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それと、生きていく。(父を看取る。その二)


#創作大賞2023 #オールカテゴリ部門

もう今はあなたはいないその静寂 テレビをつけてかき消してみる

味もなく食べたくもないという母に 父の代わりに食べろという欺瞞

桜のように降りくる記憶 雪のように消える時には焼けて痛くて


そしてまた巡る日常 薄氷であふれる爆涙 抱えつつ歩く

悲しみとギルティ 罪悪感が勝つ つまりは己がための悲しみ?

ひと組のトランシーバー 片方をなくしこれからの問いは独り言

酒つまみ買いにゆく 棺に入れるために 燃えるパック入りを選ぶゲンジツ

お棺に入れる手紙を書いて総毛だつ これは自己満足であり改ざんの手段?


じぶんより気づかいできる人のいるありがたさを知る また恐さを知る



緑濃き 焼き場に向かう どこからかあなたはわたしたちを迎えているか

保存され冷たくなった父に触れ 花で埋め行く 花はすごいよ

お骨待ち 想像力をオフにして 我々は おぼつかない会話をつむぐ


ごめんねとありがとう共に混ざりゆく 不安がベースのカクテルのよう


なにもかも茶番であるか 真剣な茶番が人生であるというのか

お骨上げ 泣き吐き気して取り乱す 弱いわたしたち 父ならば赦す

部屋を出て、母親は叫ぶ もう無理だ わたしがさとす 他に誰が?と


延命を拒否してたのにさせちゃって ごめんね、今はそれだけごめんね

淡々とした葬儀屋の頼もしさ 我々は木偶 それでいいのだ
 

非現実感 それだけが頼り 朦朧と 式は進みぬ 夢の中のよう

ものごとの形骸化無意味それに感謝する 究極の時はそれが頼りだ

強さ弱さ いや愛だけだ、残るのは 骨を見るのは、踏み絵でしょうか

知らなかった 死体も骨も恐いのに 近親者ならば地続きなのか

じぶんのベターハーフが焼かれモノになる恐怖を思う わたしはぜひ、長生きはすまい


しゅぅという、ため息のような音を立て壺に入りゆく父の骨たち

無音無臭無痛の爆撃受けたみたい 我われは じぶんの孤独と死に対面す


また今度 ぼんぼやーじゅね 一人ひとり 難破船かもしれず 助け合おうか

横顔で海見る写真を選び遺影にした 父のひそかな自己愛を知る


しぼんでる母の膝の上にある骨壺は 母を励ませ、そして守れと告げる


膝の上の骨壺に添える母の手は 悲しみの手の模範のごとく

環を閉じて月に還りぬ人は皆 たまゆらの生のあと、みたまとなって


悲しみが骨の髄まで染みたなら 我が一部となる それと生きていく


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