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閱讀之旅2019之雙城故事・3

3 閱讀之旅2019春天ー香港

返還直後から通い始め、10年くらい前までは年に一度は行っていた香港。
目的はもちろんグルメやショッピングではなく、日本では滅多に一般上映されなくなった香港映画を観るためなのですが、今回はそこに書店めぐりも加えてみました。

・我が宿はどローカル・佐敦&油麻地

ここしばらくは2年おきに通っている香港。
以前は九龍半島一択の宿泊だったのですが、ここ10年での物価の上昇で、自分が泊まれる安いホテルがなくなってしまいました。前回(17年春)の滞在では、MTRが延伸したおかげで行きやすくなった、香港島の西營盤に泊まりましたが、どうしても九龍が恋しくなったので、今回は佐敦と油麻地の中間にある小さな中級ホテルに投宿しました。

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写真は彌敦道と並行する呉松街の朝の様子。今年始めから、彌敦道ほか主要道沿いのビルから大きな看板が外されていて、確かに夜歩くと街が思ったより暗かった。エアポートバスから降りた時はどこなのか一瞬わからず戸惑いましたよ。

油麻地はアート系シネマコンプレックスのブロードウェイ・シネマテークと、それに隣接する書店のキューブリックに行くためによく通っていたのですが、実はここしばらく廟街は全く行っておりませんでした。いや、正確にいえばブロードウェイの入り口から天后廟周辺の裏モノっぽい屋台(下着とかセックスグッズなどを売っている…ってなんでそんなところ歩いているんだとつっこまないでください)あたりしか知らないので、実質上初めて廟街を歩きました。感想は…うん、初香港の時に行ったら、きっと楽しかったんだろうな(こらこら)。
泊まったホテルの前には屋台街もあり、夜遅くまで賑わっていたのですが、前を通っただけでさすがに寄れませんでした。最初の2日ほど体調が悪かったので、食事もどこで取ろうか考えていたら、チョイスから外れてしまったのです。最近、改装のために一時営業を停止したそうですが、今度また足を運んでみたい場所です。

そして、この地から15分くらい歩くとたどり着くのは、昨年開通したばかりの高速鉄道の西九龍站。ここ数年で中国大陸からの陸路の交通網整備がずいぶん進んだので、周囲に聞こえてくる普通話(いわゆる標準中国語。北京語とも言いますね)の割合がますます高まってきているような…。私はこの普通話を学習してきたので、そちらが使えることは確かに便利ではあるのですが、ローカルな場所に行くならやはり広東語か、さもなければ英語じゃないと入っていけないなと感じているので、どうも香港で普通話を使うのにはためらいがあったりするのでした。

佐敦には彌敦道(ネイザンロード)沿いに大型書店の商務印書館と文具も扱う中華書局があり、今までも何度か寄ってはいるのですが、今回は尖沙咀寄りにある突破書廊(その2のヘッダが店頭の写真です)に行ってみました。会議室やイベントホールを備えた突破中心という建物の1階に店を構え、カフェスペースを備えている独立書店です。
繁華街にあることからメイドイン香港なグッズも多く売っています。市内を縦横無尽に走るミニバスの行先掲示板をパロディにしたプレート型キーホルダーや、屋台のテントによく使われるトリコロールカラーのバッグやポーチなど、お土産にできる雑貨が多めに揃ってます。で、本のラインナップはどうかというと、自己啓発本や社会派ノンフィクションが多い品揃え。とはいえフィクションが全くないというわけでもないし、絵本を揃えた子供達のためのコーナーなどもありました。

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独立書店は自前のメディア(=出版社)を持つところが少なくないようですが、この書店も「BREAKaZINE」という雑誌を発行しています。最新刊の特集が香港の住宅事情だったので、資料として買ってみました。住居費が世界一高いと言われる香港で若い人たちがどう暮らしているか、20世紀の住宅史など興味深く読みました。

春光乍洩電影欣賞記

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油麻地のブロードウェイ・シネマテークにて。
左から、当時公開間近だったフルーツ・チャン監督の新作『三人の夫』、昨年のカンヌ国際映画祭で話題を呼んだ『カペナウム』、日本でも公開中のドキュメンタリー『RBG 最強の85歳』

私は香港映画ファンですが、このところ日本に入ってくるのはアクションものかノワール系サスペンスばかりになってしまい、そのほとんどが東京などの大都市公開で終わってしまうので、地方在住のファンとしてはこの状況を非常に残念に思っています。
とはいえ、近年の香港映画は中国大陸との合作などの大作のほか、社会問題などを積極的に取り入れた佳作が、若手の映画人によって作られ、映画賞でも高く評価されています。それらの作品は毎年3月に行われる大阪アジアン映画祭、秋に行われる東京国際映画祭や東京フィルメックスでも上映されるので、作品状況はそこでチェックしています。
また、香港でも毎年3月下旬から行われている香港国際映画祭でプレミア上映された新作がすぐ劇場公開されるので、この時期には大阪アジアンでプレミア上映された新作や、4月に行われる香港電影金像奬のノミネート作品のリバイバル上映などがあります。今年はそれを目当てに行きました。

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昨年8月に公開され、金像奬にノミネートされた《逆流大叔》。
監督と出演俳優によるQ&Aつき上映があったので観に行きました。

