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さくらの花の咲くころに

秋に部活を引退し、慌てて受験勉強に本腰を入れた。楕円球を鉛筆に持ち替えたから、ゴツゴツガサガサだった手のひらはすっかり柔らかくなった。

もうすぐ、卒業。毎日毎日、汗まみれ泥まみれになったグラウンドが懐かしい。

久々に、ぼーっとたたずんでみる。

春風がそよぎ、砂ぼこりが舞う。あの日々を思い出す。

体のあちこちをすりむいても、へっちゃらだった。いまなら、ちょっと虫に刺されただけで気になって仕方ないのに。

練習帰り、仲間とコンビニで買い食いするのが最も解放感に浸れる時間だった。毎日毎日、通っていたからだろうか。店の前にたむろしても、なぜか店長は大目に見てくれた。

あの日々は、もう戻らない。でも、どこにいても、春風がそよぐたびに思い出すんだろうな。そうやって少しずつ年齢を重ねていくんだろうな。

柄にもなく、大人びてみる。

さくらの花の咲く季節は、そういう季節なんだろうな。

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