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「ヴェネツィアのガラスビーズの技」が無形文化遺産に

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 この2020年の終わりに、「ヴェネツィアのガラスビーズの技」が、世界無形文化遺産として認定された。ユネスコが制定する世界無形文化遺産は、このガラスのビーズほか、2020年に新たに加わったものを含め、127カ国で549点の登録となった。そのうち、イタリアは12点、2008年にシチリアのプーピ(操り人形)とサルデーニャのカント・ア・テノール(歌唱法)を皮切りに、クレモナのヴァイオリン製作、地中海料理やナポリのピッツァ製法など個性豊かな伝統や技、お祭りが登録されている。
 都市まるごと世界歴史文化遺産に登録されているヴェネツィアだが、無形部門での登録は初めて。ガラスといえばまず、いわゆるヴェネツィアンガラス、ムラーノ島で製作されるガラスに目が向くが、その中でも最も小さな製品である「ビーズ」であえて申請し、認定されたのには大きな意義があったと思う。

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 ヴェネツィアのビーズには、その製法により大きく分けていくつかの種類がある。
 代表的なのは一般に「とんぼ玉」と呼ばれるもので、バーナーを使い、手元で芯となるガラス玉にさまざまな色のガラスを溶かし組み合わせていく。一粒一粒がまさに手作り、大きさも色も形も、最も個性豊かなビーズとなる。

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 「ロゼッタ」と呼ばれるビーズは、古代エジプトやローマで作られていたビーズを、15世紀にヴェネツィアの職人が復活させたもので、棒状の色ガラスを並べ、巻き取り、断面が星型の同心円の模様になるようにしたものを斜めに削ることで複雑な模様が現れる。(言葉での説明が極めて難しい・・・)これには、大きな窯での吹きガラスの技に加え、ガラスを削り、磨く技が不可欠だ。

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 さらに、コンテリエと呼ばれる、通常は単色の細かいシンプルなビーズは、極細のストロー状の色ガラスを作り、カットし、砂の中で転がして丸みををつけて完成させる。アクセサリーだけでなく、ファッションやインテリアにも多用されたコンテリエは、今は残念ながら生産する工房がなくなってしまったが、20世紀前半にはムラノ島内の大きな工場で大量に生産され、主要産業の一つだった。

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 1ミリ未満の極小のコンテリエからかなり大振りなロゼッタでもせいぜい数センチ、とミクロな世界だが、これらのビーズが製作できるのは、原材料の配合から加熱し、素材としてのガラスを生み出し、自由自在に扱う技があってこそ。
 また、コンテリエやビーズはかつて、糸や針金に通して、一定量を房にして販売、輸出されていたが、特に細かいコンテリエを糸に通すのは、ムラノ島やヴェネツィアの女性たちの仕事だった。彼女たちは「インピラレッサ」と呼ばれ、かつては家の扉の前で、膝の上で作業をする姿が町のあちこちで見られたようで古い写真も残されている。現在はさすがに路上では見かけないが、さまざまなビーズをアクセサリーとして組み立てる仕事は、ヴェネツィアから本土側のメストレの地へとその場を広げている。

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 1つ1つは手のひらどころか、指先でつまめるくらいの小さなビーズたちは実は、こうしてムラーノ島のガラス工芸の伝統と技、歴史、産業を担っている。そして何よりも一点ものの作家から数世紀にわたる無数の職人や内職の女性たちまで多くの人の手によっている。熟練技巧から丹念な手作業まで、そのどちらが欠けてもこの「技」はありえない。あらゆる仕事にくまなくスポットを当て、無形文化遺産というお墨付きを得たのはそこで働く全ての人々への敬意にほかならない。
 ヴェネツィアのビーズに、ガラスに携わる全てのみなさんに、おめでとう、そしてこれからもどうか、ステキなビーズをたくさん生み出してください。

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Fumie M. 12.20.2020

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