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限界突破ッ!武闘派デザイン論

この記事はファンタアドベントカレンダー2023の16日目です。ファンタラクティブでデザイナーをしている水口です。

今日は技術向上でお悩みの若手デザイナーの皆様に、自戒を込めて僕なりのデザイン論をお伝えしようと思います。少年ジャンプで育ったので、ロジックというよりはかなりの割合で根性論です。多少暑苦しいですが、最後までお付き合いいただけると幸いです。

※ここで言う技術向上は、主にビジュアル・スタイリングと呼ばれる、表層部分を指します。


とりあえず、作れ

すいません、本当にコレなんです。

ペルソナ・ユーザーストーリー・ジャーニーマップ・ポジショニングPEST3CSWOTSWOTKJリサーチインタビューアブラカタブラエトセトラエトセトラ…、デザインを作る上で知ってたほうが良い・出来たほうが良いとされているフレームワークはたくさんあります。

でも、それらをちゃんとしなきゃ作れないわけじゃないんです。知識やフレームワークの呪縛に絡め取られて足踏みしてしまうぐらいなら、ガバガバな理論でも良いから、とにかく作る!

剣道・空手・サッカー・野球、なんでも良いんですが、どれだけ理論を学んで覚えたとて、大谷翔平選手のプレイ動画を見まくって真似も完ぺきにできたって、それが実戦でできなきゃ意味がありません。座学と実戦、「知る・わかる」と「できる」は別物です。頭ばかりが膨らんだデザイナーにならないようにしましょう。

AIの躍進が目覚ましい昨今ですが、あえてこれを武闘派デザイナーなりに紐解いていき、なぜ「とりあえず作れ」という結論に至ったかを語ろうと思います。
※完読するのに10分程度掛かる可能性があります。

読む時間が取れない方へ

思いの丈を書き連ねると超大作になってしまったため、最初に、簡潔に要点だけまとめます。

とにかく作れ
なぜなら、デザイナーは作ったもので評価される仕事だ。
●なぜなら、集大成となるアウトプットのクオリティが、全てを決める。
●なぜなら、作ると見えていないものに気づくことがある。
●なぜなら、作る技術は己の守であり、必殺の武器になる。
●なぜなら、フレームワークや手法は日進月歩でアップデートされるが、基礎技術は変わらない。
●なぜなら、必殺の武器があれば横展開も容易になる。

以上です!本編をお楽しみください!

デザイナーは、作ったもので評価される。

大前提として、僕自身は知識やフレームワークを否定したり軽んじているわけではありません。

何事にも知識は必要です。知らないと気づけない・作れないのも事実です。フレームワークもうまく扱えば、指針になったりアイデアやデザインに深みが増したりします。知っていて損はないし、知っているべきだし、扱えた方がいいに決まっています。

ではなぜ「とにかく作れ」というのか。
なぜなら、デザイナーという仕事は「作ったもので評価される」仕事だからです。プロセスを評価してもらえるのは内部の話であって、基本的には「作ったものがデザイナーの評価」です。どんなに困難なプロセスを踏んでいたとしても、期待されたものが出来なければ、極論0点です。

「進撃の巨人」の序盤で、壁外調査から戻った調査兵団の団員が「なんの成果も挙げられませんでした!」と嘆くシーンがあります。物的・人的損害も大量に出したのに、まさかの成果ゼロ。やったことに価値がある、という捉え方も出来ますが、そうも言ってられません。

技術は頭で考えているだけでは上手くなりません。計画は建てたら実現するわけではありません。手を動かしたからといって出来る世界でもありません。だからこそ「とにかく作れ」なのです。

あまりに知識・情報・フレームワークを重要視しすぎて足踏みしてしまうくらいならば、インプットは程々に、とにかく作る!!作って作って作りまくりましょう!!感謝の正拳突き1万回です(?)そして全力を尽くして実戦に挑みましょう。何度も何度でも、トライアンドエラーです。

そうして初めて、伝えるためのアウトプットの技術は磨かれていくし、伝えたいことを人に届けることが出来るようになります。

良いデザインは、人の心を動かす

「3秒で全てが決まる」

グラフィックデザインー特にチラシや看板などでよく言われることです。駅の広告や街の看板などを足を止めてじっくり見ることはほぼないでしょう。その僅かな時間に、何か心にささるものを届けなければなりません。その何かを探すために、制作者たちは様々な分析・調査・仮説を立てて検証をし、核となるコンセプトを作ります。

もう数年前になりますが、どん兵衛の広告でマンションポエムという施策が有りました。不動産広告で多用される表現を用いてどん兵衛を訴求する、とてもユニークなアイデアでかなり話題になりました。あの広告も、見事なアイデアを、本物に見劣りしないクオリティの広告に仕上げたからこそ届いたものです。アウトプットのクオリティがチープであれば、あそこまで話題にはならなかったのではと思います。