市街地の映画館はほとんどシネコン化してしまいましたが、まだ何軒か昔ながらの映画館は残っています。また、湾仔にある香港藝術中心(香港アートセンター)には、自らの映画プロダクションを持つ実力派俳優のルイス・クーの名を冠した古天樂電影院があり、古今東西の映画を不定期に上映しております。
以前は観たい映画の広東語発音をチェックして、受付で必死になりながら発音してなんとかチケットを買っていましたが、今は香港市内の映画館のスケジュールや上映作品を網羅したHKmovie6のようなアプリがあるので、観たい映画を表示させて「一張(一枚)」と言えば席を表示してくれるので、買うのは楽になりましたね。字幕は中国語と英語の併記なので、どちらかを見て内容を理解することもできます。
今年は女性の目覚めや端午節のドラゴンボートレースに挑む男たちの人間ドラマ、物騒でひねくれてるけど奇妙でユニークな青春サスペンスに実在の香港人格闘家をモデルにしたマーシャルアーツものを観ました。どれも日本では観られないけど、カンフーやノワールだけでない香港映画の側面を見せてくれました。
こういう香港映画が再び日本でも劇場で観られることを願います。

・雨傘運動を遠く離れてー銅鑼湾

2012年の年末から2017年の春まで、諸事情により香港に行けずにいたのですが、この間に起こった事件で一番衝撃を受けたのが、香港政府の普通選挙法に異議を申し立てたことを発端として、2014年の秋から冬にかけて中環や湾仔の一部を学生たちが占拠した「雨傘運動」でした。「一国両制」を謳い、2047年までの自治が保証されているのにも関わらず、返還から20年を経たずに中国政府の制限が増してきているように思えます。その翌年、中国政府に批判的な書籍を多く扱っていた銅鑼湾書店の店主さんたちが拉致拘束され、結果として店が閉店に追い込まれたということも知って、不安になったのはもちろんいうまでもありませんでした。
で、今回は銅鑼湾書店のあった場所にはスケジュールの都合で行かなかったのですが、同じく銅鑼湾にある雑居ビル「福徳樓」とその中に入っている独立書店「Aco」に行ってきました。

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Acoは福徳樓の最上階に入っており、2部屋をぶち抜いて作ったフロアは開放感を覚えました。軒尼詩道(ヘネシーロード)に面して開いた窓からはビルの隙間からハッピーバレーが見え、いい風も入ってきました。多種多様な出版物を扱っており、センスのいいメイドイン香港のZINEもたくさんありました。
同じビルの中にあるギャラリーで絵画展を見て、エレベーターで1階に降りた時、「TAKE FREE」と書かれた箱の中に、ここ数年間で行われた民主化運動を記録したロビーカードを見つけました。大陸からの押しつけではない、香港独自の民主的な政治を求める声が通りにくくなっている現状ですが、香港で生まれ育ち、民主主義の下で育った若者たちが、民主的で公平で幸せに暮らしていける未来があってほしいです。私はただの旅行客ですが、好きな街には市民が楽しく暮らせるいい街であってほしいと願っています。

・香港ではこんな本を買っていた

『電影這回事/之所以我不是畫家』杜可風(クリストファー・ドイル)

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ウォン・カーウァイ作品の撮影監督として注目され、チャン・イーモウやガス・ヴァン・サント、ジム・ジャームッシュとの仕事を経て、最新作としてオダギリジョー監督作品が控えるオーストラリア出身の映画人、クリストファー・ドイルの2巻組の最新作品集。『電影這回事』では『楽園の瑕』や『ブエノスアイレス』のスチールフォト、ジャームッシュとの変顔ツーショットやコン・リーや浅野忠信のオフショットなど写真をメインに収録。『之所以我不是畫家』では多くの散文とコラージュ作品、そして映像作品が見られるQRコードも収録されていて、ここ30年ほどのドイルの仕事を一気に振り返ることができます。

『就係香港 BEING HONG KONG 2019春』

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昨年夏から刊行されている、香港の街・自然・アートから香港人の「物語」を集めた付録つきのムック。ムックと言ってもサイズは小ぶりで、かつ単行本1冊くらいのボリュームがあります。お値段は100元(1,400円)。
特集は公園と原生の山茶花。香港人のアイデンティティを探る動きは社会運動や映画や書店など多方面から行われていますが、もとから香港にあるものを取り上げて考えることは、台湾や日本の地方にも共通して見られることであり興味深いです。
エンターテインメント方面では『ザ・ミッション』や『エレクション』などで知られる映画監督ジョニー・トーの作品の漫画化の試作や、日本でも代表作の『29歳問題』の映画版が公開された香港演劇界の演出家キーレン・パンのインタビューなどがあって楽しめます。
そして付録は伝統切り絵のポップアップブックとブルガリとコラボしたアートブック。アートブックは香港の24時間をモチーフにポップカルチャーをコラージュした構成ですが、香港のアイコンの一つとしてレスリー・チャンが取り上げられたことに狂喜乱舞してしまいました。(そういえば命日の直前だったんですよね…)
書店だけでなく雑貨店でも購入できるこのムック、編集の志にも共感できるところも大きいので、今後の動きにも注目していきたいです。加油!

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本を読み、本と出会うというテーマで2018年夏から台湾と香港を旅した記録です。noteで先行発表後、6月頃にZINEにまとめます。そのため…

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