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しなやかに怒りたい

カフェでの写真撮影で考えた、怒ることの意味。


あるときバスに乗っていて、公園の脇にひっそりと白い建物がみえた。鋭角の大きな窓があり公園の木々を借景にして中では人がくつろいでいた。六角形のような変わった形で、建物の構造が窓越しに透けてみえる。

すぐにブザーを鳴らし次のバス停で降りた。

そこはカフェだった。中央にカウンター、取り巻くように放射線状にテーブルがあった。光が白い家具に反射して明るい。半地下と中2階にもテーブルがあり、どこに座っても良いと思うと自由な感じがした。2階には雑貨や絵がギャラリー風に展示されている。

聞いてみるとそこはバックを中心に雑貨を販売する会社のビルで、1階はカフェ、2階から4階は事務所とのことだった。

コーヒーを飲みながら感心していた。"素敵だなぁ。会社のビルをこんな形で地域に開くなんて。普通の公園の隣にセンスの良いカフェがあって日常が豊かになるな。" 経営者の心意気にいたく感激しながら、気持ちよく本を広げていた。

その時おもむろに騒がしくなった。20人位の集団が中に入ってきた。どうやらヨーロッパからの観光客のよう。10代から60代位まで幅広かった。一行は注文をせず写真を撮り始めた。自撮り棒を伸ばしてポーズを決めたり、歩き回って一眼レフに収めたり。階段に座ってしゃべりこむ人あり、持っていたペットボトルでコーラを飲む人もいた。

ハラハラして店員の顔をみたら、若い男の店員が苦虫をかみ潰したような顔をして立っている。気が気じゃなくなって、頼むからドリンク位注文してくれ、と願うように観察していたが、注文したのは3分の1位だった。店員は注文に応えた後、いかにも不服そうな顔で写真撮影とおしゃべりに興じる集団を眺めている。

彼らが帰ったあとすっかりコーヒーが冷めてしまった。店員の表情が忘れられない。気持ちよかった感覚がいきなり踏みにじられて、悲しくて無力感が込み上げた。

しばらくたって、別のカフェに行った時、くしくも同じようなことが起こった。そこはアジア風のインテリアで統一された小さなカフェだった。ポットから紅茶を注いでのんびりしていると、急に扉があき「カシャッ」と音がしてまた扉が閉まった。振り向くとカメラを下げた大柄のソバージュの女性が過ぎていく。

すぐに店主の声が聞こえた。「おいっ。勝手にあけて写真だけ撮っていくっておかしいだろ。断りもなしに写真だけ撮っていくって失礼だろ。」と日本語は通じていない相手をつかまえてかんかんに怒っていた。相手は小さくなって、ごめんなさいといったことを伝えている風だ。

それを聞いて溜飲が下がる思いだった。どんなに客に聞こえようとも、店主がすぐ怒ったことに好感をもった。大切にしている場所だからこそ、適切に扱ってほしいと思うのは当然だ。それをすぐに行動で示したことが鮮やかで気持ちよかった。

ふと、以前のカフェでの出来事を思い出す。あの時私は店員に怒ってもらいたかったのだ。その場所が好きだったからこそ。

怒るって難しい。旅行中だから記念に写真を撮りたいよね、もしくは、旅行客にはカフェだってわからなかったのかな、と相手の事情を考えてしまうし、なにより感情をぶつけるのは怖い。

でも、敬意が払われていないと思うなら、あまり考えずに即座に声をあげればよい、体が反応したという位にすぐに。適切だと思う一線を踏み越えてきた人には不快感を伝える。相手を懲らしめるためではなく自分の大切なものを守るために。そうやってどう扱ってほしいか相手に伝えることで、守りたいものが育っていく。そうして守られたものの中で自分も他人も安らぐのだ。

気負わず、我慢せず、しなやかに怒るのは大事なことだなと思う。

  

    

2階から上は、鞄やトートバックを作っている会社のオフィス

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