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あの夏にリベンジしたい話

誰だって思うことはあるだろう。

根拠のない自信、感情が高ぶると「オレ、なんだって出来るんだぜ!」と感じる瞬間がある。今でこそ、自分の存在のちっぽけさや世の中を変えるような力を持っていないことを理解できるのだが、当時は若かったのだろう。

中学2年のとき、『中二病』という思春期特有の病を患っていた。

中学校生活にも慣れ、楽しい学生生活だった。勉強はまるで駄目だったのが、部活が楽しかったため学校に通っていたようなもの。

夏休みになると、ほぼ毎日練習と練習試合の繰り返しであったが、軟式テニスの白いゴムボールを追っかけ汗を流していた。

部活のメンバーとは特に仲が良かった。練習が午前の場合、その後にメンバーの家になだれ込む。もちろん、その約束つけるのは当日の練習後だ。冷静に考えると、相手の立場になって考えるという感情が欠落していたのだ。そして、集まる家も固定化する。最新のゲーム機を持っているメンバーは、たまり場となる。

当時、格闘ゲーム、アクションゲームが流行っていたため、潜在的に血の気が多い人種だったのかもしれない。


そんなときである。


「夏休みに入ったわけやし、みんなで花火せえへん?」

友人がこぼした言葉に皆が反応する。「ええやん!やろうや!」と、個人競技寄りの軟式テニスだが、メンバーたちの団結力が強い学年であった。

その日の午後の練習後、自宅に戻りシャワーを浴びて身体をさっぱりさせる。集合時間は夜の8時だったため、ワクワクしながら部活メンバーとの花火大会を楽しみにしていた。

「夜出かけるんか?」父が快く思っていない表情をしながらこちらを見ていた。

「部活メンバーと花火すんねん!22時までに戻るわ〜」と軽い返事をして家を出る。

夏休みで部活メンバーと花火をするということが後々の思い出になるのと、夜に出歩くということが、ちょっとした不良っぽさを醸し出していたのだと思う。

集合場所に集まったのは総勢20人。各々が花火を持ち寄り、明らかに2時間では終わる見込みのない量の花火がそこにはあった。爆竹、打ち上げ花火、住宅街の広場では禁止とされている。集まったからには、楽しみたいという気持ちが根底にあったのだろう。

最初は可愛いものである。

ロウソクに火をつけて定番の手持ち花火から始まる。気持ちはお祭り状態だ。その流れから吹き出し花火になる。一瞬にして、安全な花火たちは消えていく。残っているのは爆竹、ロケット花火などの広場では禁止されているものばかりだった。

「ピュー!ピュー!ピュー!」

広場の周りの竹林に閃光が走る。メンバーの手には手持ち花火ではなく、ロケット花火だ。勘違いしていたのだろうか。明らかに知っている様子だった。明かりになるものは街灯、ロウソクの火などの淡いものしかなかった。

花火の火を見て興奮していたのだろう。関西人のノリの良さも過ぎると悪ノリなってしまうに違いない。流石にまずいと思ったのか、場所を変えることになる。

「もういっそ、ここで全ての爆竹を使うか!」メンバーの一人が爆竹を集め始める。第一部の悪ノリフィニッシュである。

自分は第二部の会場を探すため、その現場をみることはなく、けたたましい音だけが遠くの方から聞こえていた。

第二部会場は、花火が禁止とはされていない場所で、今では珍しい周りに民家のない空き地だった。すぐさまロウソクに火をつけて、花火の準備をする。明らかに広場ではやってはいけない特大の花火を設置する。

「ドン!!!パラ、パラ、パラ……」

重みのある音が鳴り、一瞬の火花が上空で花開く。都会では禁止事項の多い場所があるため、やってはいけないことをしたという意識はあったのだが、決まりを破ったからこそ見える景色がそこにはあった。

気がつくと22時を回っていた。もうロウソクの火では足りなかったのか、近くにあった木を集めて火力を上げる。キャンプファイアのようであった。門限という概念はそこにはなく、ただ花火をすることが楽しくて仕方なかった。

「やれやれ〜〜!!」一人が今ある全ての花火を火の中に突っ込む。

四方八方から花火が飛んでくる。明らかにまずい状態だったのだが、そんなことはお構いなし。

すると、遠くからオッサンがこちらに向かって歩いてくるのである。見覚えのあるシルエットに驚愕した。

「オヤジ……!!」

その表情はひどく怒った様子であり、なんなら拳が飛んできてもおかしくない状況であった。近くにいたメンバーたちは、消火用のバケツの水で火を消し、あっけなく花火大会の幕を閉じたのである。

帰る方向が一緒だったメンバーに「大丈夫、気にすんな!」と慰めてもらったのだが、家に帰ってから地獄の延長線がはじまる。

両親が向かい側に座り、目の前にあったA4の紙に「今日参加していたメンバーの名前を書け!」と、怒られたくないという恐怖のあまり自分は、その紙に参加者の名前を書くのであった。今でこそマイルドになった父だが、当時は瞬間湯沸かし器だった。

自らの保身のためにメンバーを売ったのである。


次の日も部活のある日だったため、昨日の出来事を赤裸々に話したのであった。

夏がくるたびにあの夏を思い出してリベンジしたい。

過去を変えることは出来ない。ただ『東京卍リベンジャーズ』を読んでから、過去の自分の過ちをやり直せるのなら、主人公の花垣武道のようになりたいと願った。

辛いことから逃げ続けた過去を後悔するも、タイムリープ能力に目覚めて、未来の彼女を救うために「逃げない」と決めた姿勢と、絶対に諦めない姿が、カッコよく見えたのである。

もし、自分が中学2年のあの夏に戻れるのなら、両親から差し出されたA4の紙を破り捨て、「全てオレがやったんや……!そんなメンバーを売ることなんかせえへんわ!!」と、言ってやりたい。

あれから18年の月日が経った。

日々、忙しない日常に自分は「逃げない」「諦めない」という姿勢は忘れていないだろうか。

そんなとき、この漫画を読んで気合を注入している。少しでもより良い未来になることを信じて。


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