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栄養価の高い食品ってなんですの?


ここ最近、「そもそも◯◯って何だ?」という疑問がいろいろとモクモクしてきたので、自分の頭の中の整理も兼ねてちょっと栄養士の当たり前を再考してみようと思いついたコラムの初回。

今回は栄養価の高い食品について。

頭の中にふわっと「そもそも栄養価が高いってどういうことなんだろう?」「栄養価って何だっけ?」という、栄養士らしからぬ疑問が湧いてしまったので色々と調べてみました。
ざくっとネットで「栄養価の高い食品」と検索するといろいろな記事が上がってきます。へー、と思いながらページを見ていたのですが、どうも納得がいかなかったので深掘りすることに。

結論から先に言っちゃうと、誰にでも共通する「栄養価の高い食品」はないのかも、と私は考えている。そもそも私の頭の中では栄養素というのはパズルのピースみたいなものだし、そのパズルを入れるフレームをヒトの身体と考えたら「栄養価が高い」食品かどうかは対象者によって異なる。例えば、完全栄養食と言われる卵だって、食べれない人もいるしね。自分にとって価値の高い食品を手に入れたいのなら、先に自分にとっての優先度を決める必要がある

では、その優先度はどのように決めるのか?
「栄養価が高い」というのはどういうことかに触れながら書いていくね。
あ、それと研究者ってめんどくさい生き物で、言葉の定義をしておかないと何を話しているかわからなくなるのでそういう話も挟みます。
(でも栄養学では明確な定義とか文献が出てこなかったりするから不思議)


1.栄養価とは?

「栄養」「価」なので、栄養的価値のことを指す言葉であることは予想がつくと思う。ちょっとウィキペディアさんの力を借りるとこんな感じ。

食品の品質(英語版)評価の一環としての栄養価(えいようか、Nutritional value)は、食品の消費者に向けて、その食品の必須栄養素が十分なバランスのとれた比率かについての指標である。その食事や食事に含まれる、炭水化物、脂質、タンパク質、ミネラル、ビタミンの評価の指標。何種類もの栄養評価システム(英語版)と栄養成分表示が栄養価の点で食品を評価できるようにと考案されているが、絶対的な評価であるかについては議論されたままで、一部の消費者の要求についても取り入れられていない[1][2][3]。「タンパク質の栄養価」というとき、タンパク質の利用効率などから算出する(アミノ酸スコア)[4]。
健康状態の違い、季節の違い[5]、年齢[6]、性差[7]、人種や分類学上の違い[8]によって食品の栄養価はさまざまになる。
ヒトだけに限った固定的な評価付けによる絶対的な尺度についても、関わってくる成分の相互作用の複雑さが原因で疑問のあるもので[9][10][11]、広く適用した場合には意図しない結果につながることがある[12][13]。
口語的には、食品のカロリーを意味することがある。

なるほど、栄養的価値というのはその食事や食事に含まれる、炭水化物、脂質、タンパク質、ミネラル、ビタミンの評価の指標のことね。それが万人に共通する(絶対的な)評価なのかどうかは議論されていると。個体差あるもんね。

ちなみに「栄養価が高い食品」で調べると、抗酸化作用とか免疫力アップとかいう言葉が並んでいる…。
栄養素の働きはいくつかあるけど、これって調整機能の方に重点が置かれているのかな?(この時点でちょっと誤認があるけどそれは後でちゃんと解説します)ってな感じでなんだか引っかかりを感じたのでもうちょっと調べてみることにした。


2.食品の価値を決める指標

実は食品の価値を計るのにはいくつかの側面がある。あ、価値といっても金銭面での価値は今回考えてないですよ。その価値を決める指標というのが食品機能というもの。栄養価というのはその食品機能のひとつ。
何のことやら具体的に思い出せなかったので大学生の時の教科書を引っ張り出してきてみたけど、食品学とか調理学の最初にさらっと触った程度の記憶しかなかったな〜…。今読み返したらとても大事なところじゃないか!(衝撃)
だいぶ古い文献1), 2)だけどわかりやすく書いてあるものを見つけた。それを参考にまとめるとこんな感じ。

食品の一次機能:栄養機能
  個体形成、生命維持、エネルギー生成
食品の二次機能:感覚機能(つまりは嗜好)
  味(五味)、香、テクスチャ、品温、色合
食品の三次機能:生体調節機能
  体調調節、老化防止、生体防御、疾病予防、病態回復

ちなみに、トクホ(特定保健用食品)とか機能性食品は第三次機能に着目した食品のこと。食品機能のことは忘れてたけど、これはちらっと覚えてる。
ここまできてちょっと困った。これでいくと抗酸化作用とか免疫力アップってのは三次機能の方では?二次機能についてはわかるけど、一次機能と三次機能の違いがよくわからない…。生体機能の調節って生命維持のひとつでは??と思ったりもする。まぁでも短期的な目で見たら別もんではある。


