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言葉の力で世界を変える【#私の好きな原田マハ】

言いたいことは、簡潔に
大切なのは『心』

かつて毎週月曜日に行われる会社の朝礼が、大の苦手だった。
お偉いさんが話す、今週のスケジュールや会社の業績。振り返りアリ、叱咤激励アリ。
まぁ正直、面白い話などあるはずもない。
だから必要事項だけを3分くらいで、さっさと話し終える上司に、心の中で拍手喝采をおくっていた。

ある時、話の長い支店長がいた。
彼は、普段から雑談好き。人あたりもよく、私自身もとてもお世話になった方だが、朝礼のスピーチだけはいただけなかった。

話が下手なのではない。異様に長いのだ。
「あぁ、もうすぐ終わりそう!」と期待した矢先に、また新たなネタを思い出す。

話すことを前もって決めているのではなく、思い付いたことを、とりとめもなく口にしているようだった。
話は一向に終わらない。
私たち社員は立ったまま、いつ終わるとも知れぬスピーチを延々と聞かされるのだった。
その話は、当時の私には少しも刺さらなかったし、現在の私の頭の中には1ミリも残っちゃいない。

ただひとつ覚えているのは、朝礼のあまりの長さに、女性の先輩が貧血を起こしてぶっ倒れてしまったこと。
彼女がスローモーションのようにくずおれる姿は、今も目に焼き付いている。
慌てた支店長が、急いで話を切り上げた時には、朝礼開始から30分が経過していた。

原田マハ著・『本日は、お日柄もよく』を読んだ。

主人公は、二ノ宮こと葉
お菓子会社に、ゆるっとふわっと勤務するOLだ。思っていることが全部顔に出ちゃう、涙もろくて感激屋さんな女の子。
そんな彼女が運命の出会いを果たすところから、物語ははじまる。

あのひとの操る言葉は、ひとつひとつ、すべてに生命が宿っている。いきいき、きらきらして、まるで目に見えるみたいだ。

彼女が言葉の師匠と呼ぶ人物と、そして天職と呼べる職業との出会いだ。
『スピーチライター』

原田マハのこの作品を、以前から「いい本だ!」と評判を耳にしていたけれど、今回はじめて手にとった。

今まで自分が読んでなかったことを自分に叱ってやりたくなるくらい、『むちゃくちゃいい本』だった。

物語の中、随所に出てくるスピーチのどれもに、思わずうるっとさせられる。
そう、感激屋の"こと葉"じゃなくても。
文章を目で読んでいるのに、音で響いてくるのだ。そして心にもグッと届く。

私がかつて毎週月曜に聞いていた、朝礼のスピーチも、こんなのだったらよかったのに。
大いに仕事にも熱が入ったことだろう。

この本には、言葉を発信することの極意が記されている。

たくさんの言葉に触れること。

発する間を大事にすること。

言葉を受けとる相手に寄り添うということ。

ゆるい仕事に退屈していた、"こと葉"がスピーチをきっかけに言葉の世界に飛び込んで、身なりも考え方も働く場所も、どんどん変化させていく。
文字通り、言葉が彼女の世界を変えた。

言葉で人を熱くし、心を動かしてみたい。

そんな"こと葉"の思いに、読者も引っ張られて、思いもしなかった世界に連れて行かれるのだ。

noteを通して言葉を紡ぐ私たちも。

どこかの誰かの心に響く言葉を生み出せるかも。そんな勇気を与えてくれる1冊だ。


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