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どうにもくだらない、それでいてかけがえのない夏の1日【#読書感想文】

オトナになると、若かりし日の他愛ない1日がどうにも懐かしく思い出されるものだ。
それは不思議とキラキラ輝いてみえる。

森見登美彦・著『四畳半タイムマシンブルース』を読んだ。

うだるように暑い夏の日、京都の大学生、"私"の下宿先のクーラーのリモコンが、不慮の事故で壊れてしまう。クーラーという冷気を奪われ、うちひしがれる"私"と仲間たち。

蒸し暑い四畳半に半裸であぐらをかき、睨み合って脂汗を生産していたばかりである。無益だ。愚行だ。この世の地獄だ。

そんな中、突如現れたのがタイムマシン(本物だよ)!

そのタイムマシンで、壊れる前のクーラーのリモコンを取ってくれば、暑さがしのげるのでは!?と考えた、おバカで愉快な大学生たちのくだらない奮闘を描いた物語だ。

私は、このリモコンを巡る時間旅行『サマータイムマシンブルース』という作品に、何度も遭遇している。

1度目は、京都の劇団・ヨーロッパ企画の舞台上で。

もう最高にくだらなくて、でもテンポよくって楽しくて、大好きな団体のお芝居だったけれど、この公演でますます好きになった。
タイムマシンで未来からやってくる田村くんが、とぼけた味わいで印象に残っている。

2度目は、映画化作品で。


瑛太上野樹里といった面々が、爽やかに演じて、恋や青春ってカンジでピカピカしていた。映像になると舞台とはまた表現が違ってくるけど、でもやっぱり楽しくて、ゲラゲラ笑いながら観た。
佐々木蔵之介ムロツヨシ真木よう子って、錚々たるメンバーが揃っていて、何気に豪華な作品だったなー。

この他愛ない作品が、なんでこんなにも私を惹き付けるのだろう。

若い頃はできたムチャが、体力的にもうできないからか。
世間体とか常識とかたくさん覚えてしまって、もう馬鹿みたいなことを言えなくなってしまったからかも知れない。

でもこの作品の中では、過去を改変してしまうと、現実世界がなくなってしまう!と気づいた大学生たちの、辻褄合わせの大冒険が味わえる。
炎天下の中を走り回り、あやしむ周囲の人々を誤魔化し、大団円まで導く。
最初「くっだらねー」と思いながら観ていて、「?」と思っていた部分が繋がった時、「!」となれるのが心地よく感じられるのだ。

で、四畳半タイムマシンブルースである。
ちなみにキャラクターは、著者の人気作、アニメにもなった『四畳半神話大系』の顔ぶれである。

既存の作品を自身のキャラクターに置き換えた作品だが、原案の改変がお見事!
登場人物がイキイキとしていて、四畳半の作品ファンにはたまらないだろう。
もちろん四畳半を知らない方にも、馴染める話に仕上がっている。

また舞台や映像作品では、写真がキーになるのだが小説版では映画に変わっていて、これも見せ方がうまい。
タイムマシンブルースにはじめて出会う読者も、これが何度目かの邂逅という読者も、それぞれの楽しみ方ができる作品だ。

ぜひ登場人物と共に、この夏の暑さに辟易しながら読んでいただきたい。水分補給大事!

きっと馬鹿馬鹿しく笑いながら、最後まで読んだ時、全部が繋がった時の爽快感と、"私"の恋の行方が楽しめるにちがいない。

…えっ、今度アニメ映画になるの?

タイムマシンブルースファンとしては、観ないわけにはいかないじゃないか!
まだまだ暑い夏は、終わりそうにない。

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