした夏ドラマを色々と観ている。
ドラマは毎クール決め打ちで1〜2本ぐらいしか観ないことが多いんだけど、7月期は好きな女優が主演を務めるなど個人的にも気になる作品が複数ラインナップされていた。
さらに20代の人気若手女優が主演クラスで一同に会する珍しいクールにもなっていて注目もした。
7月期、主演〜助演クラスで並んだ主な女優は以下の通り。
この記事を書いている時点ではどのドラマも4〜5話を終えたあたりで、全体的に折り返しといった状況。好みの作品はますます面白味が加速していたり、合わなかったドラマは見切りをつけていたりする頃でもある。
あえて好みとか合わないという言い方をしているのは最低限のエクスキューズ。たまたま僕は1話で脱落したものの、2話まで観ていれば案外楽しめたドラマもあったかもしれないし、キャスト次第でバイアスもかかる。
そもそも制作側が取り込みたい想定ターゲットと自分がズレていたら、合わないと感じる演出やキャスティングだってあるだろう。
なので「つまらなかった」と簡単に斬り捨てるのは気が引ける。ここに書くこともあくまで個人の感想かつ主観で、それぞれのドラマのファンや役者を貶めるものでは決してないのでその点は理解してほしい。
視聴を決めたドラマ一覧とその結果
今期、僕が視聴を選んだドラマは以下の6本である。
これでも僕としては多いほう。
とはいえたったこれだけで夏ドラマを総括してどれがトップだなんだと優劣をつけるのは野暮な話である。でもライターでもなんでもない個人の感想なので許してね。
コスパならぬタイムパフォーマンスがモノをいう現代において、1話につき週に1時間を捧げるドラマ視聴はかなりウエイトが大きい。平均世帯視聴率が年々下がっていることからも明らかだが、今の時代とくにリアルタイムでドラマを観てもらうのはハードルが高い。
「とりあえず1話でも観てみよう」という気にさせるだけでも相当な難易度で、それはドラマを作っている人たちが一番痛感しているはずだ。
日曜劇場のようなブランド枠や、坂元裕二や野木亜紀子レベルの名脚本家が手掛ける作品でないかぎり、初めから高い期待値を抱かせるドラマはそうそうない。まず視聴選択の天秤に乗るだけでも素晴らしい企画っすねと僕は言いたい(偉そう)
自分はわりとテレビっ子だけど、アラサーくらいの同世代でドラマを観ている人は極めて少ない印象だ。
20代前半以下の若年層なんかYouTubeにNetflixにソシャゲにSNSにともっと忙しくてもっとテレビに馴染みがないだろう。30代以下ならもはや毎クール1本でも視聴するドラマがあるならそれはわりと熱心なドラマファンといえるのではないだろうか。
前置きが長くなったけれど、何が言いたいかというと、「1話でも観る気にさせてくれるドラマはそれだけで相当すごい」ってことだ。
そんな中、個人的に選んだのは前述の6本である。
ひとえに7月スタートのドラマといっても深夜帯も含めると30本近い作品数があり、これに大河や朝ドラまで及ぶとハッキリいって全網羅は不可能に近い。よほど暇人か倍速再生しながら仕事感覚で観る人でもないと完全な総括なんて無理だろう。
僕の中での選ばれし6本のドラマ、現時点での視聴結果はこうなった。
なんと半分が初回が終わった時点で次回からの視聴は別にいいやと思ってしまった。
Twitterのプロフィールにも推しの女優として名前を挙げている橋本愛ちゃん主演の『家庭教師のトラコ』でさえ、第3話までを観てちょっと苦しい。
好きな役者バイアスがあればわりと過大評価するタイプだと自負してたのに、案外ドラマについてはそうでもないらしい。
これで必然的に今期は『石子と羽男―そんなコトで訴えます?―』と『初恋の悪魔』の2強となった。
この2作に関しては当初から期待値が高かったけれど、そのまま裏切られることない魅力を放ち続け、すでに最終話までの視聴を決めている。やっぱね、最後まで完走させるだけでそのドラマの持つエネルギーは凄まじいよ。
この2つの作品について述べる前にまずそれ以外の4作はなぜ視聴をやめてしまったのか一応綴ってみたい。
火曜22時『ユニコーンに乗って』(TBS)
主要キャスト:永野芽郁、西島秀俊、杉野遥亮、広末涼子
〜あらすじ〜
23歳で起業した若きCEO・成川佐奈(永野芽郁)は設立3年目にして行き詰まりを感じている。仕事第一の日々を送っていたある日、中年サラリーマン・小鳥智志(西島秀俊)が転職してきたことで、仕事だけではなく恋愛にまで変化が巻き起こる……!
