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幸せの天秤

このストーリーは、あるアイドルの魅力をPRするために描いたアイドルPRフィクションストーリーです。

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「クミ、そろそろ自分の幸せ、大切にしたら?」

2020年7月3日、ママに言われた一言が私の頭の中を駆け巡る。

昼間のまぶしさが消え、公園のぬかる道を一歩一歩踏みしめて、私は私に何度も問いかけた。

「そろそろ自分の幸せ、大切にしたら?」

今まで、ママは私にあれこれ言わない人だった。

やりたいことは明るく受け入れてくれて、
かなしいことは優しく聴き入れてくれた。

そんなママが昔から大好きで、
受験の時も、彼氏ができる時も、就活の時も、ママに報告した。

だから、

「私、起業したい!」

と言った時に返ってきたママの一言はとても衝撃的だった。けれど同時に、きっと、ママは私のことを想って言ったんだろうと思うし、ママの気持ちもなんとなくわかって、私にとっての正しい答えが分からなくなった。

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私は、結婚式に代わるブライダルサービスを作りたかった。

2020年になって、学生時代の仲良しグループLINEから、ピーロン!ピーロン!と怒涛の結婚報告ラッシュでスマホが鳴り響いた。

私も27歳だし、、、と少し焦りを感じざるおえない。。。。

って、そんなこと微塵も思わず、

ただただ嬉しかった!

大好きな友達が、
大切な人と一緒になるなんて、
みんなの幸せを想像したら、
私も幸せな気持ちでいっぱいになった!

昔から、誕生日だったり、昇進祝いだったりあると、「アナ雪」や「前前前世」など当時の流行をパロディしたお祝い動画を作って、みんなを楽しませていた。

誰かの笑顔、誰かの幸せが好きだった。

誰かの悲しい顔、誰かの不幸が嫌いだった。

だからこそ、GW頃になって、結婚式の中止・延期の連絡が、ぴろん。ぴろん。と鳴り響くあの日々がものすごく嫌で嫌で、何度も目を湿らせた。

悲しい表情なんて見たくない。

みんな幸せでいてほしい。

そんなことを想っていると、「起業」が頭の中からふと浮かんだ。

私は、銀行で法人営業をしていることもあり、大手企業からベンチャーまで、さまざまな経営者の方と接する機会が多く、起業の話を色々聞いていたせいか、起業という選択肢が自然と出てきた。

知り合った経営者の方から色々な知見やツテを借りたり、会社の同期を誘ったりしながら、結婚式に代わるブライダルサブスクサービス(*1)の立ち上げを目指して、本業しながらも、猛スピードで準備に走り回った。

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そして、サービスリリースがいよいよ明日に迫った2020年7月3日。

午後5時、恵比寿駅近くにある、ママとよく行くカフェに入った。

いつものアイスコーヒーが来た瞬間、

乾いた喉を一気に潤し、ママに言った。

「ママ、私ね、起業したいの!」

「結婚式に代わる新しいサービスを立ち上げたいの!」

店内は、久しぶりの明るい光に誘われた笑い声が溢れていたけど、エアコンが効いていて少し肌寒かった。ママのアイスコーヒーの氷がゆっくりと溶けて、カランと音が鳴り、コップの水滴がコースターに染み出した。

「クミ、そろそろ自分の幸せ、大切にしたら?」

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太陽が隠れ、突然降り出す雨でぬかるんだ道を一歩一歩足を出して私は何度も自問自答した。

大切にすべきなのは、自分の幸せか?

誰かの幸せか?

誰かの幸せが自分の幸せか?

自分の幸せが大切なママの幸せか?

どうすべきなのか分からない。

分からない。。。。

頭の中も、歩く道も、最終地点はなく、
傘から垂れる雨粒をスカートに染み込ませながら、ただ歩く。

渋谷橋という大きな交差点を越えると、
黒い建物のそばに、たくさんの傘がうごめいていた。

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「IDOL come back FES公演中です!!!」

どうやら、女性アイドルのライブフェスティバルがやっているようだ。

見たこともない、かわいらしい女性の笑顔がたくさんポスターに映っていて、見たこともない、老若男女の人だかりがマスク越しの笑顔で溢れていた。

彼女たちの笑顔がかすむ。

彼らの笑顔がかすんでいる。

きっと瞳にも雨粒が染み込んでいるせいだと思いながら、自分の目を拭っても、笑顔がかすんでいて、自分の服が濡れている事実が分かっただけだった。

「ちょっと入って、雨宿りしようかな。。。」

雨宿りを言い訳に、私のことを誰も知らないそのライブ会場に入り込んだ。

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ちょうど売ってあった少し高いタオルを3枚買って、会場の一番後ろに立った。