何度も言いますが、様々なフレームワークや手法を否定しているわけではありません。ただ、その成果がアウトプットとして発出されないのであれば0点だと思います。

苦労して考えたものをきちっと届けるためには、とにかく、アウトプットの精度を上げるしかありません。そのためにもとにかく、作って作って作りまくる。それしかありません。

見えないものに気づく

さらなるメリットとして、手を動かすことで、自分の見えていなかったことに気づくという点があります。
この気付きが、技術を会得する上でとにかく大事です。

船の上から海中の様子が伺えないように、基本的に知らない・見えていないことは想像できません。仮に、ここには●●という魚がいて深さや透明度はコレくらい、という知識があったとしても、それは所詮ただの知識です。「百聞は一見にしかず」ということわざがある通り、やってみなきゃわからないことは山ほどあります。

スキルとして習得・定着するには、知識と経験がパズルのピースのように組み合わさり、自身が実感できなければいけません(いわゆるコツと言うやつです)。そのためにも、ある程度情報をインプットし、作業できそうだなと思ったら、手を動かして考えてみるようにしてください。

もし途中でわからないことが出てきたら、そこで手を伸ばして調べればいいんです。学術レベルまで昇華する必要はありません。今、自分に必要な範囲に手を伸ばす。そしてまた作る。まずはそこから始めてください。

ここでいう「作る」は、いきなり最終成果物を作る、という話では有りません。とりあえず案だしをするために紙にラフを描くでもいいし、ワイヤーフレームをひくでも良い、テキストに起こしてみるでも良い、なんでも良い。頭で考えるのではなく、手を動かしてみましょう。

フィードバックは次への手がかりだ

作ったら誰かに見せましょう。上司でも先輩でも、クライアントでも良いかもしれません。何を言われるか分からなくて怖い・自信が持てない気持ちもよくわかります。それでも作るしかない。全力でやっても上手く行かないなら、それは単純に自分の実力が足りてないだけ。その現実を受け入れ、日々修練です。

叩き台上等、作ればそれに対するフィードバックが必ず返ってきます。
ケチョンケチョンに言われたって良い。「指示が足りないんだ、そんなの聞いてないよ」と、心に湧き起こるネガティブな気持ちもあっていいと思います。テンションが下がってしまっても、引きずって後に影響が出てしまうぐらいなら、「今に見てろコンチクショウ」ぐらいの気持ちでいるほうが健全です。作らないよりかは遥かにマシです。

フィードバックは次の手がかりです。それがあるから自分に足りてないものが見えます。頭の中で考えているだけでは、何も得られません。作って見せた分だけ、前進したと思いましょう。なんの成果も得られてないわけではありません。

補足すると、FBの際に人格を否定したり、罵詈雑言を浴びせてくるのは論外です。

デザイナーの成長は「曲線ではなく階段」である

僕自身も含め、今までジュニアデザイナーを何人も見てきましたが「あっ腕を上げたな」と、皆が実感するまでに、どんなに頑張っても半年〜一年近くかかります。

「デザイナーの成長は、曲線ではなく階段だ。なかなか成長を実感できなくても、頑張って続けていれば、ある時ぽんと成長を感じる」

これはぼくの恩師であるデザイナーの方が言っていたことです。
たった1-2ヶ月程度で全てが上手くなるなんてのは、選ばれしものだけが手にする伝説の剣であって、大多数にとっては夢です(僕は願っても手に入りませんでした)。そんな夢は捨てて、作って作って作りまくりましょう。まずは、初期装備の「どうのつるぎ」を、上手く扱えるようになってください。そして、考えながら作りましょう。

「9割考えて、作業は1割くらい」という話もありますが、上手く作れないうちは、作業時間は想定の何倍もかかります。
1時間で終わるつもりが1日かかるなんてこともザラです。まだ作る時間じゃない、なんて言ってる場合じゃありません。ほどほどにインプットしたら、とにかく作る。作りながら感じた疑問はその場で調べ、また作りましょう。

長く成長を感じられない、辛い時間が続くかもしれまないし、自分に嫌気が差す日もあるでしょう。でも作り続けていれば、どこかでポンッと腕が上がったと感じる日が来ます。それまで、感謝の正拳突き1万回を続けましょう。

自分の必殺技を持つ

守破離

守破離という言葉をご存知でしょうか。

剣道や茶道などで、修業における段階を示したもの。「守」は、師や流派の教え、型、技を忠実に守り、確実に身につける段階。「破」は、他の師や流派の教えについても考え、良いものを取り入れ、心技を発展させる段階。「離」は、一つの流派から離れ、独自の新しいものを生み出し確立させる段階。