〜脱落理由〜
タイトルがね…。
ユニコーン企業=「評価額が10億ドルを超える未上場のスタートアップ企業」という知識がある人がどれだけいるだろうか。そんな予備知識を備えた層はドラマを視聴するだろうか。とか考えちゃうし、実際タイトルだけで内容のイメージがしにくいドラマは不利だと思う。
個人的なエゴサでもこのタイトルについてネガティブに言及している人は多かったし、永野芽郁ちゃんの役柄がCEOなのもリアリティ的に疑問視した人も散見された。個人的には出だしからピンと来なかった。永野芽郁や杉野遥亮ファンからの絶賛を除いたとき、それ以外の層をきちんと取り込めているかは甚だ疑問。
4月期にも高橋一生と柴咲コウが主演だった『インビジブル』という刑事ドラマがあったけれど、アレもタイトルで損をした部分はあった印象。
ちなみに永野芽郁はため息が出るほど可愛くて美しいので彼女に罪はない。おそらく年内に公開を控える映画『マイ・ブロークン・マリコ』と『母性』で更なる新境地と評価を示すと思うのでそっちのが楽しみ。
火曜22時『プリズム』(NHK)
主要キャスト:杉咲花、藤原季節、森山未來
〜あらすじ〜
都内の園芸店でバイトする前島皐月(杉咲花)。皐月は声優の養成所に通いオーデションを受けるが、うまく行かず声優となることを諦めかけていた。そこに現れたガーデンデザイナーの森下陸(藤原季節)は、園芸店に並べられた皐月のテラリウムを目に留め…
〜脱落理由〜
質の高い邦画が1本作れそうなキャスティング。主演の杉咲花ちゃんも好きな女優だし、以前に日テレでやったドラマ『恋です!』なんかは最後まで完走するぐらい素敵なラブコメだった。しかしこのドラマにはついていけなかった。
主人公の皐月と陸が出会ってからの展開がただストーリーを好きに進めるためのご都合主義にしか映らなかった。出会って間もない明らかに関係性も浅い男女がいきなり2人きりで山奥に出かけたり、その帰りには父親のいる食事の席に遭遇して同席したり、夜にはもう男女の関係になったりと、びっくりするぐらいパワープレイの脚本だった。麗しい杉咲花ちゃんや、まだ登場すらしてなかった森山未來を待たずして脱落。
水曜22時『家庭教師のトラコ』(日テレ)
主要キャスト:橋本愛、中村蒼、鈴木保奈美
〜あらすじ〜
これは「受験ドラマ」ではない!謎の家庭教師・トラコが年齢も抱えている問題もバラバラの3人の母親と3人の子供を救う個別指導式ヒューマンドラマ
〜脱落理由〜
初回までは楽しめて期待感もあったものの、徐々に失速。家庭ごとにガラリとキャラを変える橋本愛ちゃんの七変化コスプレは見応えたっぷりだし子役もキュート。ただ自分のなかで「橋本愛じゃなかったらコレ観るかな」という疑問符が最後まで拭い切れなかった。
テンポと展開は似てるようで違う。ドラマは展開こそ早くて、テンポそのものは冗長。脚本が遊川和彦なので社会風刺やメッセージ性もあり、それは人を選ぶだろうし、説教くさくも感じてしまう。
メインを橋本愛×中村蒼もちょっと強気だなと。あまりにも通好みな、23時台のドラマみたいなキャスティング。脇のキャストも決して派手じゃないのでかなりチャレンジングで、遊川さんの脚本を皆が信頼してこそ成立した作品なんだろうと感じる。『ドラゴン桜』で東大を目指していた細田佳央太がまたしても東大を目指す導入はうまくいかない転生モノみたいで面白かったけど。
ちなみに同じ遊川作品で橋本愛ちゃん出演作なら高畑充希主演の『同期のサクラ』は大好きだった。
日曜21時『オールドルーキー』(TBS)
主要キャスト:綾野剛、芳根京子、中川大志、反町隆史
〜あらすじ〜
元サッカー日本代表のセカンドキャリアを描くヒューマンストーリー。突然の現役引退を受け入れられないまま開幕する”人生の後半戦”。37歳の新社会人として、カッコ悪くても家族のために新しい未来を切り開くべく主人公・新町亮太郎(綾野剛)が奮闘する
〜脱落理由〜
初回を見て特別ネガティブな印象はなかったんだけど、気付いたら2話以降別にいいかとそのまま離脱していた。減点こそないものの、逆にもっとずっと見たいとなる吸引力も弱かった。
僕は綾野剛に対して妖しくて掴みどころのない役柄を求めがちで、実際それは彼の役者としての強みでもある。その点、このドラマでは真逆。愚直で繊細な役どころも作品によっては魅力的に見えるけれど、本作ではどうも乗っかれなかった。よくいえば安心して楽しめるドラマ。悪くいえば意外性がなく、物足りなさを覚える内容。登場人物たちのキャラクター構成もありがち。
ここまでつらつらと離脱した4作品について偉そうに理由を書き連ねましたが、どうかドラマや俳優のファンの方は怒らないでください。個人の見解や感性は異なるからこそ人生は面白いのです。反対意見は鞘におさめ、 このnoteにはスキを押し、とりあえず僕のTwitterはフォローしてください。
最後に、視聴を継続している僕の中での今期ツートップのドラマについて簡単に。
土曜22時『初恋の悪魔』(日テレ)
主要キャスト:林遣都、仲野太賀、松岡茉優、柄本佑
〜あらすじ〜
警察署には勤めているが…、俺たちに捜査権は無い!
