恥の多い生涯だった話
「同じ書店で、同じ書籍を買ったことがある……」
笑いを狙っているのかと思われそうだが、決して違うことだけ言いたい。
先日のことである。不要不急な外出は控えましょうという名目のもと、家で快適に過ごせる方法を考えていた。そのタイミングで、本の大人買いをしたのである。このチャンスを活かすしかないと思ったのだ。
「金額でいうと13000円……」生まれてはじめて書籍代だけで10000円を超えたのだった。
「この学びを必ず自分のものにするぞ!」気合は十分であった。
『拝啓 物語を書くあなたへ』
日々、書くことを習慣にしている自分にとって、まるで自分のことではないかと思ったほどだ。誰よりも早く、そのタイトルをみて購入ボタンを押した。
この時点でワクワクした気持ちしかなかったのである。
2〜3日後、自宅に宅配便が届き開封の儀を執り行った。カッターで段ボールを切り、「どんな本が入っているんだろうか……」と思う気持ちは、まるでクリスマスプレゼントを待つ少年のようであった。
ダンボールを開けた瞬間衝撃が走る……!
「うお…!マジか!」
『人間失格』著者:太宰治
書店スタッフは悪くない。いや、むしろ自分が悪いのだ。
去年の11月に「文豪の作品も読んでみるか……」と思いその書店で購入していたのである。途中まで読んでいたのだが、栞を挟んでそのまま放置。最後まで読まずに、本棚に入れていたのであった。
「いずれ読もう」その先延ばし思考がこういった状況になった。
サッカーで例えるなら、読まずに栞だけ挟んでそのままにしている時点で、イエローカードである。読むことすら忘れていたため、そこから追い討ちのごとく、同じ本が巡り巡って、自分のもとにきたということは、レッドカード扱いになっても仕方がないと感じている。
有名な作品なのにも関わらず、生涯一度も読んだことがないのも「人間失格」ではないかと脳裏に浮かんでしまった。
恐る恐る本を開く。
主人公、大庭葉蔵。東北の富豪であり、幼少の頃から気が弱い性格で他人を恐れて本心を悟られないよう、道化を演じている。他人だけではなく両親にも、迷惑をかけないよう人生を送っていた。
他人に嫌われたくないという気持ち、本心を悟られないように道化を演じる。
まるで自分のことを言われているように思えた。自分も他人に嫌われたくないし、真面目なことに目を背けて笑いに走ろうとする気持ちが、葉蔵とか被ることがあった。
父親のいうことは絶対であり、何か自分がやりたいと思うこと言葉で伝えると否定からはじまり、怒られないように、親に迷惑をかけないようにという気持ちが先行して、本心を隠していた少年時代と被ったのだ。
はっきり自分のしたいを言わないで、流されるまま……葉蔵は大学に通うのだが、結局勉強に精を出すことはなく、悪友と遊び呆け、女性関係に悩み、
挙句の果てに自殺未遂をするという。
どんどん、堕落していく姿をみるたび、「大丈夫なのか」と同情する気持ちが出てくるのである。
今まで、抑え込んできた感情が負の感情となって、人間関係がどんどん拗れていくのであった。
体調を崩し、病院で処方されたモルヒネの使用量が増えていき、薬物中毒となる。最終的に病院に運ばれ自分は狂っていることに気がつく。
「人間、失格」
まるで悟ったかのようにそこで物語が終わるのであった。
人間らしいのだが救われることがない。読んでこんなにもいたたまれない気持ちになったのは、はじめての感覚だった。最後まで読んで自分は解釈した。
「これは、こんなふうになってはいけない」
作者自身の実体験もこの本に込められているのは、他人から聞いたことがある。身体をはって自分のものにすることは、何かを伝えるときの説得力になるのだ。しかし、命を絶ってはならないと思う。
自分の弱いところを公開することはネタ(コンテンツ)になるのだが、その境界線が最近になってわからなくなってきている。
時間とともに、最悪なこともネタとして昇華していくのは、次のステップに進むための大切なことだ。その経験は、いずれ財産になる。
人間失格が教えてくれたことは、自分の弱いところをネタにすること。誰かの力になることを教えてくれたのと、ここまで堕ちてはいけないという。作者自身の注意喚起なのではないかと思っている。
「恥の多い生涯を送って来ました」
同じ本を購入しただけで恥と思ってはいけない。
その経験をこのnoteに残せば、誰かの支えになることを信じている。
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