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【小説】私は空き家(さぬき市築57年)1

株式会社フル・プラス

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月のきれいな夜。
数日前の熱帯夜がうそのように、今晩は涼しい風が吹いている。
静かな夜である。

昔はこの庭から、ご主人様が中秋の名月を楽しんでおられた。
誰も住まなくなって2年半が経つ。
先月のお盆の時に出ていた「あの話」は、その後どうなったのであろう…


2年前、ご主人様が他界された。
奥様を先に亡くされ、一人でここに住んでおられた。
部屋の中は所々リフォームされ、足の不自由なご主人様が困らないようにと、バリアフリー化されている。

今年のお盆、大阪に住む長男と、東京に住む長女が、片付けにやって来た。

「売却の件は進んでいる?」
と、長女の“ひとみ”さん。

「いや、あちこちに依頼はしているんだが、どこもあまり…
 そもそも問い合わせがないらしい」
と、長男の“あきら”さん。

私は中古住宅として、売りに出されている。

比較的きれいに使われていた事、またリフォーム工事を数年前に行っていた事から、古い建物ではあるものの、汚さは感じられない。
しかし、最寄り駅からバスで20分以上という立地から、なかなか買い手がいないらしい。
近所でも数件売り物件が出ている様子だが、どこも同じような状況だという。
そうして買い手が見つからないまま、2年半の月日が経っている。

大阪や東京からは、この地は遠い。
幸い、ご近所との関係が良好だったご主人様のおかげもあり、ご近所の方々は好意的だ。
遠縁の親戚の方も、すぐ近くに住まれている。

ただ、お墓参りと荷物整理を兼ねて遠方から来られる あきらさん と ひとみさん には、相当な負担が掛かっている。
お二人ともご高齢だからだ。

このまま売却が進まなかったら、私はどうなるのであろうか。
自治体に寄贈することは出来ない。
このままいつまでも放置しておくわけにもいかない。
毎年の固定資産税等、負担もある。

私はお荷物になっている。
お子様たち二人の、負担となってしまっている。
家としての、財産としての本来の役割が失われてしまった。
荷物の片付けをされながら困り顔のお二人がいる。

「今度、大阪でセミナーに行ってくる」
片付けの手を止め、あきらさんが話し出した。

「地方にある実家の活用事例を紹介するセミナーだそうだ。
 個別相談もあるらしいから、何かヒントをもらえるかもしれない」

「ぜひ色々と聞いてきて、教えてね」
あきらさんの話を聞いて、ひとみさんの表情が少し明るくなった。


先月の「あの話」は、その後どうなったのだろう。
何か良い方向への進展があったのなら良いけれど…


2


『私は空き家』とは
「空き家」視点の小説を通じて、【株式会社フル・プラス】の空き家活用事業をご紹介いたします。
※『私は空き家』はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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