ヘマをして現在停職処分中の刑事・鹿浜鈴之介(林遣都)のもとに総務課・馬淵悠日(仲野太賀)、生活安全課・摘木星砂(松岡茉優)、会計課・小鳥琉夏(柄本佑)、部署もバラバラのそれぞれ訳ありの4人が集まった。
〜視聴継続理由〜
天下の坂元裕二脚本に、ドラマファン垂涎の達者な役者4人が融合となれば当然見逃せない。
タイトルこそ初見はしっくりこなかったものの、いざ見始めればえげつない引きの強さで一気に魅了される。書き起こしたくなるような台詞のオンパレードに毎回起こる事件の真相。絡み合う4人の関係性に、過去の事件との交錯。さらにそれぞれが抱える秘密や葛藤。
気になる要素が満載なのに破綻することなく成立させる完成度の高さに戦慄すらする。毎話ピークが2段、3段構えで用意されており、ふつうのドラマが持ってくるピークを1話の中で2度3度と重ねてくる。特に第2話での太賀と松岡茉優の会話&亡き兄への通話シーンは圧巻で、まだそれが2話という事実が信じられなくてマジで漏らしそうになった。
『石子と羽男―そんなコトで訴えます?―』(TBS)
主要キャスト:有村架純、中村倫也、赤楚衛二
〜あらすじ〜
東大卒で「頭が固い」と称される石子こと石田硝子は、弁護士の父・潮綿郎の仕事を手伝っている。ある日、綿郎は羽男(はねお)と自称する高卒の弁護士・羽根岡佳男をスカウトしてきて……。石子と羽男のコンビに舞い込む依頼を通し、ふたりの成長を描いたリーガルエンターテイメント!
〜視聴継続理由〜
石子も羽男も一人で依頼をどうにか出来る天才ではなくて、自身に欠けている部分に自覚的なのが良い。かの名作『リーガルハイ』のようにスーパーな弁護士が無理難題を攻略するでも国家的な事件に関わるでもない。扱うテーマもパワハラや喫茶店のコンセント使用、電動キックボードなど今っぽくて身近な題材。
中村倫也演じる羽男も有村架純演じる石子もそれぞれに人間味があってコンプレックスを抱え、お互いに無いものを徐々に理解を深めながら補い合っていく。そんなリーガルドラマは新鮮で、2人の関係性の上積みにも無理がない。有村架純の美貌も視聴理由として申し分ないほどの価値を提供している。
なぜ『初恋の悪魔』と『石子と羽男』に魅了されるのか
2本のドラマに共通し、僕が魅了される理由。
それは決して最初からスペシャルでもスーパーでもない、どちらかといえば表舞台からは爪弾きにされるような秘密やコンプレックスを抱えた主人公たちが、どうにか協力し合って目の前に横たわる日常を乗り越えていく様が美しくて痛快だからだ。信頼できる物語だからだ。
僕らの多くの日常はきっと取るに足らない生活と地続きで、繊細で脆い。国家権力よりも職場にいる憎き誰かと戦うし、不可解な事件よりも自らのコンプレックスに葛藤する。得体の知れない黒幕に想いをめぐらすのではなく、LINEがくるだけで嬉しいような身近な誰かを愛することに時間を捧げる。
大きな声や理不尽な欺瞞、不機嫌な態度によってコントロールされる空気に負けないよう、自分なりの動機と同志を見つけ、弱音を吐いて時に苦笑い貼り付け生きている。
そんな瞬間が確かに描かれている2本のドラマに、僕は少なくとも結末を見届ける意義を覚えるのだ。
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