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懲役ダイアリー 2017年3月29日水曜日『受刑者のくせに結婚記念日』

「やばい・・・痛い・・・足が動かない・・・。」

起きた瞬間太ももに激痛が走り、足を動かすことができない。何かにとりつかれたのか・・・呪いか・・・。いや違う。

昨日の運動時間に行った・・・

スクワット・・・。

やりすぎて、鬼の筋肉痛。

一緒に筋トレをしてくれている同い年のイマハラ君は余裕でスクワットやっていたけれど・・・私はふらふらで倒れそうだった・・・。運動時間が終わり、工場へ戻る途中の階段を上るのもやっとの状態。

なんでもやりすぎはよくない。ほどほどが一番だということを再認識した。

3月29日。今日は私と妻の結婚記念日。昨年の結婚記念日は保釈になったおかげでなんとか外に出ることができたので、妻と子供と一緒にこの日を迎えることができたが、結婚して以来初めて家族バラバラで迎える日となった。

私は詐欺をしていた時、平日は毎日のように遅く帰宅していた。妻に仕事と嘘をつき帰宅しない日もあった。外に愛人を作るようなことはなかったが、キャバクラへ飲みに行き、ホテルに泊まりそこで風俗店の女性と情事を行っていた。今でこそなぜそんなことをしていたのか・・・今はそれがよく分かる。当時の私はとにかく稼いだお金を遣いたかった。自己顕示欲に支配され、封筒に入った現金やエルメスの財布にパンパンに入った札束を見せびらかし色々な人からチヤホヤされることが快感だった、

妻には取引先の人からの頂きものと嘘をつき、ブランド品も買い漁っていた。

とにかく裏では最低な事ばかりしていたが、自宅へ帰ると父親の顔になっていた。夫の顔にもなっていた。

週末には家族で食事、焼肉、寿司、ステーキと贅沢三昧、モールへ買物、温泉やレジャー施設へ旅行へ行き、妻が欲しいものを買ってあげる。これは私がお金がなかった頃に妻にずっと言っていたことを現実にしたかったからかもしれない。

「いつか広い家に住んで、車があって、犬がいて、たくさん旅行して、おいしいものいっぱい食べて、欲しいと思う洋服もすぐ買ってあげられるような人になる。だから待ってて!!」

これを妻に伝えていたのはまだ妻が彼女だった頃で、詐欺に手を染める前の純粋な心が私に残っていた時だった。

父親の顔、夫の顔は嘘ではない。それも本当の自分だった。

逮捕され、保釈になった日に私の愚行、裏切り全てを妻に告白し懺悔した。

妻は泣きながら許してくれた。本当のことを言ってくれてありがとうと感謝をされた。そして私のことを待ってると言ってくれた。

一緒に泣いた。

妻の小刻みに震える体をそっと抱き寄せ、

「ごめん」

と耳元に告げた。

妻は黙って泣いていた。

そこで初めて気がついた・・・。本当の愛に。

刑務所にいるといつも思い出す、家族で過ごした保釈期間。今日という日は一緒に迎えたかった・・・。あと何年一緒に迎えられないのだろう。

よし、決めた。出所したら妻へ改めてプロポーズをしよう。小さな結婚式を挙げよう。もう一度やりなおそう。そして今度こそ最高の家庭を作ろう。

不安はあるけれど、一家の大黒柱として妻に散々迷惑かけた分頑張らないと。家族のために生きなくちゃ。

受刑者のくせに結婚記念日がどうとか・・・世間的に見たらクソみたいな話だと思う。でも・・・いつか必ずみんなが笑顔になるような事をしてみせる。真っ当に生きて迷惑をかけてしまい壊れてしまった家族関係や、人間関係を元に戻す。頑張らないと。

塀の中の結婚記念日は静かに過ぎていった。

全ては順調に進んでいる。人生の成功に向けて。


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