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一人ひとりの消費行動の変化が、今を変える

前回の中川政七商店の紹介記事の際に日本の工芸の現状についても触れさせて頂きました。

多くの方が想像してる通り、日本の繊維産業についても状況は同様です。今回は主に存続の危機に直面している日本の縫製業の現状について紹介させて頂きます。

輸入品の激増と国産の危機

現在の日本の衣料品の年間流通量は約38億点です。約30年前と比べおよそ倍増しました。同期間の人口はいずれも約1.2億人と大きく変化していません。一方で、売上額はおよそ70%にまで落ち込んでいます。

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「流通量は増加しているのに売上が減少している。」

一見すると不思議な現象ですが、これは衣料品の単価が安くなっていることが主な原因です。なんとこの30年間で衣料品の平均単価はおよそ半分になっています。

これは安価なモノづくりを目的とした海外生産へのシフトによるものです。

その中で、日本製の商品は全体の2%程度まで落ち込みました。点数ベースで見ても全盛期には10億程あったのが、今では1億点以下にまで減少しています。

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まさに日本の縫製業は存続の危機に直面しています。

海外生産は持続可能か

そうは言っても衣料品の流通量自体は増えています。

このまま海外生産に任せておけば問題ないと思えるかもしれません。

しかし、安価な労働力に頼った海外生産は今後も安泰といえるでしょうか。

かつての日本がそうだったように、今の生産基地となっているいわゆる新興国もいずれは経済的に成長を遂げます。

まさにその一例が中国でしょう。上海の物価の上昇は著しく、賃金(所得)をとっても30年前から約15倍になっています。縫製工場があるような田舎の地域は上海ほどのペースではないにしても、賃金が上がっていくことは間違いありません。

中国の賃金高騰の対策として2010年頃から推し進められているのがCHINA+1というASEANへの進出です。しかし、ASEAN諸国の賃金も中国と同じくいずれは高騰します。

一方で日本は長期的なデフレに陥っています。最近、安いニッポンというショッキングなタイトルと内容の本が話題になった程です。

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20~30年の間ではないにしても、海外より日本の縫製賃金の方が安くなる。そんな日が訪れる可能性は十二分にあります。(少なくとも海外生産の輸出入に伴う貿易経費を鑑みれば)

日本が見放される日

日本が海外での生産を維持できない可能性がある理由のもう1つは生産ロット(発注数)の維持が難しいことです。

多くの方がご存じのように日本の人口は減少傾向にあります。

それだけでなく、人口に占める高齢者の割合が高くなっていきます。消費の中心を担う世代は人口総数の減少以上の割合で減っていくのです。

そうすると当然必要な服の生産数量は減ります。

また、それだけでなく今の現状ですら作り過ぎが問題になっているのです。アパレル業界の大量生産/大量廃棄は今や社会問題の1つになっており、そういったニュースや記事などを見たことがある方も少なくないと思います。

前述の通り、現在日本では年間に約38億点の衣料品が流通していますが、日本における衣料品の年間購入の平均数は18着です。これでは約半分の商品は残る計算になります。

服屋の店頭を維持するためには商品在庫が必要なのはたしかですが、これはあまりに多すぎます。

この在庫は当然メーカーの経営状況をも圧迫するので、アパレルメーカーも適正在庫へ向けた取り組みを進めています。

つまり、これから先の人口減に関わらず、日本の生産ロットは減少していく見込みであるということです。

「生産量は減っていくのに、工賃(価格)は上げてもらえない、おまけに品質に関しては世界一厳しい」

この状況を海外の縫製工場側から見るとどう感じるでしょう、少なくとも積極的に営業をしていく必要はないと思いますよね。

そうは言ってもまだ日本の人口は世界でも上位です。すぐにということはありませんが、いつの日か海外の工場から見放される日がくるかもしれません。

消費行動の変化が世界を変える

果たして今のアパレルのモノづくりの体制はこれから先も続けていけるものでしょうか。

もし海外生産の安価な大量生産が限界を迎え、日本で適正価格の商品を適正数量つくろうと思った時、日本でモノづくりを再開することは可能でしょうか。このままではきっと難しいはずです。

自分たちが働いている間は問題ないかもしれません。でも、自分の子供や孫の時代はどうでしょう。そんなことは起きるわけがないとは断言できないはずです。

ここまでアパレルの生産体制の問題があるような内容になってしまいましたが、僕たち消費者にも問題はあったはずです。

安くて品揃えがいいことは大歓迎ですし、その状態が当たり前になり、そうでない場合は不満すら感じるようになっていたと思います。

消費者のニーズがあるから企業も現状を簡単には変えにくいという事情があるはずです。企業である以上、社員に給料を払い続けるためには売上/利益を追求しないわけにはいかないからです。

だからこそ消費者の要望や行動が変われば、企業も変わりやすいはずです。一人ひとりの消費行動の変化がいずれ世の中を変えるはずです。

何も購入する服の全てを日本製にとは思いません。デフレが続き所得も上がっていない日本でそれは難しいはずです。さらに日本製の服は現状では年間に1億点も流通していないので、そもそも生産数的にもほぼ不可能です。

では「1年にたった1着」ならどうですか?

例えば「買う服の総数を少し減らして、少し高くても日本製の服を年に1着は買う」これならできそうですよね。みんなで行動すればきっとそう難しいことではありません。

長くなってしまいましたが、皆さんの行動のきっかけに、まずは現状を知って頂ければと思います。

服が好きで、ファッションが好きだから、世の中や業界のあり方が少しずつでも変わっていくと嬉しい限りです。


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