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ヒトパピローマウイルス

“ヒトパピローマウイルス”をご存じだろうか。すごい名前である。
今、カタカタとキーボードで文字を打ち込んでいる私の右手の指に住み着ているウイルス、それがヒトパピローマウイルスだ。

もう何年前か忘れたが、ある日、私の右手薬指に直径二ミリぐらいの小さなイボを発見した。
この時の私は、「まぁこんなイボもできることがあるだろう、人間だもの」と軽い気持ちでスルーしていた。

それから半年ぐらいして、初めて自分のイボの異変にきずいた。
「あれ、人間の指にこんな大きなイボってできたっけ?」

時間たてばなくなるだろうと思っていた指のイボが直径6ミリぐらいまで成長しているのである。さすがに日々の忙しさにかまけて自分の身体に無頓着になっていた私もおかしいと感じた。            

私のイボの中で何かが進行している…

すぐにグーグルで「指 イボ」で検索した。どうやら私のイボの原因は“ヒトパピローマウイルス”というウイルスらしかった。

ヒトパピローマウイルスとは、そこらへんのいたるところに存在するウイルスらしく種類もたくさんあり、小さな傷口などから体内に侵入してイボを形成するものあるというのだ。

私はその名前の頭に“ヒト”とついてるウイルスに、人の顔をした小さなクモような生き物の想像した。その生き物の集団が私の指の中で集団でうごめいているのだ。

私は恐怖を感じた。今まで私の中の優先度が最下位近くにあったイボ案件はこの瞬間に一気に最重要案件まで跳ね上がった。

私はすぐさま病院へ向かった。


家の近所にある皮膚科で、やさしそうな50代ぐらいの女性の先生が診察してくれた。
半年以上も放置していたので、先生から「ここまで大きくなるまで放置するなんて駄目じゃないの!」とお叱りのひとつもうけるんじゃないかと思っていたが、
「あ、イボね」と軽いリアクションをされて、私と先生との温度差に、さきほどまでぐんぐん上昇していた私の心の温度は徐々に下がっていった。

「そうなんです、イボなんです」とアホみたいな返事を私は返す。そんな私に温度の低い先生は冷静に「じゃあ、焼きましょうか」と温度の高い言葉をサラッと言った。

その言葉を聞いて再び温度が上昇する私をよそに温度の低い先生はマイナス200℃という究極に温度が低い液体窒素というものを持ち出してきた。液体窒素って、あの無敵のターミネーターを倒すために使うものである。ここにターミネーターはいないよ、先生。

「少しだけ痛むけど頑張ってねー」と相変わらず温度の低い励ましとともに、先生は綿棒を液体窒素に浸し、私の右手を掴むと、肥大したイボに綿棒を擦り付け、じわじわとイボを焼いていった。

私のイボの中にいる小さなターミネーターの顔した生き物たちが焼け滅んでいく姿が思い浮かんだ。

治療はなかなかに痛かったが、先生に“少し”と言われてる手前、世間ではこの痛みを“少し”と認識しているのかと思うと大の30近くのいい大人が痛がるわけにもいかず、平静を装うしかなかった。

痛みに対する感受性は人それぞれなのでこれからはやる前に「かなり痛むけど頑張ってねー」といってほしいものだ。それはそれで怖いか…。

私の話は長いが実際の診察は10分もかからなかった。いともあっけなく終わり、治療から数日後、私のイボはカサブタのようになってきて、ある日、ポロっと取れた。

私が小さなターミネーターたちに勝利した瞬間であった。

先生には、二週間後にまた来るように言われていたが、勝利を確信した私はそれから病院にはいかず、先生の忠告を無視した私の指にはまたイボがある。

どうやら、治ったようにみえても、ウイルスが残っている場合があり、完治するまできちんと治療を続けなければいけないらしい。
今も定期的に病院に通っているが、自分の行きたいタイミングでしか行かない私のイボはなかなかなくならない。

見た目が気持ち悪いぐらいにしか今のところ害は感じないが、もし自分の指にイボを見つけた方は、ほっとかずにすぐに病院で治療してもらうことをおすすめする。

治療も“少し”しか痛まないので頑張っていただきたい。

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