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あのユートピアを抜け出して/『チワワちゃん』感想

数年おきに実写化される岡崎京子の漫画。彼女のつくる繊細な世界観を再現するのは容易ではない。映画『チワワちゃん』はどうだったのか。

本作で描かれるような青春を体験していないあなたも、これは誰かが確実に駆け抜けた青春であることは、きっと信じられると思う。

<あらすじ>


ある若者グループのマスコット的存在で「チワワ」と呼ばれていた女性が、バラバラ遺体となって東京湾で発見される。チワワの元彼や親友など残された仲間たちは、それぞれがチワワとの思い出を語り出すが、そこで明らかになったのは、チワワの本名も境遇を誰も知らないまま、毎日バカ騒ぎをしていたということだった。友達の「死」をきっかけに揺れる若者たち。危うい輝きに満ちた青春群像劇。

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イカした映画ってのを久々に観た

結論からいうと、めちゃくちゃ良かった。

万人ウケする作風とはいえないので、合わない人もいるかもしれない。僕には刺さった。10年代を代表する青春映画のひとつに数えていいとさえ思う。

原作漫画が発表されたのは94年。舞台はSNSが普及した現代の東京に置き換えられている。違和感はゼロだ。信じられないぐらいの親和性。監督は天才なんじゃないかと思う。最近「イカしてる」なんて恥ずかしげもなくいえる邦画はそうそうないが、この映画はとにかくイカしてる。

映像から音楽から場面転換から色彩から最高にかっこいい。上等なPVを見ているような感覚もある。乱暴に切り取るなら、メンヘラビッチが周りを振り回すだけの内容なのに、グイグイ引っ張られる。事の顛末や登場人物たちの心のうちに想いをめぐらせてしまう。

コミュニティの中心にいるチワワちゃんという絶対的な存在の登場と退場によって劇的に変化していく人間模様はドラマチックだ。この構造は『桐島、部活やめるってよ』に近しいものもあるが、チワワちゃんは語られるだけの存在ではなく、映画の中心に圧倒的な華を添えて存在する。

吉田志織という宝石

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チワワちゃんを演じたのは吉田志織。
当時まだほとんど演技経験がない新人女優だ。オーディションによる大抜擢らしい。画像では伝わらないかもしれない。スクリーンの中で叫び、笑い、キスしてセックスして踊り、全力で駆け抜ける彼女の魅力ったら衝撃的である。

観賞前の俺は玉城ティナがチワワちゃん役とすら思っていたが、観終わってしまえば彼女以外には考えられない。文字通り体当たりのシーンも多く、相手役の男性陣は下半身の変化をコントロールできていたのか甚だ疑問である。成田凌も浅野忠信も役者冥利に尽きるなコノヤロー!

そんなシーンも多々ありながら全く下品じゃない。チワワちゃんの天真爛漫な人間性を見事に表現しつつ、脆くて壊れそうな一面もしっかり覗かせる。プールでの玉城ティナとの百合キスは、まるで世界中の美しさを煮詰めたような甘美さ。

ただ、それ以上にこの映画のハイライトだと推せるシーンは、チワワちゃんがクラブのフロアでダンスを披露するところ。ペール・ウェーブスの「テレビジョン・ロマンス」(この曲が最高‼︎)に乗せてチワワちゃんこと吉田志織が踊るこの場面はちょっと鳥肌モノ。華がありすぎる。

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この映画はチワワちゃんに懸かっていたと思うのだが、吉田志織は確実に期待に応えている。

邦画を支える門脇麦&成田凌

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チワワちゃんの死後、彼女に関する真相を探る女性を門脇麦が演じていた。これは私見になるが、彼女は中心にいてドッシリとした存在感を発揮するタイプではない。誰か中軸となる人物の横で客観的な視点を持つ役柄で活きる。『止められるか、俺たちを』でもそうだった。抜群にうまい。一歩引いてこそ輝きを増す稀有な女優で、語らずとも感情の揺れを伝えられる。

最近立て続けに見た彼女の作品において、喫煙とセックスはもはやマスト。でもどちらも日常的なものだし、劇中に描写されるのは自然なことだよね。終盤にある成田凌を相手に見つめるシーン。その目は監督ならずとも「それそれ!」と一発OKにしたくなる表現力だと思う。

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『ここは退屈迎えにきて』でも門脇麦と共演し、本作でも関係性は近しい男を演じたのは成田凌。チワワちゃんの恋人役でもあり、相変わらずイケ好かない。これ毎回思うんだけど、とにかくイケ好かない。成田凌ホント嫌いだわ〜 ってこれ全部褒めてるからね。それぐらいこの手の役やらせたら若手で彼の右に出る者いないでしょ。いい感じに腹立たせる無軌道な若者を好演した。

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そのほか、浅野忠信がさすがの存在感。これまた彼以外に考えられないほど役をモノにしていた。チワワちゃんに向けて放たれる言葉の鋭利さには痺れた。声もいい。

村上虹郎も良かった。この映画の良心というか、外せないアクセントになってる。なんか可愛いよね。泣く演技とか最高だし。門脇麦とのツーショットは「邦画イメージの具現化」といった安心感。

これは誰かが生きた青春だと信じられる

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エンディング。
ハバナイことHave a Nice Day!が手がけた『僕らの時代』が映画の世界観を完結させる。書き下ろしではなく、以前に作った曲を提供したようだ。それにも関わらず、監督が「運命的な巡り合わせ」、門脇麦が「映画を見て書いたみたいに歌詞がぴったり」と言うほど相性最高。この曲が流れる中、ハイライトのようなスナップが挿入されるエンドロールはセンスが良すぎる。かっこいいし、なんだか泣けてくる。

最後に海でチワワちゃんを弔う仲間たち。
失ってから気付くことばかりだから、人は愚かだ。愚かで派手な彼ら彼女らの青春。言葉に出来なかったこと、あえて言葉にしなかったこと、どちらも沢山あるけど、選ばなかったほうの道は、きっと最初から選べなかった道だと諦めるしかない。本音より、その場にふさわしい言葉を選んでしまいがちな弱い生き物だから。

この映画の中にある青春は、自分には無いものだけど、きっといつか誰かが生きた青春だと信じられる。理不尽な社会や大人の手が届かないところへと、振り切るように駆け抜けた日々のこと。

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サポートが溜まったらあたらしいテレビ買います