イケてる兄貴。

僕には兄がいます。男二人兄弟で、僕が生まれた時にはもう兄は兄でした。

兄という生き物はいくら年をとっても追いつけなくて、憧れの存在です。今回はそんな兄のお話。

僕は食べることが好きですが、昔からそうだったわけではありません。幼稚園までは食も細くて好き嫌いも多く、食べなさすぎて親が心配したほど。全く記憶にありませんが、食事の時間を嫌がっていたようです。

少し話が逸れましたが、そんな幼稚園の頃。街からおばあちゃんが、ハンバーガーを買ってきました。そう、外国の食べ物。たまに買ってくることはあったものの、やはり小さい子供にとっては珍しく心ときめくもの。心躍りながら、ハンバーガーを食べていると、4つ上のイケてる兄貴がいいました。

「お前まだそんな子供っぽいもの食いよるとや。大人はな、チーズバーガーぞ。」

なんだと。チーズなんて贅沢なものつけているのか。4つ差があるとはいえ、今思えば、何故そこで差をつけた。どうせつけるならもっと大きい差をつけてくれ、ばあちゃん。

月日は流れて、またやってきたハンバーガーチャンス。きっと僕はもう小学校だったでしょう。おうちにまたやつがやってきた。今度は入念な打ち合わせが行われた。ちゃんとチーズバーガーを頼んだ。僕も大人になった。

「お前まだそんな子供っぽいもの食いよるとや。大人はな、ビッグマックぞ」

なんですって。誇らしげな兄の右手には大ぶりの、そして幾重にも層をなしたバーガーが。でかい。これが大人か。これが資本主義か。

ここまでくると僕ももう学んだ。中学生になるころ、僕はもう胃袋も成長した。準備は万端だ。今の違って、ビッグマックが価格としては最高峰だ。これを超えるものはない。準備は万端だ。もう敗北はしない。ドヤ顔でビッグマックを見せびらかした。どうだ、大人になったんだ。

「まだそんな子供っぽいもの食いよるとや。時代はフィレオフィッシュぞ。魚の方がおしゃれやけん。」

待ってくれ。こいつ、時代とか言い出した。大人になりたくて、大人っぽいことに憧れていた僕には衝撃だった。時代だ。世の流れを掴むにはいかに大人になるかではない。時代を読むのだ。中学生の兄は時代を読んでいた。よれよれのTシャツに、くすんだハーフパンツの兄は時代の先を読んでいたんだ。なんておしゃれなんだ。

チーズに、肉に、大盛りに踊らされていた自分が恥ずかしくなった。兄との攻防は兄が高校を出て、家を出るまでずっと続いた。常に時代を読んでいた兄は、いつも先をいっていた。ある時はモスバーガーを自慢され、ある時はもはやファーストフードを否定され。お兄ちゃんらずっとかっこよかった。いつまで経ってもお兄ちゃんは絶対だ。

先日帰省した時、兄に会った。父が残したパンの耳を美味しそうに食べていた。飽食の時代だ。やはり兄は時代を読んでいた。いつまで経っても兄と食べるご飯は、楽しくて美味しかった。

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