コトバンク / デジタル大辞泉

誰しもが経験があると思いますが、いきなりアレコレを覚えるのはほぼ無理ゲーです。その時に思い出してほしいのが、この「守破離」です。

ドラクエのようなRPGでもそうです。LV1でアリアハンの城を出てすぐに、いきなりラスボスゾーマと戦うなんて出来るはずもなく、最初は城近郊に出てくるスライムでレベルを上げ、じわじわと行動範囲を増やしていくと思います。

デザインスキルに関しても同様です。デザインのアレコレの中には、基礎なくして習得が難しい応用技(ラスボスや裏ボス)がたくさん存在しています。なので、まずは「守」となる基礎をしっかり習得することに注力しましょう。スライムすら討伐できずにゾーマは倒せません。

余談ですが、僕はドラクエ3をやり込みすぎて、最終的に勇者抜きの一人パーティでゾーマ討伐とかしてました。これも、ゾーマ討伐に必要なことを理解し、対策を練ったからこそ出来る技です。初見単独ゾーマ撃破なんてよほどのことがない限り不可能です。

「型を習得したものがそれを破ることを『型破り』という。型がないものがそれをやろうとするのは『型なし』」

これは歌舞伎役者の中村勘三郎さんの言葉です。
初見単独ゾーマ撃破なんていう型無しにトライするのを焦る必要はありません。視野に入れながら、まずは目の前のことをしっかりと出来るようになる ―自分の「守」を確立することから始めてください。

自分の「守」を見つける

どこから手を付けていいか迷った時は「自分が求められていること(業務領域)を中心に考える」ことをおすすめします。

理由が2つあります。

まず第一に、自分の作業領域(学んでいること)を通じて、デザインの原則に触れていくほうが圧倒的に学びが深い
仮に業務がSaaS系のUIデザインだったとして、グラフィック系のおしゃれなものばかり作ろうとしてもズレが大きすぎます。

「A1明朝で高級感をだしつつ、ジャンプ率ブチアゲ、裁ち落としも上手く利用して見切れを作り、全体的に動きあるレイアウトだがおしゃれにまとめるぜ!」みたいなグラフィカルな表現技法は、感性が磨かれることはあっても、UIの世界ではあまり役に立ちません。
ほとんど使うことのないグラフィカルな表現の習得に時間を割くなら、もっと別の、業務に直結する必要な知識の習得に割いたほうが圧倒的に良いと思います。

2つ目の理由は、グラフィック・Web・UIのスキル一つ一つに、マリアナ海溝並の知識の海が横たわっている、という点があります。

いきなり全ての深海に潜るのは、限りある時間を生きる人間には無理ゲーです。自ずと優先順位を付ける必要が出てきます。
幸いなことに、基礎とされるものは体系化され、多くのセオリーが存在します。また、デザイン全般で共通する大原則的なものも含まれているので、自ずと基礎部分には触れることになります。なのでまずは、必要な部分を美味しいとこどりする感覚で、広く浅くそれを身につけるところから、じわっと始めて見ると良いでしょう。

A1明朝で高級感をだしつつ、ジャンプ率ブチアゲ、裁ち落としも上手く利用して見切れを作り、全体的に動きあるレイアウトだがおしゃれにまとめるぜ!の作例。UIデザインでは出来ないことをありったけやりました。ここ最近で一番の自信作です。

ちなみにこれは最近弊社が主催したイベントのバナーです!今後も日本各地で開催予定なので、興味ある方はぜひぜひXnoteをフォローして続報をお待ち下さい!

戦える武器を身に着ける

「守」は極めると武器になります。わたしはコレが出来る!と自信を持って言えるものを1つ、習得しましょう。いきなり弓も剣も魔法も使おうとしなくて良い。武器によって特性も扱い方も役割も違います。鍛える武器を絞ったなら、他の武器の特徴とメリット・デメリットを抑えるぐらいでとりあえず十分です。

まずは一つ、自分の得意な武器を徹底的に磨き上げましょう。得意な武器を身につけると、それは自信にも繋がります。
そのためにも、やっぱりとにかく作りましょう。作って作って作りまくりましょう!

