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逆コンビニ強盗

コンビニのレジで店員から「手を挙げろ」と言われたことがある。仕事からの帰り道。習性のように立ち寄る近所のコンビニでのことだ。


お弁当と部屋の冷蔵庫に常備しているヨーグルトと目についたポテチの新作を手に取って、いつものようにレジに置いた。

今どき珍しいぐらい髪に何か塗りたくった男性店員が無言でお弁当を手に取り、バーコードをスキャンする代わりに僕に拳銃のようなものを向けたのだ。


一瞬、店員がレジのスキャナーと拳銃を取り違えたのかと思ったけれど、そもそもレジに拳銃が置いてある時点でおかしい。

僕が呆気にとられていると、さっきまでレジに近い棚で商品を補充していたもう一人の店員がサッとレジに入り、僕に「言うとおりにしてください」と告げる。

その口調は強要というより、どこか協力をお願いしているような感じだった。

……これは何かの訓練なのだろうか。

仕事終わりの頭のままの僕は、いたってまともな思考でなんとかこの状況を理解しようと試みる。だけど、客が強盗になるならわかるけれど、店員が客に拳銃を向けて手を挙げさせる訓練の意味がわからない。

        *

「そういうことですから、この商品は諦めてください」

拳銃を僕に向けた店員が言う。もう一人の店員が素早く、僕が買うはずだった商品をどこかの国の言語が刷り込まれたビニール袋に放り込む。

僕はなんだか急に淋しい気分になる。本当なら自分が食べるつもりの《五穀米ヘルシーチキン南蛮弁当》が目の前から消えてしまったのだ。

「あのさ」僕は拳銃を向けている店員に言う。「そのお弁当はいいから、何か代わりのお弁当もらってもいい? 昼に何も食べてないんだ」

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昼食を食べ損ねたのは本当だった。でも、打ち合わせ先で出されたドーナツを五個も食べたたので、本当はそれほどお腹は減っていなかったのだけれど。

それでも、このままおとなしくコンビニを出て部屋に帰ってしまうと、なんだか空腹感以上にぽっかりと違う何かがあいたままになりそうな気がした。


「それは無理です」
拳銃を左右に振りながら店員がボソボソと言った。

「そんなことしたら今日の目標が達成できないんです」

謎の袋に僕の商品を放り込んで数をチェックしていた、もう一人の店員も僕に言う。

「コンビニの管理が厳しいのはお客さんもご存知ですよね?」

なるほど、と僕は思う。

「それなら仕方ないね」

僕は店員たちに言ってコンビニを出る。自動ドアを出るときにチラッと振り返ると、二人が小さくお辞儀をしていた。

        *

部屋までの帰り道で白い自転車に乗った警察官とすれ違う。とっさに僕は今の出来事を伝えようかと思ったけれど思いとどまった。現実的には僕は何も失っていないのだ。

だけど、なんだかすごくいろんなものを失ったような、置き忘れてきたような気がしてならなかった。


それ以来、僕はコンビニに行くたびにレジでスキャンの先を確認するくせがついている。

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