食品機能についてさらに調べることにしたら、ちょっと混乱する記事が出てきた。

うーん…三次機能は非栄養素。
トクホの用途別分類には栄養素も含まれてたけどなぁ…。
(例:おなかの調子を整える食品・・・オリゴ糖を含む食品、乳酸菌類を含む食品、食物繊維類を含む食品)
まぁ、大昔は食物繊維はヒトの体内で消化されないから役に立たないものだと考えられていたらしいし、非栄養素が機能性成分を探索するという意味での考え方なのはよくわかる。というわけで私の頭の中の混乱は解けた。
(自己完結)


3.栄養素とそうではないもの

ここで改めて栄養素についての復習。
「栄養素」とよばれる成分は5つ(6つ)ある。

①炭水化物(糖質と食物繊維)
②脂質
③タンパク質
④ビタミン
⑤ミネラル(無機質)
(⑥)水

これ以外で食品中に含まれる成分は、実は栄養素とは呼ばない。
以前書いたコラムでは栄養の定義を「生物が体外(外界)から物質を摂取し、それを体を構成したり(維持したり)生活活動を行ったりするのに役立たせる現象」と説明した。これをヒトで言うと、生体を構成したりATPを産生するものが栄養素なので、例えばカフェインは栄養素ではない。

そして、栄養素の働きというのは大きく分けて以下の3つ。

①エネルギー源になる(熱量素)
②ヒトの身体を構成する(構成素)
③身体の生体機能を調整する(調整素)

ほら、栄養素の働きに生体機能の調整ってあるから栄養機能(一次機能)には生体機能の調節も含まれてるじゃん、と思っちゃうよね。
でも生体機能の調節をする成分が栄養素か?と言われるとそうではなかったりするし、何よりも調整調節では言葉の意味が異なる。調整は「基準に合わせて正しく整えること」で、調節は「ほどよい状態へ整えること」を指している。調整が恒常性の維持だとすれば、抗酸化作用とか免疫力って、広義ではそうなのかもしれないけどちょっとレイヤーが違うよね。危うく誤認したまま考えを進めるところだった。あっぶね。
うまく説明できないけど、必要条件なのか十分条件なのかってのが根底にあるよね。そういうところが誤認の要因だろうし理解のしづらさなのかなぁ、と思った。
(自己完結)


4.改めて「栄養価が高い」とは

これ以上深掘りすると脱線しそうなので、食品機能についてざっくりイメージをつくってみた。

たぶんこういうことなんだよね。生命機能の保持をするものが一次機能だとすると、ある程度のバランスはとるけど生命機能の保持まではいかないよってのが三次機能かなと思う。
本来「栄養価が高い」っていうのは、主に一次機能の面から「自分にとってより有益なもの」のことを指していた。戦後とか生命機能の保持を優先に考えていた時代からすると理解しやすいのかもしれないけど、現代では普通に食事をとっていたら生命機能が脅かされることは少ない。そして平均寿命が伸びたことで、健康寿命に着目される時代になっている。
そういった面からすると、抗酸化作用や免疫力アップといった機能が「栄養価が高い(自分にとってより有益である)」とする状況にシフトしてきたのが今なのかと思う。


5.結局のところ、栄養価の高い食品はどれ?

だらだらと3000字程書いちゃったけど、一番知りたいのって「私にとって栄養価の高い食品は何か」だよね。
先に結論書いちゃってるけど、誰にでも共通する栄養価の高い食品はおそらくないから個別対応が必要。では、その時にどのように優先度を決めるか?
ざっくりだけど以下のことがポイントになるかなと思う。

①何か疾患にかかっていないか
②健康の保持・増進のために、減量・増量の必要があるか
③何か身体的な面での困りごとがあるか

もしもすでに何か疾患があるなら、その疾患に関連する視点から優先度を決める必要がある。
まだ疾患にはなっていない状態で太り過ぎ・痩せすぎだと言われていれば、体重管理の面から優先度を決めることができる。
上記の二つに当てはまらない場合には、身体面についての困りごとから優先度を決めていけばいい。
まぁこれは「栄養価が高いものを!!」って考える人ってきっと何かしらの困りごとがあるだろうっていう前提に立っての考え方なんだけどね。


あとがき

結局のところ「当たり前じゃん」って結論になってしまったけど、実際に栄養指導とか保健指導をしていると本人の思っていることと実際の状況にギャップがあることはよくある。多分、そのギャップが小さい人は専門家に頼らなくてもなんとかなってる人。

いろいろ調べながら改めて思ったけど、栄養学ってなんかスッキリしない。まだわかっていないことが多いってのも理由だと思うけど、なんとなく縦割り感がある。栄養学って学部でいうといろんな学部で扱っていて、農学系で栄養学をやっている人とか、医学系で栄養学をやっている人とか、いろいろあるから包括的に理解しようとすると齟齬が出てくるのかなぁ…。


参考文献

1) 藤巻 正生, 1. はじめに, 化学と生物, 1987, 25 巻, 2 号, p. 109-110

2) 滝波 弘一, 食品の特性・特質, 日本農芸化学会誌, 2003, 77 巻, 6 号, p. 560-562



Photo by Anna Pelzer on Unsplash

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