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01.南極大人エレベーター〈初代しらせ5002〉
仕事終わり、疲れきった身体で冷蔵庫からビールを取り出す。グラスに注ぐことさえ億劫になってしまった、毎夜のこと。
泡が消えるのを眺めながら、ふと考える。
「胸が高鳴ること、最近あったっけ」
───今回は、そんな頑張る社会人に特におすすめの船を紹介します。
目的地最寄駅は、東京駅から約30分の津田沼駅。総武本線は人も少なく、座って来れた。座って目的地まで行ける重要さは、歳と比例し増していくように感じる。
"翌日の仕事の為、無駄な体力は使わない"
今回の目的地は、そんな毎日頑張る社会人の休日におすすめの場所だ。
改札を出て、右手に進むとバスターミナルがある。出迎えてくれる【ようこそ!津田沼へ】を目印に、一番奥の乗り場まで進んでいく。
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バス停で待っていると来たのは、サッポロビールの文字がある無料シャトルバス。車内に乗り込むと聴こえてくるのは、サッポロ黒ラベル 大人エレベーターCMでお馴染み、ジェニファー・スキッドモアの「Around the World」だ。
永遠にリピートされる音楽が煩わしく感じそうだが、そんなことは一切なかった。千葉の和やかな風景を車窓から眺めながら、この魅惑的な曲を聴くと、まるで大人エレベーターに乗っているかのような錯覚を受けた。日々のルーティンから抜け出すには、こういった無の時間が必要なのかもしれない。
短いバスの旅を楽しんでいると、ようやく今回の目的地〈サッポロビール千葉工場〉が見えてきた。
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「船を見るのに、ビール工場?」
この疑問こそ、今回のおすすめ理由の一つ。
南極観測隊を南極に送り届ける船─砕氷艦。現在活躍する〈しらせ5003〉を含め、砕氷艦は4隻作られてきた。以前の3隻は全て保存船として現代に残されている。
初代砕氷艦〈宗谷〉は東京港に、2代目〈ふじ〉は名古屋港に係留されている。そして3代目〈しらせ5002〉、この船が係留されているのが、サッポロビール千葉工場敷地内なのだ。
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バス停留所の目の前に、オレンジの巨体は色鮮やかに浮いていた。柵越しに眺める姿で、既に惚れ惚れしてしまう程に魅力的な船だ。
魅力の所以は、この船の背景にあるだろう。砕氷艦は、名前の通り、南極の厚い氷を砕いて昭和基地まで進んでいく。
しかし、推進力で砕けるのは1.5km未満の氷までだ。基地に近づくにつれ、氷は厚くなっていき、1.5kmを超える氷の壁に船は進路を阻まれる。その時にどう氷を割るのか。ここで砕氷艦の代名詞「チャージング砕氷」が行われる。
チャージング砕氷とは、一度300m程後退し、最大馬力で前進し、氷に乗り上げた衝撃で砕く方法だ。氷を砕くのに刃物等を使うのではなく、いわゆる「体当たり」な点も、面白い発想だと思う。
今回の見学ツアーは、週に3回、僅か10名しか参加できない。船の前で感染対策の説明や体温チェックが行われると、いよいよ乗艦だ。
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艦内ツアーの前に、お手洗いを使用したい人は案内される。天井を見ると、「第2観測隊便所」の文字があった。現在は綺麗に整備されていたが、以前使用されていた場所は同じだと思うと、船好きの心が沸き立つ。
その後、スライドを使用した説明がある。このツアーの魅力の一つは、全て元自衛隊員の方が説明してくださる点だ。はじめに艦の歴史背景等の説明もあるので、船に詳しくない方も充分楽しめる。SHIRASEの知識を得たら、いよいよ参加者が半分に分かれてツアー開始だ。
艦体の重さは2万トン近くある。全長134m、最大幅28mで乗員は170名だ。最大速力は19ノットまで出るこの艦は、広い飛行甲板とヘリコプター格納庫も搭載している。
今回、私達のグループは飛行甲板を通り抜け、途中、救命艇やレーダーの説明を受けながら、まずブリッジへと向かった。
