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驚きの明治工藝

台湾人コレクター、宋培安による明治工芸のコレクションを見せた展覧会。いわゆる超絶技巧を凝らしたそのコレクションの総数は、金工や牙彫から、漆工、陶磁、七宝、染織まで、じつに3,000点あまり。本展はそのなかから厳選した約130点を展示したもの。なかでも見どころは、全長3メートルを超える世界最大の龍の自在置物で、それを空中にぶら下げて展示することで、その迫力を倍増させて見せていた。

ただ、昨今の明治工芸再評価の気運のなかで催された「小林礫斎 手のひらの中の美~技を極めた繊巧美術~」(たばこと塩の博物館、2010)、「超絶技巧! 明治工芸の粋」(三井記念美術館、2014)や「没後100年 宮川香山」(サントリー美術館、2016)などと比べると、本展が若干遜色して見えたのは否定できない事実である。本展には古瓦の上にとまった一羽の小鳩を主題とした置物が展示されていたが、これが正阿弥勝義の名作《古瓦鳩香炉》を念頭に置いた作品であることは明らかだ。そして双方を比べると、形態の美しさ、物語性と叙情性、そして機能性、あらゆる点で前者より後者のほうが優れていることは誰も否定できないはずだ。

超絶技巧の面白さと難しさは、それらが造形の絶頂を極める技術を研ぎ澄ますがゆえに、ただひとつの絶頂以外の作品をおしなべて中庸に見させてしまうという点にある。例えば宮川香山の高浮彫を見れば、その他のあらゆる陶芸は浅薄に見えることを余儀なくされるし、安藤緑山の前では、いかなる牙彫といえども物足りない。明治工芸だけではない。現在においても、雲龍庵北村辰夫による蒔絵や螺鈿、杣田細工など、あらゆる技術を費やした漆工を目の当たりにした後では、どんな輪島塗でも下準備の段階に見えてしまうし、雲龍庵とは対照的に、装飾性を排除しながら漆そのものを自立させる「漆工のモダニズム」を追究している田中信行の鋭利で洗練された作品は他の追随を許さない。

だが、こうした超絶技巧の属性は、じつは芸術の本来的な性質そのものではなかったか。それは、こう言ってよければ、一人勝ちの論理に則っているのであり、その意味で言えば、じつに非民主的かつ反平和的、言い換えれば無慈悲な文化なのだ。

初出:「artscape」2017年7月1日号

驚きの明治工藝
会期:2017年4月22日~2017年6月11日
会場:川越市立美術館

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