過去と今をつなぐ味噌仕込み
おばあちゃん、タイムスリップしてきた?
そう思うほどに、おばあちゃんの仕込んだ味噌とうりふたつの味噌ができた。
すごい、うれしい。10年以上以上求めていたあの味は、自分の手の中にすでにあった。なんで気がつかなかったんだろう。
◆◆◆
2024年1月、初めて味噌を仕込んでみた。
初心者なので、「ひとしお」の手前味噌キットを使ってみました。
8ヶ月寝かせて(本当はもっと寝かせた方がいいみたいだけど…)我慢しきれなくて少し味見をしてみる。
「これは…ずっと求めていた、おばあちゃんの味噌だ!」
◆◆◆
物心づいた時にはすでにおばあちゃんの味噌を食べていた。味噌をお店で買ったことがなく、祖母が仕込んだ味噌で育った。
祖母の味噌は市販のものよりしょっぱくて濃厚な後味が残る、昔ながらの味噌だった。
ところが、高校時代、急に祖母が亡くなった。そこから数年経ってふと気づく。
「私、あの味噌のレシピを知らない。味噌のレシピをなんで聞いておかなかったんだ……」
味噌の他にも思い出の味はいくつもある。作ったハタハタ寿司、梅干し、煮物、もう祖母が作ったあの味は食べられないのか。
湧き水を汲みに行ったり、一緒に温泉に行ったりはよくしていたけど、料理のお手伝いの記憶はまったくない。
もっと一緒に台所に立っておけばよかった。
◆◆◆
話を戻そう。味噌仕込みには、手で直接味噌のもとを丸める工程がある。そのとき、手の常在菌が味噌に移るらしい。
作った味噌がおばあちゃんの味とそっくりになったのは、おそらく手の常在菌のせいなのではないだろうか?血縁だし、常在菌の構成や種類も似ていそう。
さっそく仕込んだ味噌で、お味噌汁を作ってみる。どうやら大豆の潰しが甘かったようで、豆のかけらが出てきた。
そういえば、仕込みの最中、潰しきれないけどまあいっか、と放置した記憶……。
大豆を分けて茹で直せばよかったのかもしれないが、ズボラな私はなんとかなるでしょ精神で、そのまま仕込みに入ってしまったのだった。
(これには一応、ちゃんと事情がある。大豆を茹でる鍋が小さすぎて茹でが甘く、豆が若干固かったのだ。キッチンが狭いから大きい鍋は持っていないし、炊飯器でも同時に茹でていたので、もうどうしようもなかった、という言い訳をしておく)
祖母の味噌も、同じように大豆のかけらが残っていた。お味噌汁を飲み干したあとに残るかけらを食べるのがいつも楽しみで、かけらが大きいと「当たりだ!!」と喜んでいたものだ。
そっか、祖母も私と一緒で少しズボラだったのかもしれない。
というか、ズボラな祖母に私が似たのか……?
見た目だけじゃなくて性格まで引き継いでいたのか。こんなところで気がつくことになるなんて。
◆◆◆
生前の祖母のことは、少し疎ましく思っていた。昔から顔や声がそっくりと言われ、年々顔も体型も似てきて、ちょっと嫌だなあと思っていた。
でもこうやって、祖母のかけらと会えるのは嬉しいものだ。私の手のひらの中に眠っていて、料理をしていれば、ときどき会えるらしい。
こういうことがあるから、料理っていいな。