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運命の1冊に出会いたいなら【#新書が好き】

切実に、壊滅的に、本との出会いがない。
いや。あるにはあるが、ないのである。

最近、書店でちょっと気になった作品を手にとって、それが思いがけなく面白い作品であった喜びを味わう機会が少ない。

学生時代は、スーパーにでも行く感覚で書店に足を運んでいた。
小さな書店も、そこそこ大きな書店も。
通学路の途上に2、3店舗は存在していて、ここで手に入らなかったら、「じゃあ、あそこまで足を伸ばそう」という選択肢があった。それが今じゃ、別の業種の店舗に変わってしまっている。
書店がないっ!問題がひとつ。

新聞や雑誌の書評で気になった作品は、意外と刊行から時間が経っていて、小さな書店ではまず手に入らない。
比較的、大きな書店でも出版社によっては取り扱っていないこともある。
シリーズものを第1作から遡って読んでみたいのに、最新刊しか棚にないというケースもある。さすがに知らない作品を、4巻から読む気にはなれない。
気になる作品を手に取れないというのが、ふたつめだ。

Amazonを利用するという手はある。
だがAmazonは、元々欲しい商品を検索して入手するには便利だが、こちらが潜在的に欲しいかも知れない作品とのマッチングは不得手だ。
Amazonくん、ありがとう。
キミの気持ちは嬉しいし、ありがたい。
ありがたいけども、私が欲しい商品はソレじゃねぇ。
提案された商品がストライクじゃないってのが、みっつめである。

…あぁ。
まだ見ぬ面白い作品を読み逃しているかも知れない。
その飽くなき欲求は、どれほど積読本が増えようと、気になる本を書評で見つけようと、尽きることがなかった。
私は切実に、本との出会いに飢えている。

岩田徹・著『一万円選書 北国の小さな本屋が起こした奇跡の物語』を読んだ。

20代の頃から北海道で書店を営んできた岩田さんが、書店経営に悪戦苦闘しながら"一万円選書"というオンリーワンのサービスで、危機を乗り越えるに至った半生が描かれている。

"一万円選書"というサービスがあると知ったのは、いつだっただろう。
多分、ネット上のニュースで見たのだろうが、いくつかの設問に答えたら、オーダーメイドでその人に合う一万円分の書籍を提案してくれるのだという。

…オーダーメイド!
心地のいい響き。これだ!と思った。

その後、一万円選書は凄く人気で数千通の応募があり、抽選で当選者が決まるのだと聞いて、応募するのは諦めてしまった。
でも憧れはある。
私も自分にピッタリな選書をしてもらいたい!

何はともあれ、話題のいわた書店さんは、どんな風に選書をして下さるのか、興味があった。

珠玉のブックリストの章は、どこを読んでも読みたくなる気にさせてくる作品のオンパレードである。
小説、詩集、海外文学などなど、さまざまなジャンルで紹介してくれる。

出会うタイミングによって、1冊の本が世界の見方を変え、人生に転機をもたらすことがある。

そうだよ!本には人生に影響を与える力がある!

巻末のブックリストのページも、タイトルや著者名を見ているだけでニヤニヤしてしまう。現在入手可能な作品を取り上げて下さっているのもありがたい。

また、選書の当選者に書いてもらうという、選書カルテの細かさに圧倒される。

自分が印象に残っている本を20を挙げてください。
に、はじまり、
あなたにとって幸福とは何ですか?
という価値観に関するものまで、設問は多岐に渡る。
自分をこんなに深掘りする機会って、あんまりないんじゃないかなぁ。

当選者の人生の軌跡とも言える、カルテを読み込んで下さって選書される。これが人気の秘密だと思う。

その人が望む生き方を肯定し、人生に寄り添ってくれる本を。

そうか。本を探し求めてやまない私は、己を肯定しようとあがいていたのか。
自分の道しるべとなってくれる本を探していたのか。
ストンと腹落ちした。

結局、「答え」はその人の中にしかない。自分で見つけるしかないんです。

人生が大きく好転するようなことって、そうそう起こらない。でもこの本で、岩田さんの半生を知ると、成功(するかも知れない)の秘訣が見えてくる。
どうしたら人に喜ばれるか模索し、愚直に継続する大切さを学ぶことができる。

マイナスにしか思えないことも、プラスに転じる力をもつのだ。

私は、ないものねだりしているだけではないのか。
自分が何を欲しているか、正しく理解できているのだろうか。

自分自身を掘り下げる時がきたのかも知れない。

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