武器があれば横展開がしやすい

得意なものが一つ出来ると、それを軸に横展開していくこともできます。
ドラクエでは、一定のレベルまで鍛えると、職業のスキルを引き継いだまま転職することが出来ます。レベルは1まで下がりますが、前職のスキルが使えるので鍛えやすくなります。仕事も同じです。

自分を例に上げると、僕はグラフィックデザインが一つの武器です。Webデザインを覚える際も、色使いや効果的な表現方法、画作りなどなどグラフィックで培ったものが生きた瞬間はたくさんあります。UIデザインにおいても、それは同様です。要は、応用が効くようになります。

横展開できると書いてますが、僕の場合、WebからUIへの展開では、すんなりと行かなかったのも事実です。僕はグラフィックとUIデザインは別物だとずっと考えていました。でも「ユーザーと製品の境界」という点では、グラフィックもUIだと気づきました。デザインシステムも、ガイドラインも、グラフィックであっても当たり前に考えてきたことです。もちろん、デジタルUIは双方向・グラフィックは一方通行という差はありますが、それでも、ベーシックな部分は何も変わらない。そう思ってからは「なんだ今まで通りのことを、デジタルのルールでやれば良いんだ」と、随分と気が楽になりました。

なにか自分の拠り所になるスキルが有れば、気づき一つでぐっと戦えるものが増えていきます。

修行のすすめ

さんざん作れ作れとアウトプットを推奨してきましたが、最後にちょっと、インプット方法にも触れておきます。

息を吸うようにインプットしろ

上手く表現のアウトプットが出来ない場合、そのほとんどはアウトプットのためのインプットが足りません。なので、世の中で良いとされるもの・自分が良いと思うものを片っ端から観察しましょう。ただ見るだけじゃなく、凝視です。チリ一つ見逃さない、そんな意識でやってみてください。

最初は良し悪しの判断がつかないので、見る目を鍛える意味もあって、先生や先輩がいいといったものから始めるのが良いでしょう。このときも、自分の業務領域を起点に考えると迷わなくてすみます。

紙のデザインをしていたころ、レイアウトや表現の幅を広げたくて、書店やコンビニに並ぶ雑誌を片っ端から眺めたりしました。特に女性誌は表現が豊富で、学びの宝庫です。そうすると、女性誌は明朝系が多いと思っていたのに、実は太めのMB101が使われている、とか、明朝とゴシックを組み合わせて緩急をつける、写真の扱いや細かなあしらいなど、様々な気づきが有りました。(この時に、これはキレイめ・これは元気いっぱいなどの分類もしていくといいですよ)。

観察するだけではありません。実際に、完璧に再現します。雑誌に定規を当てて余白を測ったり、スキャンした雑誌の上に文字を置いて級数を調べたりもしました。自分が美しいと思った文字組み(級数や行間など)を試したこともあります。これを繰り返していくうちに、自分の目が鍛えられるだけでなく、余白の取り方や文字のサイズ感・色使いなどがじわじわと分かるようになっていきます。これを意識せずともできるまでやり続けました。

HUNTER×HUNTERの「グリードアイランド編」でゴンとキルアは寝ながら岩を避ける訓練をしました。キルアのように「くせになってんだ、音殺して歩くの」と言えるぐらいに、息を吸うようにインプットする習慣をつけましょう。

無意味なものはない

インプットの中には、そのときには必要のないものだったり、意味がわからないものも含まれるかもしれません。でも、ストックや分類をする癖をつけていれば、思いもしないタイミングで活躍することがあります。

たとえばとあるサービスのUIを作る中で、ちょっと事業内容を深掘りした経験が、どこかで役立つこともあります。そうなるとこっちのものです。ゼロから理解するよりも、一度やったことを更に深ぼるだけなので、理解も早い。

さきほどのUIとグラフィックが同じ、という気づきも、インプットしていく中で、やってること一緒じゃね?と感じたから出てきたものです。思わぬところで点と点がつながる、一種のアハ体験でした。

無意味だからと切り捨てず、頭の引き出しにしまっておきましょう。きっといつか役に立つ日が来ます。そのためにもやはり、息を吸うようにインプットです。そして、作って作って作りまくりましょう。

まとめ

とにかく、作りましょう。

手法・理論は時代や世界情勢で変わりやすく、日進月歩。何年働こうが何十年働こうが、コレに関しては日々修行です。インプットし続けるしかありません。

でも、磨き上げた技術は己を裏切らない。確かな技術を身につければ、どんな環境に行ってもそれなりのバリューを出せます。
AIの躍進も目覚ましく、デザイナーという職種自体がどう変わっていくかは僕もわかりません。でも、技術やその過程で得た学びは、きっと役に立つはずです。
なので、騙されたと思ってとにかく、見て作って見て作って、嫌になるほど作りまくって、確かな技術を身につけることを僕は強くおすすめします。

補足

さんざん作れと言っておきながらなんですが、体を壊すまでやれって話ではありません。サイヤ人のように死線を越えて劇的にレベルアップ!もあるにはありますが、心身の健康はパフォーマンスやクオリティにも直結します。健康あってこその人生、出来る限りで構わないので、頑張っていきましょう!

思うがままに書き散らしてしまいましたが、なにかちょっとでも皆様のお役に立てば幸いです!

次回予告ッ!!!

次は頼れるベテランデザイナーのヤマモ先輩!!領域を広げてこられたヤマモさんのお話は超参考になります!必読ですよ〜!!お楽しみに!


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