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センスや経験則よりも優先すべきもの "ワークマン"

前職の繊維繊維商社時代に僕が所属していたのはメンズの製品、主にスーツやジャケットやスラックスを扱う部隊でした。

その為、ユニフォーム業界であるワークマンについて詳しくはありませんでしたが、とある商品のリリースをきっかけに無視できない存在になりました。

「セットアップ上下で5,000円以下・・・」

たしかに衣料は年々安くなっていますが、これは流石に驚きました。とくにジャケットの2,900円はちょっと引いてしまう程でした。

商品も見に行きましたが、縫製面も一般的なカジュアルセットアップと遜色なく、生地にはTEIJINのSOLOTEXが採用されていました。

「生地のコストもそう安くないはずなのに一体どうやって・・・」というのが当時の感想です。同時にワークマンとは一体どんな会社なのだろうと思い、手にしたのが本書です。

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本書を読んだのも1年前なので今更感はありますが、今でも大切にすべき考えが学べるので、今回は本書の内容を通してワークマンの変化と成長について紹介していこうと思います。

ワークマンとは

1980年に群馬県で創業した職人向け作業服専門店で、有名なホームセンターのカインズを有するベイシアグループに所属している企業です。

今や全国各地に広がり、店舗数は900店以上もあります。

職人向けということもあり、朝現場に向かう道中にも寄れるように朝は7時から営業している店舗がほとんどです。

ワークマンを変えた男

当初のワークマンはTHE 職人向けの作業服でした。

ある男の入社をきっかけいにその状況も変わり、急成長へと動き出しました。それが、土屋哲雄氏です。

創業者の甥にあたり、元は三井物産で商社マンとして勤務していました彼が起こした変革の代表的な2つが"PB化"と"データ経営"です。

まず、当時は社内で在庫がタブーとされていたPB化に踏み切りました。要するに自社ブランドをつくったということです。

一般的に自社ブランド(PB)を生産する方が他ブランド(NB)を製品仕入するよりも在庫リスクが伴います。土屋氏も最初はクビを覚悟で創業者にも黙ってはじめたと記されています。

徹底的なデータ経営

PB化の売行きは良く出だしは好調でしたが、在庫リスクを伴うことに変わりはありません。

そこで次に着手したのが徹底的なデータ経営です。

これは同社だけではなく今の業界全体にも言えることですが、アパレル業界では感覚やセンスという言葉が必要以上に力を持ち、バイヤーの経験則や勘に頼った判断が横行しています。

当時のワークマンも発注の判断材料となるデータがほとんどない状態だったようです。この状態を変えるために土屋氏は動きました。

なんらかの管理システムやAIシステムを入れるのではなく、社員をエクセルの達人へ育てる方法を取りました。講習を徹底し活用させるように促すことで、全社で活用されるようなエクセルの便利ツールも生まれたようです。

では、なぜエクセルなのか。土屋氏はこう答えます。

「AIはすぐに結果を教えてくれるから社員が考えなくなってしまう。AIは”相関関係”を見つけることは得意だが、”因果関係”までは教えてくれない。社員のデータリテラシーが高まってからAIの導入を検討する」

要するにAIは”ある商品がどの層によく売れているか”を見つけ出すことには長けているが、それが"なぜなのか"は現状人間が考える必要があり、まずはその力を鍛える必要があるということです。

また、驚きなのは同社がそのデータを取引メーカーに開示しているということです。そうすることでメーカー側が数量と時期を決めて生産し、同社はそれを一括引き取りするとあります。

メーカー側にもワークマンの担当営業がいるはずなので、さすがに相談や報告もなしに生産に入ることは無いと思いますが、それでも異例な手法です。

インフルエンサーと大躍進

今や同社のインフルエンサーとの商品開発は広く知られていると思います。

このきっかけになったのもデータ経営でした。

インフルエンサーのSNSでの発信をきっかけにバイカーにレインウェアが、登山家にメリノウール ソックスが売れていることを発見し、同社は適切な用途を提案できておらず潜在客を取りこぼしてしまっていたことに気付きました。

それをきっかけにワークマンのインフルエンサーを製品開発アンバサダーにする試みがスタートしました。冒頭で紹介したセットアップもインフルエンサーとの共同開発商品の1つです。

また、開発した商品を身にまとってインフルエンサーが同社のショーに出演することも話題の1つですね。

同社が従来備えていた"安くて高機能"という武器に"体験や共感"が加わったことが急成長の起爆剤となりました。

特定の人の感覚や経験則よりも目の前のデータを判断基準とし、変化したことがワークマンの急成長の大きな要因だったのだと思います。




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