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短編その6 ハイブリッド

文字数:1,300字程度
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 コンビニでバイトをしていると、普段関わることのないような人種と関わり合うことができる。今回、俺が実際に働いていて、これまで出会った輩について、少しだけ紹介したい。
「いらっしゃいませー」
「煙草。メビウス。ライト」
 例えばこんな奴。単語だけを区切って述べる奴。こんな奴らを、俺は『コミュ症』系と呼ぶ。
「お会計、300円です」
 ぽいっ。チャリンッ
 お次はこんな奴。金を支払う際、普通に置けば良いのに、わざわざ投げてよこす奴。こんな奴らを、俺は『お賽銭』系と呼ぶ。
「お会計、530円です」
「あ、いくらだって?」
「530です」
「はあ?前は500円だったろ」
「お客様、この前はキャンペーンで値引きされておりまして…」
「あ。あーそういうこと。だったらきちんと書いておけよ。だから間違えるんだよ、全く」
 更にはこんな奴。自分のミスを認めず、意地でも謝らない奴。こんな奴らを俺は『高プライド』系と呼ぶ。

「…とまあ。働くまでは楽かなーとか思ってたけど。案外きついもんだよ、コンビニで働くのだって」
「へえ。お前も苦労してんだね」
 会って早々、矢継ぎ早に述べる友人に、俺は適当な相槌を打つ。
「でもそのお陰で、俺は真っ当な人間として成長できている気がするよ。反面教師ってやつ?」
「それは何より。社会勉強って、ポジティブに考えられるところ、良いと思うぞ」
 俺の言葉に彼は何も言わずに、頭を掻く。
「てか飯も食ったし、そろそろ帰らねえ?」
「それもそうだな」
「そういやお前、一昨日誕生日だったっけ。今日の昼飯は奢ってやるよ」
「え、いいの?」
「良いって良いって。俺のバイトの愚痴を聴いてくれた、お礼ってこともあるからさ」
「…それならお言葉に甘えて。すまんな」
「おうよ」
 会計伝票が挟まったプレートを持つ彼に、俺は軽く頭を下げる。そのまま出口まで向かうと、レジのところには既に、店員が二人を待っていた。
「ありがとうございます」
 店員はぺこりと頭を下げる。
「会計。これ」
 彼は手に持っていたプレートを、トレイの上に投げ置いた。そんな友人の態度に、俺は目が点になった。
「失礼します」店員は何事も無かったかのように、伝票に記されたバーコード部分にリーダーを当てる。
「2,700円です」機械的に述べた。
「え?なんで、そんなするんだよ。メニュー表じゃ俺たち、合わせて2,500円だったよ。なあ」
 表情に不満の色を浮かべ、彼は俺にも目配せをする。
 従業員は表情を変えることなく、次のとおり述べた。
「お客様はライスを大盛りにしておりますので。申し訳ありませんが、金額は2,700円で間違いございません」
 彼の顔が一瞬青ざめたのを、俺は見逃さなかった。
「な、なんだよ。だったらそう、最初から言ってくれれば良いのに。なあ」
 しどろもどろになりながらも、俺の肩をぽんっと叩く。彼のその態度に、俺は若干恥ずかしくなる。
「とりあえずもう、払おうぜ」
 同調されなかったことに少し苛ついたのか、友人は財布から2,700円を取り出し、レジ前のトレイに投げて置いた。店員も、はたまた俺も目を丸くして彼を見る。
「ほら、早くしろよ」
「あ。は、はい」
 店員はいそいそと小銭を拾い上げ、レジに打ち込む。

 言うなれば、彼は『ハイブリッド』系か。

 そんな彼を見つつ、俺は心内でやれやれと息をついた。

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