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憧れの こん平席

僕はこん平師匠と呼んでいる。言語上は「師匠」で「こん平」部分は脳内で。師匠は社内の大きな宴の幹事を毎回担っていて、会場では司会から一番遠い席に座っている。だからこん平師匠。
師匠の芸は素晴らしい。会場選びから予約の段取りはもちろんカンペキ。当日のドタキャン数まで的中させる。そしてなにより得意な演目は「配置」
若者の集う居酒屋とは桁違いに事情を抱えた大人たちが集うのだ。そりゃあ色々と未然に防がなくちゃならないことも多い。

余談だが、社会人になって経験する「無礼講」の陰に潜む恐ろしいジャパニーズカスタムを忘れてはならない。まず「無礼講」という言葉を辞書で引いて欲しい。その後の安全を保証する表現はひとかけらも書かれていないからね。

僕は今回師匠の手伝いをすることになり、雑用やら事前確認やらを行っていた。幹事という立場には種々雑多なストレスもあるが、立場上飲まなくていいというメリットも発生する。きちんとした宴で酔って醜態を晒すくらいなら、天敵に見つかると直ちに死を覚悟するナマケモノのように潔く死にたい。

こん平席、ちょっとした憧れ。

「師匠、席次はどうやって決めます?ウチの会社って部署ごとで固まらない暗黙のルールがあるじゃないですか。」
「事前の情報収集がかなり重要になってきますね。事態は刻一刻と変化しておりますので、最新の情報が必要になります。まずはじめに会長社長の席を決め、隣には若い社員を配置します。」
「入社したての頃に会長の隣で2時間ずっと三国志の話でした…。」
「いいんです。お互い良い刺激になりますから。あとは新入社員の隣には手品が得意な彼なんかを配置しますかね。ただし二回目以降はウケませんから一回限りで。面白い人たちは2名まで寄せます。それなりに周囲を巻き込んで盛り上がったりするので。宴を台無しにしたい場合以外はサカイ部長とタナカ部長は近づけてはなりません。泥酔するササキくんには両脇にストッパーが必要ですが、どさくさに紛れて殴ったりしても本人は忘れてしまうので、隣に座りたがる人は多いんですよ。男性社員の間に一人ずつ女性社員を配置するなどは厳禁です。私たちをコンパニオン扱いする気かとセクハラ認定確実ですので。しかしまた女性にも変化しつづける派閥がありますので、小まめに差し入れをして現状を窺います。」
「男性社員は面倒だけど、わかりやすくていいですね。」
「あとは私の嫌いな人は、私の程よく目の届くところに配置します。その両脇は酒癖の悪い人で固めます。

あとはさじ加減です私の。と笑う師匠は本当に楽しそうだ。
ううむやっぱ、こん平席ハードルが高い。僕は二ツ目くらいがいいな。

(157日)

#エッセイ #コント部 #僕なりの幸福論 #毎日note #宴会師匠 #僕の仕事 #ほろ酔い文学

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