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3/3 夜明けのすべて

もともと行くつもりはなかったのだけど、評判がよかったのと、三宅唱監督ということで観に行った。良かった。

私はヤなやつなので、『正欲』に多大なる感銘を受けたくせに、作中の登場人物に「出会うな、出会うな」とひとりごちていた人間だ。それは救われるな、とはやや違う。都合よく理解してくれる人間が現れて、都合よく愛されて、都合よくピッタリ嵌まるだなんて、そんな奇跡的な偶然なんぞに委ねてしまうことへの怒りだったと思う。性癖がハマっても糞みたいな人間性で嫌われる。そんなことザラにあるのに。結局真っ当で、救われるべき人間だなんて、対比してこちらばかりが惨めに見えてくる。惨めなんですけどね。
2/25 正欲|レベルちゃんさん 

夜明けのすべては、それと比べると世界をそこまで刺しにこないし、出会うは出会うのだけど、そこにある関係は支え合いだ。それが良かった。
PMSの女と、パニック障害の男。理由は違えど、メンタルに不調を来して社会生活に挫折した二人ということに変わりはない。
同じ職場にいる女が急にキレかかってくる。やば。同じことばっかやる職場。意識ひく。レベルが下がりそうで、はよ出ないとヤバイわ。とか思ってる。じゃあこいつはなんだろう、と見ていると徐々に判明してくるパニック障害。そこから、意識のズレとかをお互いに修正しながら、たまに間違えながら、緩やかに病気との同居と、見下しと、他人に頼れない感じと、他人への無理解、とかが、解決するわけではないんですが、徐々に融解していくようなそんな映画。
ラストは映画オリジナルで三宅監督の作った展開らしいのだけど、めちゃくちゃ良い。昨今のオリジナル展開アンチの人たちからしたら怒るのかもしれないけど、まったく違和感もなく、そういう映画なのかと思った。足し引きのバランスが取れている映画化とはこのことだと。むしろ私のこの感想こそが余分ではないですか。
これ、たぶん映画祭の賞を狙いに行くと、ラストの展開ちょっとエモ過多なんですよね。とても邦画的、お涙頂戴に見える。でもやっぱり夜明けのすべて。夜明けについての映画なんです。天体についての会社で、プラネタリウムと星の話に、いろんな登場人物の問題をパラレルに乗せるのは、やり方としてはベタなのですが、逆に言うと、こういう良い映画を観たいときがある。
三宅監督の前作であるケイコと比べて、けっこう行き当たりばったりで撮影を敢行したらしいのだが、これはそれが正解のような作品だった。ほどほどに気が楽で。ほどほどにエモい。世界に対する呪詛ではなく、うまくいかないけど、そのなかでうまくやれたらいいね、の映画。あなたしかいない、でもない。世界にはこのくらいのバッファーが欲しいと思って生きている。うまくゆかないね。★5

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