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見張り台の下にある大きなサーチライト。案内人の説明によると、30m先で新聞を読めたことがあるほど明るいらしい。
私達は左舷側デッキから歩いてきて、いよいよブリッジに入っていく。ブリッジ入り口には可愛らしいSHIRASEのマットが敷いてあった。このような点からも、保存船として多くの人を艦内に招いて知ってもらおうという気持ちが伝わってくるのではないだろうか。
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ブリッジには、この艦が実際に動いていたことが分かる点が沢山あった。ぜひ自らツアーに参加して探してみてほしい。
特に興味深かった事のひとつは、SHIRASEで実際に使われていた艦体鉄板の展示である。
「持ち上げてみていいですよ」
と案内人の方が言ってくださり、筆者も挑戦してみたが、びくとも動かない。こんなにも重い船が海に浮いていることが、改めて不思議に思える貴重な体験だった。稀に持ち上げられる人もいるとのことなので、力自慢の方はぜひ挑戦してみてほしい。
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SHIRASEが現役時代の2001年12月12日。昭和基地を目指してる時の最大傾斜は、左に53度、右に41度だったらしい。ほぼ転覆寸前の傾きだ。もちろん艦内で立っていられる訳もなく、だが仕事を放り出す訳にもいかず……。そんな時にどうしていたかというと、ぶら下がり棒である。
荒れる艦内で必死に捕まりながら、傾きに耐えていたらしい。至る所で、通常の船とは違う南極に耐えれる造りがあり、とても面白い。
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ブリッジ見学が終わったら、次は博物館の展示コーナーのような部屋に案内された。
SHIRASEの歴史年表から南極観測の意義の説明、今日の昭和基地の様子まで見ることができる。とても分かりやすい表だったため、夏休みの自由研究などにも最適だと感じた。
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見学ツアーでは、食堂や飛行甲板、寝室、手術室など様々な場所を見ることができた。艦内探検が楽しすぎて、船好きからすると時間はあっという間に過ぎて物足りないかもしれない。コロナで現在は休止しているが、ビール工場見学とセットではないSHIRASEのみのツアーも今後再開する見通しとのこと。
我々は、今回ビール工場見学もセットだったため、この後サッポロビール工場へと向かった。筆者はビールが飲めない為、試飲はSHIRASEのイメージカラーのオレンジにちなみオレンジジュースを楽しんだ。ビール好きの方は注ぎたての美味しいビールが2杯楽しめるので、ぜひ心ゆくまで味わってほしい。
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最後に、SHIRASEの歴史について少し述べる。〈初代しらせ〉として任務を終えた現SHIRASEは、当初保存船の協議にかけられるものの最適な引き取り手が見つからずスクラップされる予定であった。そんな中、ウェザーニュース社の創業者石橋氏が「これまで2隻は保存されているにもかかわらず、しらせをスクラップしてしまうと南極観測の文化継承が途切れてしまう」と立ち上がった。
船の保存には、毎年莫大な額がかかるもの。保存には至らず、悲しくも数々の歴史ある船がスクラップされてきた。もしSHIRASEがスクラップされていたら、今後の南極観測船もスクラップされる運命へと近づいてしまうだろう。現在のしらせが残されるかはまだ分からない。しかし、文化継承の観点から、今後も南極観測船が全て残されることを願ってやまない。
南極観測船で、雄大な南極へと挑んだ歴代の船へと想いを馳せる時間は、まるで大人エレベーターで時間を遡っているようだった。冒険心や好奇心を思い出させてくれる船、SHIRASE。ぜひ一度見学してほしい。
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SHIRASE 見学ツアー、詳しくはこちら
筆者:船好きガールさえ
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