誰かの涙を拭うように、
自分の涙を拭うように、
自分の服をタオルで拭っても、
タオルが濡れるだけで終わる。

会場は、休憩時間なのか、少し明るくて、自分の状態が他の人からもよく分かるのが少し恥ずかしかったが、そこにいた人たちは、心の中で拍手を続けていて、私なんかに目を向きもしていないようだ。

「もう数枚買ってこようかな。。。」

3枚目のタオルを使っても濡れた嫌な感触が取れなくて、ステージの反対側に足を向けようとした時、

突然、会場暗くなった。

ステージの方に目を向けると、

楽器か機械かの小さな光だけが見える。

暗くてほとんど見えないが、二人の人影がステージの右手から現れる。

ひとりの人影は、
小さな光の前に立ち止まり、
興奮した鼓動のような機械音が鳴り始めた。

ステージが青い光でほんのり照らされると、
もう一人の人影はマイクの前に立ち止まる。

ふたりの頭上に柔らかい光が照らされ、歌声が響き始めた。

まあるい髪型をした、背の小さい女性は、左手にマイクを、右手にマイクスタンドをしっかりと握りしめて、誰かの嘆きなんか吹き飛ばす声で歌い叫んでいた。

「どうもー!NaNoMoRaL(ナノモラル)です!
 ハジマルという曲で始めるよ〜!
 会場の後ろの人も届くように!!」

走り抜けるような軽快な音楽と共に、

ステージの上の彼女の表情が、

一粒の水滴もない真っ直ぐな笑顔に変わる。

ステージの中央にある小さな台に彼女は立ち、

右手を会場のみんなに向けて、
言葉を差し伸べ、

左手に持つマイクに向けて、
歌を届けている。

「この子、アイドルなの?」

今までテレビとかSNSで見てきた女性アイドルとは全く違うアイドル。

夜に垂れた水滴のような黒い衣装を纏い、
白い上履きみたいな靴を履いた小さい女性が、
たった一人で歌っていた。

そんな彼女に目を奪われていた次の瞬間、心がどよめいた。

ステージの前にきて歌い始めたもう一人は、

眼鏡をかけた男性だった。

「このグループ、アイドルなの!?」

個性を詰め込んだ太陽のシンボルがついた黒いシャツを着た彼は、

会場のみんなのために、
左手で言葉を包み込み、

右手に持つマイクに向けて、
歌を届けている。

服が濡れていることなんて忘れてしまうくらい、今まで一度も見たことない光景に私はただ1秒たりとも見逃したくなかった。

ここは、女性アイドルのライブだよね!?
このグループは本当にアイドルなの!?
女性アイドルは女性が歌うんじゃないの!?
アイドルは歌って踊るんじゃないの!?

アイドルってなんだっけ!?

彼女らは、今まで勝手に抱いていた「アイドルってこういうもの」という定義を粉々に握り潰して、こんな歌詞でその曲を歌い切った。



"本音を隠すなんて バカだよな" *2



音楽が鳴り止むまで、
彼女は一人ひとりに伝わる満面の笑顔を届けた。


その笑顔を見た時に、


私は、、、



このアイドルはアイドルなんだって分かった!

見た目とか何かの定義とか関係ない!
笑顔になってほしいって想い!
この想いを持って歌う!

これがNaNoMoRaLというアイドルなんだ!


そうか! 

この感情なんだ!


27歳だから何をすべきか?

そうじゃない!


女性だからこうすべき?

そうじゃない!


私が何を想いたいのか?

ただそう問いかければいい!


今、何を想っているのか?

ただそう問いかければいい!


私は私が決める!

それでいい!


私は、会場を後にした。

雨はすっかり止み、

はっきりと月が見えている。

左手に持つスマホに向けて、

私はママに言った。

「今の私は誰かの幸せを大切にしたい。
 今の私はそう思っているの。」

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終わり。

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【今回ご紹介したアイドル】

・NaNoMoRaLという男女二人組アイドル
・2018年結成
・メインボーカル:雨宮未來さん
・メンバー兼楽曲制作兼プロデューサー:梶原パセリちゃん

・Twitter(グループ)
https://twitter.com/NaNoMoRaL_info

・Twitter(雨宮未來さん)
https://twitter.com/amamiya_miku

・Twitter(梶原パセリちゃん)
https://twitter.com/K_PaseliChan


*1: 参照記事

*2: 歌詞一部引用 NaNoMoRaL「ハジマル」


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