センチメンタルカンガルー

夏になると、小さな小さなカンガルーが日本中を跳び回る。手のひらに乗ってしまうほどの小ささだ。

名前を、センチメンタルカンガルーという。

このカンガルーが気にかけるのは、なぜか決まってポニーテールをリボンで結んだ女の子だ。恋に恋する年頃の。

夏休みを前にしたこの時期。好きな彼に告白したい、でも恥ずかしくてできない。つきあい始めた彼をデートに誘いたい、でも恥ずかしくて誘えない。そんな子たちの背中を押すため、カンガルーは跳び回る。

「魔法をかけたから、大丈夫だよ」。その一言で、引っ込み思案な彼女たちは勇気づけられる。意を決して彼のもとへ。結果は◎だったり×だったりする。

でも、気持ちを伝えられてよかったな。あ、あの小さな小さなカンガルーにお礼を言わなきゃ。

ポニーテールとリボンを揺らしながら、彼女は振り返る。

もう、センチメンタルカンガルーはどこかへいなくなっている。

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